平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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VS白龍皇


赤き龍帝30

 

 

「俺には君という存在が不可解で仕方ない。…君のことは調べさせてもらったよ、兵藤一誠。家系は平凡、遡っても、親戚にも、人間ばかりで、魔法使いすらいない、生粋の一般人。だというのに、君は何だ?その強大な魔力、卓越した魔術、幻獣を従える資質…何故君のような存在があんな凡庸な両親から生まれたんだ?」

「ドライグが言ってただろ?俺はバグみたいなもんだって。俺だって、何であんな普通の人たちの間に生まれることができたんだかわからねぇよ」

一誠は肩をすくめてみせる。

「…実際にこの目で君の実力を垣間見ていなければ俺は失望していただろう。最強の白龍皇になるであろう俺のライバルが、そんな平凡な人間でしかないのか、とね。実際、君は今年になってグレモリーの眷属になるまで、いずれの勢力にも発見されていなかった。全く無名の存在だ」

「平凡で何が悪い?俺は見つからなければ平凡な人間として一生を終わるつもりだったんだ。皆が皆お前みたいな自滅型戦闘狂ばっかりじゃねぇんだよ。そもそも俺は戦士じゃねぇ」

「それだけ強いのに、何故戦おうとしない?」

「言っただろう?俺は戦いそのものに意味を見出していない。利のない戦いはしたくない、と。周りの奴心配させて、動きたい時に動けないリスク作って、痛くて辛くて苦しい思いに耐えて、そうやって代償を支払う価値のある戦いがどれだけある?自己満足の為だけに切れるカードじゃないね」

「…そうか。なら、こういうのはどうだ?俺は今から君の両親を殺しに行く」

「…あ゙?」

強大なプレッシャーが一誠から放たれる。突然倍以上の重力がのしかかり、ヴァーリは地面にめり込む勢いで宙から落ちる。

「誰が、誰を殺すって?」

ヴァーリに歩み寄る一誠の躯が赤い禁手の鎧に覆われていく。通常の禁手とは違う、騎士を思わせる鎧だ。黒いマントをなびかせ、一誠はヴァーリの背を踏みつける。

「俺の父さんと母さんは世界の裏側なんて知りもしない、平々凡々の一般人だぞ?俺みたいな"普通"の枠から簡単に外れちまうような異物を"普通の子供"みたいに慈しんで育ててくれたとびっきりの善人だぞ?良いことと悪いことの区別をちゃんと俺に教えてくれて、良いことをしたら褒めて、悪いことをしたら叱って、自慢の息子だって言ってくれる人たちだぞ?そんな俺の両親を殺すって?」

ヴァーリの発言が挑発だということは、一誠も認識している。自分を戦いの舞台に上げるためのブラフだと理解している。だが、流すことはできなかった。流せば実行に移そうとする、その可能性が否定できなかった。

「それはつまり、てめぇは俺に殺されたいってことだよな?」

『…ヴァーリ、どうやらお前は虎の尾を踏むどころか、逆鱗に触れてしまったようだぞ』

「予想通り、だ」

「予想通り?どうやら俺の言った意味を理解してないみたいだな。俺はてめぇを殺す。それはてめぇと戦うってことじゃねぇ。てめぇとは戦わねぇ(・・・・・・・・・)。戦いにならない手段で、じっくり後悔させながら殺す。一切の戦闘行為をてめぇに許さず殺す。一方的に殺す。てめぇの望む戦いを一切行わず殺す。てめぇを殺す。それだけだ」

