授業が終わった後、悪魔として活動を始める夜になるまでの時間に皆で修行をするというのが此処最近の定番になっていた。グレモリー眷属の中に一人だけシトリー眷属の匙が入っているのはご愛嬌、といったところだが。
その日は、祐斗と朱乃がリアスと共に用事で出かけた為、その場にいたのはそれ以外の眷属…一誠、小猫、アーシア、ギャスパー、ゼノヴィアと匙である。更にそれぞれの使い魔なんかもいたりするが。
「も、もう無理ですぅ~」
「弱音が吐ける内はまだ大丈夫だよ。これぐらいでへこたれない。ギャスパーには目標があるだろ?」
「そ、それはっ、そうなんですけど…」
「ギャー君、走り方が無様」
「もっとペースを上げた方がいいか?」
「もうちょっと増やしても大丈夫かな…」
「怪我をしても私が責任持って治しますから、安心してくださいね」
「み、皆さんスパルタすぎですぅ~」
カオスである。
「ふーん、
「敵情視察ってやつですか?堕天使の人」
「いや、単純に好奇心だ。俺の趣味は神器の研究でね。…聖魔剣は…いないみたいだな」
「まあ、確かに彼の剣が珍しいのは俺も同意しますけど。ドラクエで言ったらメドローアみたいなもんですし。…今のところ俺には真似できないし」
一誠にはあの聖魔剣というものの在り方がイマイチ理解できない。だから再現できていないのである。単純に両手で正反対の力を使うことはできるが。
「ふーん。あ、そういや一応聞こうと思ってたことがあるんだが」
「何ですか?」
「お前、赤龍帝の籠手以外の神器も持ってるのか?」
「持ってませんよ。ちょっと変わったことができるからって、神器や特殊能力と決め付けるってのは、短絡的なことだと思いません?自分ができないからって相手もできないとは限らないわけですし」
「お、おう…」
「…すいません、つい。努力して手に入れたものと
「…いや、確かにこっちも不躾なことを言っちまったな。悪い」
「兵藤、そのおっさん知り合いか?」
「ああ。最近知り合った堕天使の人。多分偉い人だけど、名乗られてないから誰かは"知らん"」
まあ、ヴァーリがアザゼルと呼んでいたのでグリゴリ総督のアザゼルなのだろうが。
「…は?」
「
「え、は?!アザゼル?それって堕天使のトップってことなんじゃ…!」
「あれ、謎のおじさんごっこは終わりですか?アザゼルさん」
「お前さっきから俺に辛辣だな赤龍帝」
「辛辣?」
きょとん、と一誠は首を傾げる。
「お、おい兵藤、相手は堕天使のトップだぞ」
「どうせこの人公式の立場として此処にいるわけじゃないし…敵意のない相手にそんな過剰反応するのって逆に失礼じゃね?」
「んなこと言われても…」
「表現はどうかと思うが、まあそいつの言う通りだ。多少失礼でも問題にしねーよ」
「やあ、イッセー君」
「………。…妹の授業参観を見に来たんですか?サーゼクスさん」
「それもあるのだけど…近々、三勢力の会談をこの駒王町ですることになっていてね」
「…ああ、それで」
立て続けに三勢力のトップと顔を合わせることになったわけである。まあ、想定内といえば想定内ではあるのだが。会談というからには少なくとも戦争を行うつもりはないのだろうし。
「ところでイッセー君、今から取れる宿を知らないかい?」
「その気になれば一瞬で行き来できるんですし、態々泊まる必要もないのでは?後、自分が利用する可能性のないものに関してはよく知りませんので他の人に聞いてください」
その気になれば簡単に調べられるが。
そもそも、一誠はサーゼクスの言葉の裏に隠された意図をある程度察した上での返答である。
「…イッセー君、それはちょっと辛辣じゃないかい?」
「そうか?」
一誠はきょとん、と首を傾げる。祐斗は苦笑を浮かべた。本人に自覚がないあたり性質が悪い。
『…まあ、辛辣は辛辣なんだろうが、この場合は違うだろうな…』
遠回しの問いに否を示しているのだし。
「もしかして私は嫌われているのかい?」
『別に嫌われてはいないと思うぞ。…というか、相棒が怒ることや軽蔑することはあっても、嫌悪する相手というのは見たことがない…気がする』
「え?うん、トップとしてどうなんだろうと思う点がないではないけど、人柄的には好感を持ってるよ。嫌いとかではない」
『…相棒お前大丈夫か?』
「うーん…」
少し考え、一誠は翼を広げる。四対八枚の翼。その内半分が天使のような、白い翼となっていた。そのことにその場にいた一誠以外の悪魔が息を飲む。
