「リアス部長が?」
差し入れとしてもらったおにぎりを頬張りながら一誠は目を瞬かせた。アザゼルはしかつめらしく頷く。
「まあ、なんだかんだ、この前の戦いで自分が動けなかったのを気にしてたんだろうな」
「んー…まあ、本来なら部長がギャスパーの禁手で止められることはなかったはずだとは俺も思いますけどねー」
元々…一誠が初めてギャスパーと会った時点で、ギャスパーはリアスを止めることはできていなかった。それが可能になってしまったのは、どう低く見積もっても一誠のせいである。一誠がギャスパーに己の神器を使いこなせるように、と行った修行が、ギャスパーの実力を引き上げ、禁手の通じる対象を広げることになった。
皮肉な結果ではあるが、一誠は間違ったことをしたとは全く思わない。強いて言えば、自分で対処できるまで実力をつけさせるか、何らかの心構えをつけさせておきたかった、というくらいだろうか。
「確か、お前アイツに修行つけてたよな」
「ええ。彼の神器は"使いこなせなければならない"ものですからね」
ギャスパーの神器は直接的な攻撃力はないが、寧ろ、だからこそ性質が悪いと一誠は思う。
「…この前はああ言ってたが、お前、神器でも魔術でもない
「…ええ、まあ、ありますよ。神器でも魔術でもなく、生まれ持った能力というか、
詳しくは話せませんけど、と一誠は付け加える。
「具体的には?」
「禁則事項です。…でもまあ、ある意味全然隠してませんよ。制限かけて、干渉対象を絞ったりはしてもいつも使ってるようなものなので」
『そこまでこのカラスに話していいのか?イッセー』
「知られたところで、警戒心を煽るだけで対処はできないだろうからねぇ」
それはアザゼルを侮っているというようではなく、寧ろ、自分で知り、対処できると思うならしてみろ、と言われているようだった。
何かを思いついた、とでもいうように一誠はにぃ、と笑う。
「じゃ、一個大ヒントを。エクスカリバーの"足りなかった部分"、能力を
「…確か、あの時駒王町に持ち込まれなかった聖剣は…」
「じゃあまあ、そんな感じなんで。俺は部長たちのところに行きますね」
「あ、おう」
「リアス部長、兵藤一誠、ただいま戻りました」
「…イッセー。…おかえりなさい」
「なんだか元気がないみたいですけど、俺はあなたの力になることができますか?」
「…ありがとう、イッセー。でも、これは私の問題だから」
「…そうですか。でも、何があっても俺はあなたを守りますから、そこだけは信用してくださいね」
にこり、と一誠は笑う。リアスは弱々しく笑みを返す。その力のない笑みを見て、一誠が動いた。姫君に仕える騎士のように、リアスの前で膝を折り、その手をとって恭しく口付ける。
「一人で無茶をしようとしないでください、リアス先輩。あなたには俺たちがいるんですから」
接触を起点として魔力に干渉する。
「それでは、ヴェネラナさんが俺に用があるそうなので、俺はそちらに向かいますね」
「え、ええ。…ありがとう、イッセー」
にこりと微笑を返して一誠はその場を後にした。
「…本当、イッセーったら…乙女心を気にしないんだから」
そう呟いたリアスの頬は微かに朱に染まっていた。
「イッセー君は、一般家庭の出身なのよね?」
「はい、そうですよ」
完璧なマナーに則った所作を見せる一誠に、ヴェネラナは納得の行かない顔をする。一誠はそれに苦笑した。弁明はしない。一誠としては、そもそもマナー講座など勘弁して欲しいのだ。自分が困らないように一通り身につけてはいるが。貴族社会に関わるつもりはないのである。
ドロドロの政治闘争などには間違っても巻き込まれたくない。下手すれば
「…それじゃあ、次はダンスね」
「えっ」
「(これなら、タンニーンさんと神器で修行してる方がマシだ…)」
主に
『それを比べるのはどうなんだ…』
ダンスの授業は身長が近いゼノヴィアと行うことになったわけだが、お互い初心者だったことで最初は散々の有様だった。ゼノヴィアは練習としてヒールの高めの靴を履くことになったということもあるかもしれない。剣士だったゼノヴィアにピンヒールの経験はあるまい。
まあ、それは段々慣れたら形になったからいいのだ。問題は同じく参加していたアーシアから羨ましいなーオーラみたいなのが出ていることである。