グレートレッド側にどんな意図があったかは不明だが、一誠とグレートレッドが親しげに言葉を交わしていたことは方々に波紋を生んだ。
潜在的な脅威…無闇にちょっかいをかければ面倒なことになる相手、という認識が広まったといってもいい。もっともそれは、その前の暴走にも原因の一端があるのだが。
そして、その張本人はといえば、例の事件から一週間、無茶の反動で風邪を引いて寝込んでいた。より正確に言えば、五日目には体調も戻って、残りの二日は本当に体調が戻ったかの様子見で安静にしていただけだが。
「…うん、もう呼吸音も戻ってるし、大丈夫そうね」
「季節の変わり目には気をつけなきゃダメだって言われているだろう。梅雨の時に平気だったからって、油断したのか?」
「あはは…俺も大部丈夫になってきたつもりだったんだけどさー。油断するとダメだね」
季節の変わり目で風邪を引いて喘息の発作が出たのだと両親は解釈したが、実際には、その根本原因は魔力と体力を大きく消費していたことである。初日に幼い頃からのかかりつけ医に診察を受けた結果そう言われたし、間違いではないのだが。
入院も提案されたが、それもそれで大事になりそうだったので薬を出してもらい、吸入をして自宅療養にしてもらった。学校は休むことになったが。
「でも、体育祭までに治って良かったわね。イッセー、アーシアちゃんと二人三脚に出るんでしょう?」
「え、うん。…うん、練習が無駄にならなくて良かった」
「そういえばイッセーは病弱キャラだったな」
「小学校の時とか、通院のために早退してたりとかしてたよな」
「高校に入ってからは随分頻度が減ったんだけどなー」
あはは、と一誠は苦笑する。喘息の発作も年に一度あるかないかくらいだ。
二人三脚をトップでゴールし、アーシアと一誠はハイタッチを交わす。
「イッセーさん」
「何だ?アーシア」
少し背伸びをして、アーシアは一誠にキスをする。
「私、イッセーさんのことが好きです。今は、イッセーさんにとって妹みたいなものでも、絶対、振り向かせてみせますから!」
「え、お、おう。楽しみに待ってる」
少し困ったような、それでも嫌がっている様子のない笑みを浮かべた一誠に、アーシアは笑みを返す。はっきり断られはしなかったのだから、望みはあるのだろう。
「覚悟しておいてくださいね」
「…はは、何かそんな念を押されると怖いなぁ」
そしてそれは、アーシアが一誠に対して一歩踏み出したのだということでもあった。
いつものように、一誠は精神世界の中でドライグと向かい合う。
「…で、アーシアの告白に対する相棒の感想は?」
「妹扱いだったの、気付かれてたんだなー、と」
「…何だ、その感想は」
「いや、だって俺、アーシアたちが俺に好意を寄せてくれてること自体は普通に見えてたし知ってたし。その意味合いはともかく」
「その上であの対応か」
「現状維持が居心地がいいってことはあるだろ。口に出さないってことは変えたくないんだろうし…俺別に積極的に変えたいと思わないし」
ドライグが溜息をつく。一誠は少しムッとする。
「俺の認識はまだまだ甘かったようだ。…そうだな、確かに他者の感情が見えるのなら、自分に対して好意を持っているというのも見えて然るべきだった。…見えてあの反応と対応というのは大いに問題があると思うが」
「そうか?別に相手がどう思ってるかは、俺がどう対応するかってのとは関係ないだろう」
「いや、それはおかしい」
「人の心の中ってのはパンドラの箱みたいなもんだ。知らん内に覗かれてたと知れたらいい気はしないだろうし…あっちが知らせたくないなら、知らんぷりするのがマナーってもんだろ」
要するに、相手の内心を読んだ上で、表面上の行動に合わせて対応するということである。
「…やはりお前はいい性格をしているな」
「そんな何を今更。相手の怒りや悲しみも"好みに合えば"愉悦にできるやつがいい性格じゃないわけないだろ」
けろりとして一誠はそう返す。ドライグはジト目になった。
「お前のパーソナリティは複雑すぎるんだ。それでいて、素の思考が天使寄りと判定されるというのは一体どういうことなんだ」
「その辺は根本的には聖人属性が原因じゃないかなあ。ほら、俺って根本的には自分本位じゃん?でもそれって、解釈によってはお人好しの理論にもなるからさ」
"自分さえよければいい"が、"自分に利益があればいい"ではなく"自分が納得できれば受け入れる"にシフトチェンジされるように。自分本位も、自己犠牲へとすり替えられる。いずれにしても独断専行になることだけは免れえないのだが。
「まあ、"人の嫌がることをしましょう"、みたいなもんだよね」
このルートで現在書いてある分は此処までになります。
書いたらまた追加されるでしょう、多分。