「…さて、俺もお仕事するとしますか」
旧校舎の屋根の上で一誠は呟く。
分身の一体が目くらまし役として小猫と共に行動しており、もう一体がドライグを宿して小竜の姿となってリアスの傍に留まっている。
このゲームにおいて、ライザーが出てくるまでの彼の役目は撹乱と遊撃である。とりあえず、小猫と共にいる方の分身のタネが割れるまでは認識阻害も使って本体位置と存在は隠す予定である。
「八人分の働き、か」
リアスは僅かに困ったような顔をして呟く。
一誠は八つのポーンを使って転生した。故にポーン八つ分の働きをするのが当然なのだと彼は言う。リアスは、そこまでは思わない。そもそも、ポーンを一人に一個使うというのが少数派である。大抵は量より質を望むのである。…八つというのは流石に多いだろうが。
「アイツはそもそもワーカホリック気味なんだ。八人分、なんてただの口実だろうよ」
ドライグが退屈そうにそう言って欠伸をする。その意見をリアスもわからないではない。一誠の他者奉仕傾向は並外れている。本人はそれを異常と思っていないことが異常なレベルだ。
「あなたから見てもイッセーは異常なの?」
「少なくとも、俺はあいつのような人間を他に知らん」
狙撃において一度で仕留めなければならない理由は大きく分けて二つある。
まず、第一に二撃目以降は不意打ちというアドバンテージが失われるから。
第二に、射線から己の位置がバレてしまうからである。
ならば、その攻撃が何処から行われているのか、全く悟らせない正体不明のものならどうだろうか。
一誠にはそれができた。魔術を手元から撃ち出すのではなく、相手のすぐ傍で発動させることが。
「…これで三人」
ライザー側の駒の脱落がアナウンスされる。既に相手方の
現在、祐斗、小猫、分身の三人がライザー側の
「おや。たしかお前、こっちの
「正直なところ、こちら側であなたを倒せるのは俺だけでしょうからね。あなたが部長を狙ってくると思って張っていました」
「そりゃ、随分な自信だな。悪魔になったばっかのひよっこが、俺に勝てるって?」
「悪魔になる前に戦闘能力がなかったわけではありませんから」
一誠は念話でドライグにリアスとアーシアを連れて祐斗たちと合流するように伝える。念のための措置である。場合によっては、戦闘の余波で旧校舎が壊れないとも限らない。
「それに、不死の怪物の対処法なら、いくつか知っていますから」
一誠はにっこりと笑って手元に光の槍を作り出す。ライザーも手元に炎の剣を作り出した。
「…そうか、そんなに死にたいなら殺してやるよ」
「何故、倒れない…!」
「存外粘るんですね。痛みがないわけでもないでしょうに」
互いに、受けた傷は瞬時に回復する。ライザーは不死鳥としての特性から、一誠は分割思考の一つで常に展開している自己回復魔法の効果である。もっとも、ノーモーションで展開されるそれが魔術によるものだとライザーは知らないが。
ライザーには、一誠が得体の知れないものに見えていた。それを見て取り、一誠はニィ、と笑う。ライザーの本能が警鐘を鳴らす。
「今、恐怖しましたね」
「俺が、お前を恐れるわけがないだろう」
「おや、俺を恐怖することになる可能性があるんですか。敗北することではなく?」
「俺が負けることなんて、それこそありえない!」
「ありえない、なんてことはありませんよ。世界に絶対のものはありません」
一誠は手にした剣を指揮棒のように振り上げる。
「
一誠の指揮にあわせるように幾つもの魔術が発動しライザーに襲いかかる。
「くっ」
ライザーは迎撃を試みるが全てを防ぐことはかなわない。
「耐えますか。では、
ライザーの躯がリタイアの光に包まれる。転送されるライザーに一誠はにっこりと笑みを浮かべて言う。
「思っていたよりもフェネクスは丈夫なんですね。今度からはもうちょっと威力を上げて挑むことにします」
それは、考えようによっては褒め言葉ではあったが、そもそも、前提として相手を格下に見ての発言でもあった。彼にその自覚があるかどうかはその表情からは読み取れないが。
ライザーの脱落がアナウンスされる。リアス陣営の勝利が決まった瞬間だった。