平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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蒼那と


赤き龍帝33

 

 

支取が相談に乗ってほしいというので、一誠は二つ返事で引き受け、生徒会室で話を聞くことになった。

支取は冥界にレーティングゲームの学校が作りたいのだという。今ある、上級悪魔のためだけのものではなく、下級や中級の悪魔にも通えるものを。

「一誠君の忌憚のない意見を聞かせて欲しいの」

「…忌憚のない意見を、ということなので、少しキツめに言わせてもらいますね」

「ええ」

「まず…学校を作るというのは目的ではなく手段ですね。先輩の口ぶりからして、その目的は下級や中級の悪魔の地位の向上、少なくとも彼らの出世の可能性を作り出すこと…裏を返せば、現在、悪魔の社会は完全な階級社会であり、下級や中級が上を目指すのは困難だということですね」

「ええ」

「義務教育は?」

「地域にもよりますが、人間と同程度のものはあります。…概ね小学校程度ですが」

「職業選択の自由は…地域と生まれにもよるんでしょうね。おそらく、カースト程の強制力はなくとも、親の跡を継ぐのが一般的、といったところでしょうか。現在階級を上げる手段は上級悪魔の眷属になってレーティングゲームなどで活躍し実力を認められることほぼ一択だと」

「…ええ」

「先輩は作りたい学校の位置づけを人間社会ならどの学校と同じように考えていますか?」

「…一応、子供の内から通うことができる学校、と考えているわ」

考えるような沈黙の後、一誠はしとりを真っ直ぐに見て言う。

「率直に言わせてもらうと、先輩の目的はうまくいかないと思います」

「…そう考える理由は、聞かせてもらえるのよね」

「はい。…まず、一つ目の問題。学校を作って、そこを卒業したとして、上級悪魔の眷属になれるとは限らない、ということです。そして、更に眷属になって、優秀な力を発揮できたとしても、必ずしも昇格できるとは言い切れないということです」

「…前半はわかるわ。後半は?」

一誠は一瞬片眉を上げる。

「…階級社会だからですよ。階級というピラミッドが成立するためには、下は多く上は少ないという構造が崩れてはいけないんです。優秀な下級・中級が増えれば、更に上級へ昇格するための基準は厳しくせざるをえなくなります。それと…これは俺の個人的な見解なので、現在の現実に即しているかはわかりませんが」

一誠はそこで一度言葉を切る。

「悪魔の駒は人口問題の解決手段の一つとして作られたんですよね。他種族を悪魔に転生させることで悪魔の全体数を増やすために。はぐれの存在、それと転生させられる対象の意思は必ずしも必要ではないことから考えて、レーティングゲームを通じての昇格というのは、転生悪魔に対する飴のようなものとしてある制度なんじゃないでしょうか」

「…それはつまり、上層部は昇格をさせたくないと考えている、ということですか」

「ざっくりまとめるとそうなりますね。貴族、上層部、一部特権階級。それは特別なひと握りの存在であるということに意味があります。そういう人たちは己の利権を脅かされることを嫌がるものです。おそらく、転生悪魔が上級に上がってくることにもいい顔はしていないでしょう」

「…ええ、その通りだと思うわ」

「ですから、本当に下級や中級の地位向上を目指すためには現在の制度を完全に変えてしまうレベルの改革も必要不可欠ということになると思います。先輩の行おうとしている、本人たちの地力を上げるということも勿論必要なことですが」

「それは…流石に厳しいわね。茨の道というのでは生易しいレベルだわ」

「悪魔は代替わりをなかなかしないようですからね」

人間であれば、老人はいずれ死に、若者の志を通せることもありうる。だが、悪魔は停滞している。おそらく、悪魔に限らず天使や堕天使も多少なりとそうなのだろうが、長命故に変化に乏しい。それは劇的な変化は難しいということだ。

「それから学校そのものに関する話ですが…レーティングゲームの学校ということはつまり、"戦う手段を教える為の学校"ということですよね」

「…ええ、そうなるわね」

「強くするためには柔軟な子供の内から学び始める方がいいというのは当然の帰結です。ですが、戦う手段を教える、ということは他者の命を奪う手段を教えるということでもあります。そのことを、ちゃんとわかっていますか?」

「…それは、どういう意味ですか?」

「力を持つことには相応の責任が伴います。格闘家の肉体が人を殺せる武器ともなるように、銃を使うことで子供でも大人を殺すことが可能となるように、学んだことを悪用すれば他者の命を奪えてしまうということをちゃんと理解させ、その力を必要のないところでは使わないということを選択できるようにさせなければいけません」

犯罪者を生み出してしまえば、汚点として付け入る隙になってしまいますからね、と一誠は付け加える。

「そういう意味では、位置付けとしては軍学校か専修学校に近いものにした方がいいでしょう。技術だけでなく、心構えも身につけさせる。それが戦闘技術を教える上で欠いてはいけないことです。それと、クラス分けなどは年齢よりも実力を参考に決めるべきだと思います。多対一で教える場合、どちらかといえば下のレベルに合わせることになりますから」

クラス内の実力はある程度揃っている方が好ましいでしょうね。

 

 

