平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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数日後


レッドドラゴン2

 

 

子供が泣いている。

『お母さん、お父さん、どうして?誰がこんなことをしたの?』

子供の傍には、男女が折り重なるようにして倒れている。

『すまない、イッセー。我にはどうにもできぬ。我は、失われた魂を蘇らせることはできぬ』

男がそう言って子供を抱きしめた。泣きじゃくる子供を沈痛な面持ちで見ている。

その時、男の背から赤い翼が現れ、銃弾を防ぐ。

『くっ…異端者め』

暗転/場面転換。

子供が巨大な赤い竜の頭の上に座っている。

『お願い、アポロ』

『任せるがいい』

赤竜は大きく息を吸い込み、口元にエネルギーを集めていく。

【Transfer】

そのエネルギーが圧縮される途中、突然倍以上に急激に跳ね上がる。

『やっちゃえ、アポロ』

赤竜の口元に集まっていたエネルギーが解放される。指向性を持ったエネルギーは周囲に広く拡散され、全てを破壊する。

永遠にも思える程の長い時間、その竜の息(ドラゴンブレス)は吐き出され、収まった時には、見渡す限りが瓦礫さえ消し飛ばされた荒野となっていた。

『うむ、随分すっきりしたな』

『うん…何もなくなっちゃったね』

ぼろぼろと、子供の瞳から大粒の涙がこぼれる。

『泣いてくれるな、イッセー。そなたが喜ばぬのであれば、我は何のために態々このようなことをしたのかわからなくなる』

『どうせ、意味なんてないよ。だって…』

暗転。

 

目を覚ました綺礼は今しがた見た夢を思う。十中八九、ドラゴンの夢…記憶を、パスを通じて垣間見たのだろう。そしておそらく、ドラゴンが聖杯にかけるであろう願いもわかった。

「アレもやはり、幼い子供に過ぎないということか」

ある意味でそれは安心材料だ。何を考えているのかわからないのが一番恐ろしい。何をするかわからないのが一番困る。何を考えているかわかれば、何をするかわかっていれば、それに対処することもできるようになる。

「…いや、だが…」

あくまでも相手はドラゴンだ。人と同じ思考をしない可能性もある。

「…一応、聞いておくべきか」

 

「聖杯にかける願い?…えっと、笑わない?」

「ああ、笑ったりはしない」

「僕は、もう一度お父さんとお母さんに会いたい。会って、褒めて欲しい。イッセーはお父さんとお母さんの自慢の息子だって、また言って欲しい」

「…自慢の息子、か」

「僕のことを、魔法とかドラゴンとかそういうこと関係なく、ただ、自分の子供として愛してくれるお父さんとお母さんのことが、僕は大好きだったんだ」

「我のこともちょっと大きくて羽が生えているだけの喋るトカゲとしか扱わなかったのは大変に遺憾だがな」

「…随分個性的な両親だったのだな」

「お父さんもお母さんもただの善良な一般市民だよ」

「一般市民からドラゴンが生まれるのか?」

「…不思議なことに、血の繋がった実の両親だよ。DNAもちゃんと一致した。僕も、どうして自分があの二人の間に生まれることができたんだろうって思うよ。…あんな善良な人たちの子供として、僕みたいな怪物がどうして生まれることができたんだろうって」

「・・・」

ドラゴンは時々、外見に合わない聡明さを垣間見せる。おそらく、そちらが"本質"なのだろう。

「そなたは怪物などではない。我の大切な、可愛くて聡明な愛し子が怪物なわけがなかろう」

「アポロにとっては、そうなんだろうね」

 

「あなたが綺礼のサーヴァントって、本当なの?」

「うん。一応そうみたいだよ?」

「…私とそう変わらない年に見えるけど」

「今年七歳になったところだよ」

「…同い年じゃない」

凛は難しい顔をしてドラゴンを見る。どう見ても、頼りになりそうには見えない。

「サーヴァントって、すごい英雄がなるものなんじゃないの?」

「すごい英雄って?」

「え、えーっと…昔の王様とか、すごい騎士の人とか、魔法使いとか…伝説とかに出てくる人よ」

「んー…アポロは聖書で出てくる赤い竜だよ?」

「…それってすごいの?」

「世界は滅ぼせるよ」

「滅ぼしてどうするのよ。強いんだったら、滅ぼすより守る方に力を使うべきでしょ」

凛の言葉にドラゴンは目を瞬かせた後、花が咲くような笑みを浮かべた。

「…うん、そうだね。難しいことだけど、滅ぼすよりも守るべきだ」

「わかればいいのよ」

「小娘、褒めてやるぞ。イッセーがこのように笑うのは久しぶりだ。このところ、ずっと塞いでいたからな」

「小娘じゃなくて、私には遠坂凛って立派な名前があるんだけど。…でも、塞いでいた、って何かあったの?」

「え、うん…ちょっと、お父さんとお母さんが殺されたから、報復にそいつら全部滅ぼしてみたんだけど…何か違くて」

凛はドラゴンの頬をつねった。

「い、いひゃっ、何するの?!」

「悲しいなら泣けばいいじゃない」

「え」

 