「俺が、このまま殺されるとでも?」

「知っているか?基本的には、神器を無理に魂から引き剥がされりゃあ、人は死んじまうんだよ」

「貴様、まさかっ…」

みしり、と白い鎧が音を立てる。

「引っペがされたくなけりゃあ今すぐ取り消せよ。そうすれば、口に出しただけのことなら一回ぐらいは見逃してやるぜ?」

「…くっ、取り消すよ。俺は君の両親に手出ししない」

「ならいい」

プレッシャーも重力も、何もなかったかのように掻き消える。一誠はヴァーリを踏みつけるのをやめて一歩下がる。

「だが、君とは此処で一度本気で戦いたい」

「そりゃあ無理だ」

「なんだと」

「俺は、知ってる奴相手に本気で殺し合いなんてできねーよ。何の遠慮もせず、本気でやりあえるのなんて相手の事情なんて欠片も知らない時だけだろ」

「つまり、俺を相手にして本気を出すことはない、と?」

「そうなるな。俺の知り合いが言っていたよ。本気で命の取り合いができるのは、相手のことを何も知らない、最初の戦いだけで、相手のことを知って、分析したり評価したり対策考えたりし始める二回目、三回目以降は求愛のダンスみたいなもんだってさ。…全面的な肯定はしないが、俺も同意見だ。何も知らない相手じゃなきゃあ叩き潰すって選択肢は取れない。同じ世界に生きてて、もしかしたら愛する人愛される人がいて、なんて考えられるようになったら後味悪くて仕方がない」

 

 

「…あー、やな事まで思い出しちまった。仕方ないからちょっと遊んでやんよ」

籠手からクラレントを取り出し、一誠は挑発するような仕草をする。

「ふっ、すぐに遊びなどとは口に出せないようにしてやる」

「や、よく考えたら俺眼鏡(リミッター)かけたまんまだから、"本気の本気"は出せねぇんだよ。"最適化"できねぇし、下手すると余波で街がヤバい」

「なら、その眼鏡を外せばいいだろう」

「めんどいから嫌だ」

「…後悔するぞ」

「もうしてるよ」

演舞のように赤と白が踊る。どちらの攻撃も当たらない。

攻撃が大ぶりで、怪我をしたくない一誠と、好きの少ない技を振るい、被弾は気にしないがぬるい攻撃には当たってやるつもりのないヴァーリ。

どちらがすごいわけでもない。おそらく、力は伯仲している。

「以前にも思ったが、君は剣を使う方が弱いだろう。何故態々そんなものを持ち出すんだ」

「ハンデだよ、ハンデ。一方的な展開になったら戦いとは言えないだろう?」

「逆に君が一方的に攻撃される側になるとは思わないのか」

「俺はそんな馬鹿じゃない。相手を見て戦い方を選ぶよ」

バックステップで一旦距離を取り、一誠は片手を剣から離す。

「魔術と併用する、とかな」

その背から赤い竜の翼が広がる。

「面白い。だが、まさか魔術が己の専売特許だと思っているわけじゃないだろう?」

ヴァーリもまた、魔術を展開する。

「そんなことは当然わかってるっての」

クラレントが赤熱し、雷を纏う。

「んじゃま、温まってきたし、試運転と行こうか。"騎士王殺しの魔剣(ダウンフォール・クラレント)"」

禍々しく赤黒い雷を纏った剣を構え、一誠は楽しそうに言う。

「いらん心配だろうが、これくらいで死ぬなよ?白龍皇(ヴァーリ)