「確かこれ、前は赤かったよな、ドライグ」
一番上の翼を前に引っ張り、一誠はドライグに問いかけた。ドライグはそれに肯定の意を返した。
「ちょっとヤバいのかもしれない。…聖剣を弄りすぎたかな」
呟くように付け加え、一誠は籠手から鞘に収まったままのエクスカリバーを取り出し、祐斗に渡す。
「これ、暫く預かっててくれ。俺、ちょっと用事ができたから行ってくる」
「え、ちょっと」
「別に危ないことしに行くわけじゃないから。ちょっと一人で考えたいことがあるってだけで」
じゃあ、と一誠は翼をしまって歩き去る。
「…一体彼に何が起こっているんだ?」
「…それを聞きたいのは私も同じです」
「多分、聖剣の造り過ぎが直接的な原因だと思うんだよね。聖なるものに傾きすぎてて、ビビにかけられてた
廃教会の地下で、一誠は翼を広げて鏡を覗き込んでいた。
『
「
『…確かに、それは大した名前だな』
「まあ、その呪いが成立してしまったのは、その時"僕"が己の名を失ってしまっていたことが大きいんだけどね。まあ、そういうわけで、今この呪いが再燃してもそこまで俺に影響はないはずだったんだけど…」
『…何やら歯切れが悪いな、相棒』
「うーん…どうも、前コカビエルが魔王と神が死んだことで聖と魔のバランスが崩れてるって言ってただろ?俺が"悪魔らしくない"ことに加えて呪いによって聖人属性が付加されたことによって天使になりかけているらしい」
『…は?』
「この世界の天使と悪魔は聖剣と魔剣と似たような関係ってことさ。いや、逆かな?」
『…これは、困った事態、なんだよな?』
「んー…俺自身はさして困らないけど、リアス部長の
『まあ、イッセーに信仰心はないからな…』
溜息のようなものを漏らし、ドライグは問う。
『で、どうする気なんだ?相棒』
「とりあえず、対症療法として、魔剣でも作ろうかと。聖に傾きすぎてるのが問題なら、魔に傾け直せばいいはずだろ?エクスカリバーの対になるものがあった方が良さそうだし」
と言っても、魔剣ってあんまり知らないんだよな、と一誠は呟く。
「有名どころで言うと…グラム、バルムンク、ダインスレイヴ、ノートゥング、ティルヴィング、フルンディング、カラドボルグ…ああ、元はただの名剣だったものが、味方を斬ったことで魔剣と化したケースもあったか。アロンダイトとかクラレントとか。…うんん、アーサー王を斬ったクラレントとエクスカリバーの原典に近いカラドボルグの二本がかりなら押さえ込めるかな?出来る限り
そう言って一誠は魔剣を作り出す。
「…まあ、とりあえずこんなものかな。後でもうちょっと調整した方がいいかもしれないけど」
『…魔剣というには邪気がない気もするが』
「自分の持ち物に呪いかけるとかマゾの所業じゃね?…まあ、
ウィザードを思い出すなあ、と一誠は呟いた。周囲には、幾つもの試作の魔剣が床に刺されている。
『剣を見て何故剣士ではなく
「そいつ、魔剣創造に似た魔術の使い手だったんだよ。魔剣に限らず剣なら大体何でも作れたけど。ちなみにアーチャーとも呼ばれていた」
『剣を使うのにか』
「もう一人のアーチャーと呼ばれてた奴は弓使わずに直で何でも射出してたから、矢が剣だったとは言え弓使ってた分ウィズの方がマシ」
魔弾の射手ってやつだな。
『…深く突っ込んでも信じ難い話しか出てこなさそうだな』
「まあ、この世界の常識からは外れてるんだろうね」
一誠はクラレントとカラドボルグを籠手に収納すると、魔剣を一本引っこ抜いて後ろに投げる。
「…気付かれていたか」
「差し当たって害意はないみたいだったから放っておいただけだよ。忌避結界の中に踏み込んでくる意図も知りたかったしね」
静かに振り返った一誠は、学生服の上に漢服を重ねた男と、その手の槍を見て目を細める。
「統一性というものがないな。ついでに、思想の方もしっかりとした芯がなさそうだ。まあ、若い内から思想ガチガチに固まってるってのもそれはそれで問題があるだろうからそれは別にいいか」
「…それは俺を馬鹿にしてるのか?」
「いや、別に馬鹿にする意図はない。今の俺は隠し事ができずに思ったことが大体口から出てしまうだけだ。多分質問されたら洗いざらい喋っちゃうぞ?」
「・・・」
「隠れてるお友達を呼び寄せても君レベルじゃ俺は殺せないよ。俺を殺したいなら
一誠はそう言って楽しそうに笑う。
『…何で殺すのにカリスマがいるんだ』
