平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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ディオドラ戦


赤き龍帝42

 

「…これは」

「…罠、か」

「きゃあっ」

「!アーシア」

アスタロトがアーシアを捕まえて宙に浮かんでいた。アーシアは抵抗…というか、暴れているが。

「彼女を助けたければ神殿の奥に…って、痛い、アーシア痛いってば」

「離してください!」

「アーシアを離せ!」

一誠はアーシアに向けて倍加の譲渡を飛ばす。外見的には魔力弾を飛ばしているように見えただろうが。

「仲間に向かって攻撃するなんて、正気かい?…まあ、とにかく、彼女は連れて行かせてもらうよ」

アスタロトが転移すると同時に、彼らの周囲に幾つもの魔法陣が浮かび上がる。

「部長」

「…禍の団、旧魔王派のテロね」

「狙いは現ルシファーの妹である部長でしょう。どうしますか?」

問いかけた一誠にリアスは堂々と返す。

「そんなの、決まっているでしょう。全部蹴散らしてアーシアを助けに行くのよ!」

 

迷い人に憐れみを(キリエ・エレイソン)

フリードをエクスカリバーで切り捨てた一誠が剣を鞘に戻しながら呟く。強化された浄化の力がフリードを昇天に導く。

 

「アーシア!」

「イッセーさん、部長さん!」

アーシアは何らかの装置に繋がれた拘束具に捕らえられていた。

「思ったよりはやかったね」

そう言ってアスタロトはフェニックスの涙を使う。アーシアには随分抵抗されていたようだ。

「…反転の術式…?それが結界とアーシアを繋いでいるってことは…まさか」

「そうだよ。この装置が起動すれば、アーシアの神器の能力が反転して結界内全域に流れることになる。その範囲には、客席も含まれているんだ」

「アーシアの力で他者(ヒト)を殺すっていうのか?…絶対にそんなことをさせるわけにはいかない。俺は、アーシアを悲しませない!」

テロだとか、それお前巻き込まれるんじゃね、とか、魔王様とかがくらったらどうなるかとか、そういうのはどうでもいい。ただ、アーシアが己の力で他者が傷つくことになれば悲しむことは分かっているから、それを防ぎたいだけだ。

一誠は拘束具に触れ、魔力を流し込む。

武装解除(ウエポンブレイク)

流し込まれた巨大な魔力が指向性を与えられ、それを実行する。乾いた音を立てて拘束具にヒビが入っていく。

「そんな、力技で?!」

「力技じゃない。非殺傷魔術だ」

砕けた拘束具が弾け飛ぶ。欠片が掠って頬が切れるのも気にせず、一誠は安心させるようにアーシアに微笑みかける。

「もう大丈夫だ、アーシア」

「イッセーさん、怪我が…すぐ、回復しますから!」

アーシアが頬の傷を治すと一誠は苦笑する。

「俺はいいから、祐斗たちの方を頼む。此処にたどり着くまでの戦いで消耗してるから…」

「…わかりました、無理しないでくださいね、イッセーさん」

「ああ」

アーシアを後ろに下がらせ、一誠は改めてアスタロトと相対する。

 

アスタロトを文字通り吹っ飛ばした一誠にアーシアが駆け寄ろうとする。

「イッセーさん!」

「アーシア」

アーシアが一誠の元にたどり着く一歩手前でその姿が掻き消える。

「…え」

「――油断大敵だ」

何が起こったのか、飲み込めない。

「…アーシア?一体、何処に行ったんだ?」

「あの娘は今頃次元の狭間で無に当てられて死んでいるだろう」

アーシアが、死んだ?

俺はまた、アーシアを守れなかった?」

「…■■■■■!!」

言葉にならない叫びが一誠の喉から発せられる。慟哭とも、獣の吠え声とも取れるそれは、その場に居た者全ての身をすくませた。

禁手と思われる赤い鎧が一誠の周囲に形成される。それはそれまでに一誠が見せた禁手とは姿が異なっていた。

『相棒!相棒!…イッセー!暴走が己と最も縁遠い言葉だと言っていたのは何処の誰だ!』

「AAAAAAAAAAAAAAAh!!」

鎧が滅茶苦茶に組み替えられていく。赤い翼が幾つも広がる。

「…下賤の獣が」

『何だと?!おい、相棒、奴がアーシアに危害を加えた犯人だ。やるならやつをやれ!』

「■■■■■!」

安定しない禁手をそのままに、一誠はシャルバに殴りかかる。その籠手は、獣の爪状に聖剣が組み込まれていた。

すんでのところで避けられたかに思われた爪は、直前にその長さを変えて腕を抉っていた。

「…何?」

低く唸り声を上げる一誠に理性の色は見えないが、完全に知性を失っているわけでもないようだった。寧ろ、普段の甘さがない分性質が悪い。

神器の力で普段より大幅に身体能力を上げている他、幾つもの補助魔術が並列展開されており、肉弾戦を可能にしている。

「■■■■■!」

左手に聖剣、右手に魔剣の刃を生やし、一誠はインファイトを挑む。拳打が中心だが、蹴りや尾状になった鎧の一部や翼による攻撃も織り交ぜている。しかも、鎧部分は未だに安定しきっていない。

 

 

