「…あ゙?」
翼を広げた一誠から強大な威圧感が放たれる。
「誰が誰を殺すって?」
一誠の躯が禁手の赤い鎧に覆われていく。それを見てヴァーリは兜の下で口の端を吊り上げた。
「俺がお前の両親を殺してやると言ったんだ。聞こえなかったか?イッセー」
「…ぶっ殺す」
一誠が強く地面を蹴ってヴァーリに肉薄する。ヴァーリはそれを迎え撃とうとするが、交錯する直前で己の直感に従って大きく横に回避する。
「なっ」
「イチの一番、我!」
「…乱入というのは、随分無粋じゃないか?グレートレッド」
グレートレッドは
「…今はてめえの相手してる暇はねぇんだよ。失せろ」
「や。我、何でもイチの一番。好き、嫌い、愛しい、憎い、全部全部、一番になる。我より上、認めない。イチの一番盗る、全部、我、
『お前は一体何を言ってるんだ』
思わずとでも言うようにドライグが突っ込むがグレートレッドは気にしない。一誠は兜の下で僅かに眉をしかめる。
「そもそも、俺はグレを一番にした覚えはねぇよ」
「…じゃあ、イチの一番、誰?」
「教えたら殺しに行くと言ってる相手に誰が教えるかよ」
吐き捨てるようにそう言って一誠は拳を構える。
「来いよ、てめぇらの喧嘩、まとめて買い叩いてやる」
「白龍皇、邪魔!」
「お前こそ俺の邪魔をするな、グレートレッド!」
ぶつかり合う三体のドラゴンの内、一番不利なのはヴァーリだった。
力量的に、二天龍は真龍に敵わない。そして、グレートレッドは一誠に対しては明らかに軽い攻撃しか放っていないが、ヴァーリには本気で殺す気とも思える攻撃も向けてくるのだ。
三つ巴といえど、互角の状況ではない。
「グレ、てめぇ、やるなら真面目にやれ!やらねぇんなら
一誠の回し蹴りがグレートレッドの脳天に突き刺さる。
「や!」
一誠の渾身の蹴りも殆ど無意味らしく、グレートレッドはケロリとしている。
「我、イチと遊ぶ。白龍皇邪魔」
「邪魔をしに来たのはそちらの方だろう。
「我のイチに手を出す、白龍皇悪い。我悪くない」
「勝手にヒトに所有格付けるんじゃねぇよ」
一誠はとても嫌そうな顔をした。戦いにかけるテンションも著しく下がっている。
「俺からすればどちらも同じだ、マゾどもめ」
「そいつはともかく、俺はマゾじゃない。一緒にするな」
「
「む…」
「イチ、我も、我も」
「テメーはただの
「違う。我、イチ大好き。イチの一番。イチの一番じゃない、や。マゾじゃない」
「どう見てもマゾだろう」
対一誠限定と注釈はつくかもしれないが。
一誠がヴァーリに向けていた苛烈な感情は燃え盛るような怒りである。憎悪の類ではない。だから、覇龍を使っても歴代の残留思念に飲み込まれることはないだろうとは思うのだが。
『とはいえ、この状況での覇龍が最善手だとは俺は思わんぞ』
確かに、相手が覇龍を使おうとしているのだから、対抗するために覇龍を使おうというのは自然な流れかもしれないが。
『幾ら生命力をお前の膨大な魔力で代用できるとはいえ、長くはもたん。条件はあちらも同じかもしれんが…そもそもの経験値に差があるようだからな。同じ舞台に立てば相棒が負けるのだろうよ』
彼我を冷静に分析したドライグの言葉を、しかし一誠はあっさりと切り捨てる。
「(ごちゃごちゃうるせえ。お前はテメエの相棒が信じられないってのか?)」
『そうは言わないが…』
「(心配しなくても同じ舞台で戦う気はねぇよ、面倒くせえ)」
覇龍が発動する。
「覇龍が二天龍の最強の攻撃?"んなわけねぇだろ、バーカ"」
一誠の纏った覇龍がぐにゃりと姿を変える。ヴァーリの攻撃を受け止め、新たな姿をそこに示す。それは、巨大な斧槍の形をしていた。
「面白いッ」
「さっさとくたばれ!」
龍の力がビーム状に放出される。それはヴァーリの鎧を砕くが、カウンターが紙装甲状態の一誠にヒットする。互いにその一撃で覇龍が解除される。二人共さらっと重傷である。
「しぶといやつだな…」
「そちらこそ…」
お互い肩で息をしている状態でありながら睨み合う。そんな二人をグレートレッドが恨めしそうに見ていた。
「そろそろ負けを認めたらどうだ。それとも死ぬまで負けではない、とでも言うか?」
「ハッ、そちらも同じような状態のくせに何を言う。…まだ、決着はついていない」
「――ヴァーリ、撤退だ」
「…ちっ。この勝負、一旦預けることにしよう。…次はきっちり決着をつける」
「ハッ、首を洗って待ってろってんだ」