「…折角の夏休みが修行で潰れるのか」
『まあ、世情的に強くなる必要があるのだから仕方あるまい』
「強くなるって言ってもなあ…」
まあぶっちゃけ、熟練度さえ引き上げられれば一誠は強キャラである。肉弾戦では弱いが、それでも神器や魔術、あるいは聖剣などでブーストすれば十分強い部類になる。基本的に、実戦経験の少なさが弱点になっているのである。後衛として俯瞰できるところから魔術ぶっぱするのであれば最上級から魔王クラスの実力を発揮することができる。
「ぶっちゃけ、眷属で一番強いのって俺じゃん?総合的に見れば」
単純な剣術の腕では騎士二人には勝てないし、格闘のみで戦えば小猫に負けるだろう。魔術主体の相手には絶対負けないが。いずれにしても、一誠の強みは手数の豊富さと必殺技と呼べるレベルのものを複数持っていることにある。万能性(魔術方向に偏っているが)があるのである。
『まあ、同年代で相棒に対抗できる者はそうそういないだろうな』
「よっぽど尖った性能の奴ならわからないけどな」
フィジカル面のマイナスは充分付け入る隙になるレベルだ。で、あるからこその対策もしてはいるが、万全とは言えないだろう。
基本方針は己のフィールドに引っ張り込んで自分の有利な方式で戦う事となる。戦士ではない一誠は戦いに対する意欲や昂揚感に乏しい。己の不利をおして戦うというのは避けたいのである。
「…嫌な予感がするんだよな」
具体的にどう、というものではない。しかしフラグ自体は色々あるのだ。
『まあ、冥界に行けば他の悪魔と顔を合わせることになるのは避けられないからな。一人くらいはお前の苦手なタイプの相手もいるだろう』
「悪魔とか天使堕天使って連中の
「列車か…」
『まあ、座っているだけで着くのなら気楽なものだろう』
「まあ、それはね」
「ドキドキしますね、イッセーさん」
「ああ。もしかして酔い止めとか飲んでくるべきだったかな」
「酔い止め、ですか?」
「電車で乗り物酔いしたことあるし、遠足とかでバスに乗ると八割方酔うから」
飛行機系や動物は平気なのだが。
「イッセーさんが乗り物酔いしたら、私が治します!」
「ありがとう」
しかしアーシアの神器は乗り物酔いにも効くんだろうか。病気も治せるんだっけ?
「あ、あんまり信用していませんね?」
「そんなことはないけど…」
到着まで時間があるそうだが、読書は酔う気がする。実は今も若干気持ち悪いし頭痛がする。耐えられるレベルではあるのだが。俯いたり難しいこと考えたりしていると悪化するだろう。
「♪自分嫌いのあなたのことを愛する僕も嫌いなの?」
歌を口ずさむ。酔い止めのおまじないだ。別に根拠はない。元々は体調が悪い時にその事に意識を向けすぎると余計に悪化することから始めた行動で、自覚的なバロメーターでもある。歌える内は大体大丈夫だ。何がとは言わないが。
「イッセーさん、乗り物酔いは大丈夫ですか?」
「ああ、これくらいなら十分平気だ。心配いらないよ」
「でも、なんだか少しいつもより顔色が悪いような気がします」
「あはは…」
苦笑する一誠の額に、アーシアは手を当てる。
「無理しちゃダメですよ」
神器が発動し、緑色の光が現れる。一誠は目を閉じて大きく息を吐く。少し気分が良くなった気がする。
「…ありがとう、アーシア」
もっとも、あまり意味のないことではあるのだが。まさか、乗っている間ずっと発動させているわけにもいかないのだし。
「イッセーさんは、もっと私たちを頼っていいんですよ?」
「今もそれなりに頼ってる気がするんだけど」
「もっと頼ってくれていいんです。…そりゃあ、私は頼りないかもしれませんけど」
人に頼るより自分でやる方が楽だし確実なんだよなあ、と一誠は思うが口に出さない。その代わりに微笑を浮かべて言う。
「
アタッカーとしては全く使えないが、サポーターとしてはかなり優秀なのである。
「…馬車」
今生では当然初体験ではあるが、"過去"には乗ったことがある。基本的にあまり乗り心地の良くないものである。…グレモリー家のものなのだからいいものなんだろうが。
「…イッセー、大丈夫?」
「大丈夫、です…」
「こりゃあ意外な弱点、ってやつか」
「あらあら…」
一誠の顔色が明らかに悪い。車酔いしていることは明白だった。
「酔い止めとか飲んでこなかったのか?」
「飲んだとしたら、もう少しマシだったと思います」
「ごめんなさい、イッセー。教えておくべきだったわね」
「いえ…車酔いなんてしてる俺が情けないだけですから…」
「私が膝枕をしてあげましょうか」
「下を向いたら吐きそうなので遠慮しておきます…」
一誠は困ったように笑う。