「無様な姿だな、イッセー。失望したぞ」

己の名が呼ばれたのを認識してか、一誠はゆっくりとヴァーリの方を向く。

「覇龍に呑まれるなど…ん?それ(・・)は本当に覇龍か?」

「■■■■…」

低く唸り声を上げ、一誠は背中を丸めるようにして低く戦闘態勢を取る。赤い翼が痙攣のようにぴくぴくと震える。

『…残念ながら、相棒が使ったのは覇龍ではない。ある意味、それより性質が悪い』

「一体、イッセーは何をしたの?ドライグ」

狂戦士(バーサーカー)化…狂化魔術を己にかけたのだ。自棄になった、と取ってもあながち間違いではない』

 

「僕の神器でも、動きを止めるので精一杯みたいです…」

しかし、そのギャスパーの神器で止まるというのも、理性がない分、耐性が減少しているという意味である。

「なんとか、イッセーに正気を取り戻させないと…」

「殴っても正気に戻らなさそうだしな…」

「イッセー先輩…」

一誠は低く唸り声を上げている。

「…ドラゴンは歌で鎮められるものらしいが…」

「赤龍帝の歌はないんじゃないか?」

「そういえば、イッセーさんは音楽が好きなんだって言ってました」

「試してみる価値はありそうね」

 

歌に反応したように一誠は動きを止める。禁手の鎧が姿を変えていく。それは、鎧というよりもローブだった。兜もフードに変わり、赤い翼が色々なところから生えている。その手には三日月を象徴とした赤い杖が握られており、緑色の宝玉がはめられていた。インバネス状の濃緑のマントの背から彼本来の四対の翼が出たところで、鎧の変化が止まる。

「イッセー」

「イッセーさん」

「…AAAhr…ciA?」

「イッセーさん、私は大丈夫です」

「…アーシア、ぶじでよかっ…」

一誠はその場に崩れ落ちる。

「イッセーさん!」

まあ、有り体に言えば無茶の反動である。

『らしくもなく考えなしの行動に走るからだぞ、相棒』

「理性的で、ありたくなかったんだ」

彼の逆鱗に触れるということがどういうことなのか、を思い知らせるために、理性が邪魔だった。理性的な行動ではならないのである。

 

「…ぐーちゃん…?」

「お知り合い、ですか?」

「ああ。何か、小さい頃とか、何回か一緒に遊んだんだ」

より正確には。遊ばれたと言うべきかもしれないが。

グレートレッドが一誠の呟きを聞きつけてか、ゆったりと身を翻して目の前に降り立つ。

『久しいな、赤龍帝(イッセー)。何やら覚えのある気配だと思ったぞ』

「ぐーちゃんも…元気そうだね。…うん、久しぶり。最近姿を見ないと思ったけど、別に死んだわけじゃなかったんだね」

『我はそう簡単には死なぬ。…だが、そういうお前はボロボロなようだな。どうした?…虐められたのなら我が仕返しをしてやるが?』

「いや、そういうんじゃないよ。そうだとしても自分でやり返すし。心配してくれてありがとう」

『我はお前となら契約を結んでも良いと思っている。当然だ』

「何が当然なのかわからないんだけど…」

『お前まさか本気で言っていたのか。冗談ではなく?傍迷惑にも程があるぞ』

『本気でなく口にするものか。確か、人の子はこういうことを求婚(プロポーズ)と言うのだったか?』

『お前は一体相棒にどんな契約を迫る気だ』

「俺まだ独り立ちも出来てない子供だから、プロポーズされても応えられないっていうか…」

『我が養う側になるから問題ない』

「だ、ダメです!」

『何がだ?我とイッセーの間の話だ。ドライグはともかく、お前には関係あるまい』

「それでも…イッセーさんはあなたには渡しません!」

『つまり、我と張り合うと?』

アーシアとグレートレッドが静かに睨み合う。一誠はきょとん、と目を瞬かせる。

「あれ、さっきの、ぐーちゃんのいつものドライグ弄りじゃないの?…アーシアが反応するとは思わなかったけど」

『相棒…』

『趣味と実益を兼ねた何とやらだ』

「…つまり、冗談だったんですか?」

『イッセーに契約を申し込んで断られたのは本気だ』

「だって別にお互い契約する必要性ないし」

『厄介事を引き寄せる可能性も大いにあるしな。…というか、実質相棒のメリットがほとんどない気がするんだが』

裏切られた、みたいな顔をしたアーシアに一誠は苦笑する。

「ぐーちゃんは俺の悪友みたいなものだから、相当いい性格してるよ。他者の気持ちを気にかけようってつもりも全くないみたいだし」

「…確かに、ぐーちゃんさんは相当性格悪そうです」

『…生意気な小娘だな。それと、我を親しげにぐーちゃんと呼んでいいのはイッセーだけだ』

『人に呼ばれる名のない奴が何を言っているんだ。所詮通り名の略称だろう』

『イッセーが我をぐーちゃんと呼んで微笑ったから、我はぐーちゃんなのだ』

ドヤ顔でそう言い放ったグレートレッドに一誠は微妙な視線を向ける。

「サラダ記念日じゃないんだから…」

『我は人の子の暦はわからぬので記念日にはできんな…』

 

 

 

 

 

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