「ふっざけるな!!」
激昂した一誠の怒声に、その声を聞いた全ての者がびくりと肩を震わせ、一瞬動きを止める。
一誠は真剣に匙に対して怒っていた。怒って掴みかかっていた。
「俺は別に、正々堂々とか搦手や策で戦うのが悪いとか言う気はねぇよ。だがな、これはレーティングゲームだ。
普段の穏やかな口調とも、
「このゲームはテメエの命を削っても勝たなきゃならないもんか。俺はそうまでして打ち負かさなきゃならない"敵"か!」
怒りに燃えて睨みつける瞳に、匙は一瞬言葉を失った。だが、すぐ強い意思でもって睨み返す。
「何でもできる、才能の塊みたいなお前に、俺の気持ちは分からねぇよ!俺はどうしても会長のために勝たなきゃならないんだ!」
「…あ゙?」
一誠の放つ雰囲気が一気に氷点下に落ちる。
「テメエの気持ちがわからない?んなもんわかるわけねぇだろ。教えられもしねぇことがわかるとかただの幻想だ。他者の気持ちなんてどうやったってわかりゃしねぇよ。だから分かるために努力するんじゃねぇか」
完全にキレている。蛇に睨まれた蛙のように匙は己の体が強張るのを感じる。
「会長のために勝つ?だから命を削るのも許容されるって?テメエは先生になるんだろ?その時そう教えるつもりか?勝つために命を削れって?本番のための練習に過ぎない"たかがゲーム"の時にも?」
匙は自分の体に動けと命じる。こんなところで怯むな、気持ちで負けてちゃ勝てるわけがない、と。
「俺が才能の塊?何処に目ぇ付けてんだ殺すぞ。俺は才能もないし、肉体的な
頭突き。痛みと共に体の主導権が戻ってくる。頭突き返す。
「それでも俺はお前に勝つ!うちのメンバーでお前に勝てる可能性が一番高いのは俺だ。だから、俺はお前に勝たなきゃならない!」
「そりゃあ、いい覚悟だ」
匙は自分の中で何かが切れたのを感じる。神器の出力が下がる。命を力に変えることができない。
「けど俺も、人数的な不利の原因であることへの責任がある。そう簡単に負けるわけにはいかない」
一誠の調子が普段通りに戻る。激昂していたのが嘘のように怒気も消えている。匙の首元を掴んでいた手を離し、代わりに掴みかかった時に手放したトンファーを作り直す。竜の赤い翼が一誠の闘志を表すように背に広がる。
「いや、同じ
寸勁により予備動作も殆どなく一誠はトンファーの一撃を叩き込む。匙はそれを避けることはできないが咄嗟に防御した。骨にヒビが入っても悲鳴を上げなかった匙に、一誠は僅かに感心した顔をする。
「…近接は苦手なんじゃねぇのかよ」
「苦手なことに対策をしないのはただの馬鹿だよ」
と言っても、匙のレベルだからなんとかなっているだけなのだが。神器を使っているとはいえ、一誠の格闘スキルは"使い物になる"程度だ。
何度目かの殴り合いの後、がくん、と一誠が体勢を崩す。
「くっ…」
「やっと、効果が出てきたか」
「…俺も、詰めが甘かった、ってことか。けど、それならそれで、ただじゃ負けてやらねぇっ」
膝をついて、一誠は空中に指で文字を描く。そこから魔力の塊が幾つもの小さなドラゴンの形になって飛び出していく。
「穿て、
一誠が籠手に包まれた左手を突き出すと、30の矢尻が匙に殺到する。
「うげっ」
「…すいません朱乃先輩、約束は果たせそうにありません」
そう呟いて一誠は倒れこみ、転移の光に包まれる。一誠の退場がアナウンスされると同時に匙もまた退場する。
「すいません会長、相討ち止まりみたいです…」
一誠が最後に放ったドラゴン型の魔力は即席の使い魔として造り主に与えられた命を果たすために行動を開始する。すなわち、他の味方の援護のため、散らばって移動する。
その内二体がその場に残り、小猫のサポートに向かう。一体は魔術による回復とバフ。もう一体は相対する敵の攪乱。直接的な攻撃力は低いが、デバフ魔術は無視できない。
「…イッセー先輩は過保護です」
でも、悪い気はしない。"その他大勢"よりは大切にされているということだから。