一誠が剣を振るうと、雷を纏った斬撃が衝撃波と共にヴァーリに襲いかかる。

「その程度!」

白龍皇の力により一誠の放った攻撃が半減される。

「やっぱそうくるよな。で、お前は何処まで対応できる(・・・・・・・・・)んだ?」

倍加の力を譲渡され、クラレントの放つ雷と禍々しいオーラが更に大きくなる。

「弓引け、(ほとばし)れ、降り注げ、溢れて呑み込め!"千戟万雷(せんきゃくばんらい)!!"」

一誠の詠唱と同時に無数の雷の矢が周囲に出現する。二人を取り囲むように展開されたそれは、再び振るわれたクラレントの斬撃に追従するようにヴァーリに殺到する。

『Half Dimension!』

「まだまだ!」

雷の矢は次々増殖し、一誠は斬撃を何度も連続して放つ。

『相棒、白いのは取り込んだ力の余剰分は放出する仕様になっている。オーバーフローで破るには厳しい相手だぞ』

「わかってないな、相棒。"遊び"って言っただろ?必ずしも倒せなくていいんだよ。俺が大した怪我をせずに戦いを終えられれば俺の勝ちだ」

『…なんだか、あちらが気の毒になってきたぞ…』

「そもそも探求者であり研究者である俺に戦いを挑もうと思うやつが馬鹿なんだよ」

一誠は勝敗に興味がない。己の目的さえ果たされれば、負けても構わないのだ。まあ、負けると台無しになる状況が多いので勝ちを求めることになる場合が多いが。

 

ヴァーリが覇龍の詠唱を始めると、一誠もまた剣をしまい、覇龍の詠唱を始める。

『相棒、幾らお前が規格外の魔力を持っていると言っても、消耗した状態でのそれは危険だ、下手をすれば"飲まれる"ぞ!』

「(俺を誰だと思ってるんだ?"暴走"ってのは俺と最も縁の遠い言葉だよ)」

『お前は本当に、一度決めると人の話を聞かないな…しかしまあ、これもまたある意味で必定ということか』

ヴァーリの覇龍の発動に一拍遅れて、一誠の覇龍が発動する。

雄叫びを上げて二人はぶつかった。真っ向からの殴り合い。どちらも相手の攻撃を避けない。

20秒。二人が覇龍を保っていたのはそれだけの短い時間だった。

ところどころ砕けた鎧を身に纏い、肩で息をしながらも、二人は獰猛な笑みを浮かべていた。

「流石に、そろそろ打ち止めか?ヴァーリ」

「そちらこそ、魔術は使わないのか?イッセー」

一誠は、ニィ、と笑う。

「これ、なーんだ?」

その手の中には白龍皇の鎧に嵌っていた青い宝玉があった。

「それは、俺の…何のつもりだ?」

『…相棒、まさか』

「そりゃあ勿論、こうするんだよ!"従え、白き龍の欠片"!」

『?!無茶苦茶な、私の力と赤いのの力は相反するものだぞ?!』

『ハッ、相反するものを併せ持とうとすることなど、相棒にとっては今更のことだ。この程度、無茶の内には入らんさ』

「あー!クソ痛ぇ!!けど、獲ったぞ。相反する力?んな中二病(フォーティーン)よくある話だろうが、知ったこっちゃないね。だがもう二度とやらねぇ」

 

 