「俺の"歌"をレジストしようと思ったら俺のカリスマ(偽)より高ランクのカリスマかカリスマ(偽)がいるから」
多分"前"より上がってるってことはないだろうから、レジスト不可ってことはないと思うよ?と一誠は首を傾げる。
「…あーでも、確か、金ピカが呪いレベルのカリスマでA+ランクだったからなぁ…」
「…よく考えると、僕がランクにしてA++で"全盛期"がExだったから真っ当にレジストされたことねぇや。精神汚染とか"そういう体質"とかで実質無効化されたことはあるけど」
『真剣にお前が何を言ってるのかわからないんだが』
「ん、今は関係ない話題だったな。で、えーと、何だっけ?というか、誰だっけ?」
「…俺は
「ああ、成程。"怪物が人を殺し、英雄が怪物を殺す"ってところか。まあ、その場合、英雄を殺すのは人だけどね。平和の世に英雄は必要ない。生まれた時代が悪かった、と諦めるより平和を壊すことを望む、か。物好きだなあ」
「・・・」
「英雄を英雄たらしめるのは人からの信仰だ。それがなければどんな偉業を成し遂げてもただの殺戮者に過ぎない。まあ、100人殺せば英雄、とも言うしね。でも現代じゃ100人殺したくらいじゃ足りないかな。爆弾一個投げ込めばそれぐらい殺せるだろうし…その気になれば簡単に"世界を滅ぼせる"し、"世界を救える"。それぐらいのことじゃ信仰は得られないが故に、現代に英雄派殆ど生まれることができない」
『…相棒、それは"前回"での定義ではないのか』
「そうだけど、文明レベルはそう変わらないし、適用できると思うけど?まあ、この世界に英霊とか"座"みたいなシステムがなければ大して意味はないけどね。…いや、抑止とかアラヤとかなさそうだから多分ないんだろうな。…ふむ。"虎は死して皮を留め人は死して名を残す"。先人の威を借る君は何を残すんだろうね?」
「…なんだと?」
「曹操ってアイツだろ?三国時代の魏の君主、人材マニアでスケベでサボリ魔でやたらと人心掌握スキルの高いちっさいおっさん。本人の武勇はそこまででもないけど優秀な人材を発掘する目と天運が高かった曹孟徳のことだろ?…この時空の人が俺の知ってる人とどの程度共通してるか知らないけど」
「…まるで、顔見知りのように言うのだな」
「君の先祖と同一かはわからないけどね。世界ってのは、一つしかないわけじゃないから」
ニィ、と一誠は笑う。
「先祖の名を名乗り、
怒りに身を震わせながらも曹操は動けない。此処で怒りのままに槍を振るえば、それは一誠の言葉を認めるのに等しいからだ。
「物事を偶然と切り捨てるのも、必然と取り上げるのも、当人の意志だよ。起こったことに意味を求めるのは人間の性だけど、意思のないものに意味を求めても大体は徒労じゃないかな」
『相棒、話題が飛んでいないか?』
「飛んでないと思うけど?俺は別に彼を貶したいと思っているわけじゃないしね。ただ、救いを求める子羊には何らかの
『それは悪魔のやることではないだろう』
「長年染み付いた習慣ってのはそう簡単に変えられないものさ」
「…相手の底を測るつもりが、こちらの底を見られてしまうとはな」
「俺の弱点が知りたかったのか?そんなの詳しく調べるまでもないだろ。俺の弱点は
「神器や魔術による強化を行わなければ、という話だろう。実際にはそれは弱点らしい弱点にはならない」
「まあ、弱点はカバーしなきゃ死んじゃうからね。俺も早死にしたくないし、賽の河原で石積みをするのはゴメンだ。っていうか、俺を殺しても英雄にはなれないと思うけど?」
「竜退治は英雄譚においてオーソドックスなものだろう?」
「竜退治譚ってのは異教徒や自然の猛威を竜に仮託したものが多いし、悪さをしない竜を殺すってのは英雄譚として必然性に欠けてるんじゃないかな。…いや、この世界においては実在の脅威としての竜もいたみたいだけど」
『みたい、とは何だ、みたい、とは』
「ぐーちゃんもそうだけどさ、
『…興味がなかったのは認めるが、ちょっかいに関してはどうだろうな。後、奴は例外中の例外だ。あらゆる意味で何の参考にもならん。お前と同じだ』
「俺と同じってどういう意味だよ」
『アレはアレ以外いない唯一の存在だということだ。そして俺は、相棒は人間をやめてから悪魔とかドラゴンとかじゃなく"イッセー"という種族なんだと考えるべきなんじゃないかという気がしている』
「…まあ、種族的な弱点も致命的なものになりそうだと思ったことないしなあ」