「・・・」

「先輩は努力が必ず実る世界ってどうなると思います?」

「それは、皆努力すれば報われる世界になる、んじゃないんですか?」

「いいえ。誰もが努力すれば同じことができるようになるのであれば、努力することに意味がなくなり、天才…より少ない努力で成し遂げられる人が重視されるようになります。普遍的なものには、特別の意味は与えられないんですよ」

一誠は目を閉じる。

「現実的には。努力する秀才が努力しない天才に打ち勝つことは当然のように起こりうることです。でも、相手が努力する天才であった場合は難しいです。…悪魔には、努力しない天才の方が多そうですが」

「…ええ、俗っぽい言い方をすれば、努力するのはカッコ悪い、という考え方が貴族の中では主流になっているわ」

「それは、一時的なものに終わるかもしれませんが、付け入る隙になります。実力社会である以上、貴族が偉い顔をしていられるのは才能に担保された実力が"強い"ことにありますからね。平均値が引き上げられれば、才能の上にふんぞり返ってはいられなくなります。そこで己の才に頼るだけでなく努力するようになれば、次は策の練り合い化かし合い、ってところですかね。まあ、そう動けばある意味正常、心配はいらないでしょう。でも」

「そうでない場合はいっそ革命を企んだ方がいいかもしれませんね。淀みきった池は幾らかき回しても綺麗にはなりませんから」

一誠はそう言って肩をすくめる。

「…そもそも、俺が思うに現魔王様の政治は中途半端なんですよね。旧来の悪魔を強硬に排除するのであれな禍根を残すべきではなかったし、融和を望むのであれば完全に排除するのではなく、血筋の者も残しておくべきだった。…まあ、実力・思想的に丁度いい人材がいなかったのかもしれませんけど…漬物石みたいに年季の入った連中は保守派だと相場が決まっている。魔王様方は革新派だろうし、上層部から見れば目の上の瘤であり恐ろしい相手なんだろうなあ。実際の思惑はどうあれ、何時切り捨てられてもおかしくはない。何しろ伝統の象徴たる前魔王の血筋を切ったっていう実績があるわけだから」

後半は殆ど独り言のようになりながら一誠はしみじみと呟く。

「…一誠君は意外とシビアなんですね」

「政治ってのは化かし合いだからシビアに考えなきゃいけないんですよ。己の利を求めない政治家なんて天然記念物だし食い物にされるだけだ。善人に政治家は務まらない」

何故なら、利己的な悪人の方が強くて声が大きいから、と一誠は皮肉げに口元を歪める。

「だから俺は政治はやらないし、出来る限り関わりたくないんです」

「私は関わらざるをえませんがね」

「ご愁傷様です」

『他人事みたいに言ってるが、相棒も完全に無関係ではいられんからな?お前レベルの実力者が何時までも下級では示しがつかんだろう』

「えぇ?でも俺、実力的に"サーゼクスさんより格下"だぜ?」

『魔王を比較対象に持ってくるな。…先日の一件で現れた血筋の方のレヴィアタン、あれで前魔王クラスだぞ』

「え、あれで?…前魔王意外と弱いな」

まあ、四対一で釣り合ってたんならそんなもんなのかもなあ。

「…。…ドライグさん、一誠君の認識はどうにかなりませんか」

正しく相手の実力を測れるからこそ(・・・・・・・・・・・・・・・・)、こいつは"こう"なのだ。実力を測った上で、評価する基準としてまず己の力を元にするだろう。こいつの実力的にこういう評価になるのは仕方ない』

「俺何か間違ったこと言いましたか?」

心底不思議そうに一誠は尋ねる。支取は何とも言い難い顔をした。

「…間違いということはないでしょうが…他の悪魔の前でそのようなことを言えば怒らせることになると思いますよ」

「怒らせるためじゃなきゃ、他の悪魔の前でそんなことは言いませんよ」

『相棒はトップを馬鹿にすれば相手を怒らせることになるということくらいきちんと理解しているぞ、シトリー。寧ろ、こいつは相手の感情の変化に敏感だし、話術スキルもそれなりに高い。そして色々な意味で、婉曲に話しても無駄だ』

「ドライグお前何でそんな俺の悪口みたいなことを先輩に言うんだよ…」

『事実だろう』

「事実だけど」

「事実なんですか…」

『天使みたいな顔しといてがっつり黒いからな、こいつ。ピュアはピュアでもピュアブラックだ』

「(…あんま調子に乗ってると滅ぼすぞ?)」

『・・・』

現在のドライグは肉体を持たない魂だけの存在だ。故に昇天術式が効いてしまうのである。

「…確かに、よく考えると一誠君は意外と狡猾なところがありますからね」

マイルドな表現である。実際のところ、一誠は本当に敵対した相手であれば躊躇いなく殺せる程度には冷徹なところがある。表には出さないが。

『…まあ、そういうわけで、あんまりこいつをただのお人好しの善人だとか甘いことは考えるな。お前が思っているよりこいつは自己中だし他者をサクッと見捨てられるやつだ。…まあ、お人好しであるのも事実ではあるんだが』

 

 

 




独自設定も当然のように含まれている
駒が実用化されたのはおそらく2,300年前程度、前魔王と神が死んだのは2000年ぐらい前のつもりで設定してる
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