ヴァーリが迎えに来た仲間と姿を消した後、一誠は禁手を解いてその場にどっかりと座り込む。その両手は赤白の籠手に包まれたままになっている。

「イッセーさん!」

「イッセー!」

「アーシア、リアス部長」

「大丈夫ですか?今傷を治しますね」

「イッセー、あなたはまた無茶をして…私を心配させるようなことはしないでちょうだいって言っているでしょう?」

一誠は片眉をはね上げて首をすくめる。

「大した無茶はしてませんよ。骨も折れてないし、切り傷とかもないし。流石にちょっと疲れましたけど」

『打撲と捻挫はできているようだがな』

「ドライグ…」

右手の白い籠手が解除されると、その手首が捻挫を起こしていた。籠手がギプス代わりになっていたらしい。アーシアがその手を取って治癒をかける。

「私だって、心配したんですよ、イッセーさん」

「…ごめん」

「何で私の時と反応が違うのよ、イッセー」

「知らないんですか、部長。治療役(ヒーラー)は絶対に怒らせちゃいけないんですよ」

「そ、そうなの?」

「えっ、え、その…」

『こいつの軽口を間に受けるな。今のは軽口の類だ』

「いや、ヒーラーに怒らせると怖い人が多いのはガチだぜ?アーシアが当てはまるかはともかく」

「どうやらまだ十分元気みたいだね、イッセー君」

「イッセー先輩、とっても悪役みたいでした」

「相手を怒らせたり怖がらせたりしようと思えば悪役(ヴィラン)の真似事をするっきゃないだろ」

「あの雷の魔剣とか、完全に悪役でしたよ…」

「イッセー君には、すっかり私のお株を取られてしまいましたね」

「しかし、イッセーの剣の扱いは改めて見ると酷かったな。次の特訓はイッセーの剣術修行か?」

「勘弁してくれ…」

一誠は大きく肩をすくめてみせる。

「でも、まあ…皆、心配させた分はごめん。ありがとう」

立ち上がり、一誠はゼノヴィアからアスカロンを受け取って収納する。

 

「この状況で言うのもなんなんですが、一つ頼みたいことがあるんですが」

「…何でしょう」

「アーシアとゼノヴィアが祈ることができるようにしてほしいんです。幼い頃からのことで最早習慣になってしまっているからって、悪魔になってからも祈ってダメージを受けて、一周回ってダメな方向に慣れ始めちゃってて、見てて面白…じゃない、気の毒になってくるんです」

「…いいでしょう。三勢力が手を結んだのですから、祈ってもダメージを受けない悪魔が二人くらいいても構わないでしょう。天界に戻ったら、そのように"システム"に手を加えておきます」

「ありがとうございます!」

「どういたしまして」

いい子いい子、とミカエルは一誠の頭を撫でる。

「…えーと、ミカエル様?」

「やっぱり天界に来ませんか?イッセー君。あなたなら歓迎しますよ」

「それ、現状ガチで洒落にならないんで」

「何故ですか?」

「・・・」

一誠は無言で己の羽を広げる。下から赤い竜の羽、黒い悪魔の羽、白い天使の羽、となっており、一番上の羽は右が白、左が黒と半々になっている。

「おや」

「エクスカリバー受け取ってから気付いたら一番上の羽が白くなってたんですよ。元々は赤かったんですけど。今はなんとか半分…戻そうとしたら黒くなってますけど」

ちなみに黒い羽は悪魔のものである。

「そのまま天使になればいいと思います」

「だから洒落にならないんですって」

「しかし…悪魔の羽さえ隠せば現状でも十分天使に見えますよね。光輪(ハイロウ)もあなたなら十分魔術で代用できそうですし」

「やりませんよ?」

…実はコカビエルに対してそれに近いことをやらかしたが。

「なんだなんだ?妙なやつだとは思ってたが、一体どうなってるんだ?お前」

「知りませんよ。聖と魔のバランスが崩れているが故に両方を併せ持つことが可能になった、という中二病(フォーティーン)なんじゃないですか」

「…やっぱ何か俺には辛辣だな、お前」

「仕事ならともかく、デレる要素がないじゃないですか。強いて言えば俺の中の天使化部分が"堕天使"を嫌ってるかもしれませんけど。あ、でもアザゼル様のこと自体は別に嫌いじゃないですよ、俺」

「…いや、別に野郎のデレはいたねぇからそういうのはいい。だが、天使化か…そういうの、一応天界でも研究してるのか?」

「ええ、まあ。もっとも、彼のケースは特殊すぎて全く参考にならないでしょうが」

「まあ、人が天使になるのはともかく、悪魔が天使になるってのは自然の摂理に悖《もと》り過ぎてるよな」

「これでも世界の理だけは曲げてないつもりだったのに…」

『普通は曲げたくても曲げられんのだと言っているだろう』

「…いやでも、よく考えたら死んだ奴は生き返らないってのも世界の理だったんじゃね…?」

『…まあ、それは一応な』

「なんだ、ということは割りとサクッとこの世界の理は曲げられるんだな。なら俺が偶に理を曲げても何らおかしくないな」

『いや、その理論はおかしい』

「女子供の笑顔は大抵のものより優先される」

『何処まで本気で言ってるんだ、相棒』

「まあぼちぼち…」

 

 

 

 

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