悪魔としての弱点もドラゴンとしての弱点も、互いに打ち消して弱まってる部分もあるし、なんなら魔術で防げる。
「…いよいよ対処法が見えないな…」
「ん?んー、まあフィジカル極振りの奴がいたら、どっちかの完封勝ちになるんじゃね?状況にもよるけど」
『お前そろそろ黙った方がいいんじゃないか?』
「だって、俺だって所詮、"上位互換"には負けるだろうし。自分が絶対負けないとは思ってないし」
『だからといって自分の不利になる情報をペラペラ話さなくてもいいと思うが』
「だから、俺今隠し事も嘘も殆どできないって言ったろ?色々"見えすぎ"てて、制御効かないんだよ」
「"見えすぎ"ている?何がだ」
「君の魂と精神に由来する色々な情報?感情、仲間の位置、過去の出来事に由来するしこり、素質、意識の向いている対象、言葉に込めている思惑…ああ、コールドリーディングはできるけど、直接的に考えてる事を読んだりはできないよ。別に見たくて見てるわけでもないしね」
あっけらかんと一誠は笑う。曹操は苦い顔をする。
「ちなみに俺は人間だった時に君たちに勧誘されたとしてもそちら側に行った可能性はゼロだよ。戦うのは嫌いだからね」
「…君とは相容れないだろうということはよくわかったよ、兵藤一誠」
「相容れない?受け入れられないのは君たちの側だけだよ。俺は別に君たちを否定するつもりはない。降りかかる火の粉は払うけどね」
「両親、親族、先祖、いずれも平凡な人間であり魔術師の一人も傍にいないというのに、何故君はそうも一般を逸脱しているんだ?赤龍帝だからか?」
「そんなの、俺が俺だから以上の理由があるか?血族にどんな者がいようと、それは俺がどんな人間になるかには関係ない。まあ、両親の教育が俺の価値観に影響しているのは否定しないが、君が言いたいのはそういうことじゃないだろう?」
一誠は肩をすくめる。
「手段と目的を一緒くたにするからそんな風に迷うことになるんだよ。いや、若い内は迷うことも大切だとは言うけどね。後戻りが許される内にじっくり考えておくことをお勧めしておくよ?自分の望みが何なのか。何故そうしたいのか。…何のために英雄になりたいと思ったのか」
「…君は俺たちとは正反対だな」
「正反対?君たちが、俺と?」
一誠は失笑する。
「俺と正反対ってのは、名門の家に生まれたフィジカル特化型の天才肌で努力しないが全てを嫌って見下して戦闘狂のクズ、ぐらいに要素の盛られた悪人じゃなきゃ当てはまらないと思うよ?俺、これでも聖人属性持ってるしね」
『…名門ではないだろうがフリードのような奴ということか』
「いや、アイツ確かに天才肌だろうけど多分全く努力してないってこともないと思うぞ」
「価値観の話だ。俺たちが重視するものを君は重視しない。君が重視するものを俺たちが重視しないかどうかまではわからないが」
「うーん…まあ、確かに、俺は己の価値を他者に求めないね。評価も、目的に必要でなければ求めないし。でも、俺が重視するのは魂と心の在り方だから、君たちも必ずしも軽視しては…ん?あー…ふむ。流れによっては、俺は君たちを敵視するべきなのかもしれないな」
『寧ろお前敵対しないで済むと思っていたのか』
「ガチなら100年程度イケる」
『相棒は本当に区別がはっきりしているな…』
「基準をちゃんと決めておけば迷わず動けるからな。迷えばそれだけ時間を消費することになる。咄嗟の時に迷ってはチャンスを逃すことになりかねない」
「・・・」
『で、どうなんだ。少しは良くなったのか?』
「対症療法だから、根本的な解決にはなっていないけどね。暫くはまた眼鏡でもかけてた方が良さそうかもな」
『見過ぎないように、か』
「そろそろ、視覚以外の感知も磨いた方が良さそうだしな。…と言っても、うん。視覚以外も現状、十分使い物になるんだが」
『…平和に生きるためには別に必要ということもなかったはずだがな』
「平穏に過ごす上で面倒事を避けるスキルは寧ろ必須だろう。危険に自ら突っ込むことほど平穏を遠ざける行動はないしな」
『…お前、本当に平穏に生きようとしていたのか?』
「当然だろう」
自設定が特に猛威をふるっている事が現れてる場面。
ちなみにTSやリュー君は天使化してません。
エクスカリバーの原典としてはグラムも選定の剣であり折れて作り直した剣ということで有力候補の一つでもあるけどまあ、確か原作でも出てくるし…