 

凛には、ドラゴンが泣きたいのを我慢して笑っているように見えた。

「泣きたいんなら泣けばいいじゃない。そんな風に無理して、馬鹿みたい。だから変なこと考えるのよ」

「え、でも、僕が泣くと、色んなところに迷惑がかかるし…」

「泣きたい時に泣かないで何時泣くのよ。お父さんとお母さんが死んだら、悲しいのは当たり前でしょう。…私だって、父様と母様が死んじゃったら…とにかく、泣きたいならさっさと泣きなさい」

「そんなこと、言われても、そんな、簡単に泣けないよ」

そういうドラゴンの双眸は既に悲しみに歪んでいる。

「イ、イッセー?!泣かな「あんたが原因か!」がふっ?!」

狼狽えたアポロの口を凛が閉じさせる。

「あんたが泣くなって言うから一誠は泣くのを我慢して泣けないようになったんでしょ。泣きたい時には泣かせてあげなさいよ」

「むぅ…」

その時、ほろほろと、ドラゴンの瞳からこぼれ落ちた雫がアポロの頭を濡らした。

「ひっく、うくっ、ふぇっ…」

次から次に、涙は零れていく。

「…今は私がいてあげるから、一誠は泣いていいの」

「うんっ…凛ちゃん、ありがとう…」

それだけ言って、ドラゴンは大声を上げて泣き出した。

スキル・竜哭が発動し、鳥や犬猫が心配したように集まってくる。

声の限りに悲しい、寂しい、と哭く声を聞きつけ、幻獣や妖精の類も顔を出した。ちょっとした動物園のような様相である。

屋敷の魔術的な警報にそれが引っかかり、綺礼と時臣がかけつけた時には、足の踏み場もない押し合いへし合いが始まっていた。

「…これは。一体どういうことだい?」

「竜の哭き声、特に幼生の声は他の竜の注意を引き、呼び寄せる力がある」

アポロが不服そうに言うが、幸か不幸か、他の竜種の姿はない。

「これらは我の可愛いイッセーが泣いたので慰めようと集まってきたのだ。まあ、このように可愛い生き物が泣いていれば放っておけぬのは自然の摂理だな」

「…めいわくかけて、ごめんなさい…」

「…いや。しかし、何故泣いていたのかな」

「私が、泣きたいなら泣きなさいって、言ったんです。まさか、こんなことになるとは思わなくって…」

「…凛、男はそう簡単に泣くわけにはいかないんだよ」

「でも父様、彼は両親を殺されたんですよ。それでも泣いちゃダメなんですか?」

「…それでも、泣いてはいけない時はあるんだよ、凛。責任ある身で弱みを見せるわけにはいかないからね」

 

「凛ちゃんは、他人のために怒れる、優しい人なんだね」

「別に、そんなんじゃないわよ…」

「僕、凛ちゃんのこと守りたい」

「えっ」

「凛ちゃんはこの世界で初めて見つけた僕が守りたいものだよ」

にこにことドラゴンは笑う。凛は戸惑う。

「あ、ありがとう…」

「何かあっても、うっかり滅ぼしたりしないよう気をつける」

「うっかりで世界が滅びちゃ困るわよ」

凛は軽口だと思っているが、ドラゴンは割と本気である。何しろ、実績がある。

「…凛ちゃんみたいな姉妹(きょうだい)が居たら、僕は世界を滅ぼしたりしなかったのかな」

ぽつりとドラゴンが呟いた言葉を、凛は聞き逃した。

「…?何か言った?」

「ううん、何でもないよ」

 

ドラゴンはすぅすぅと静かに眠っていた。思いっきり泣いたことで体力を消耗したのだろう。アポロの代わりにクッションを抱え込み、丸くなっている。所謂胎児のポーズ、防御姿勢である。

アポロはといえば、長い赤髪をした人間の若い男の姿でドラゴンの傍らに座っていた。

「我はな、人間も悪魔も嫌いだ」

綺礼に視線を向けぬまま、アポロは言う。

「我の可愛いイッセーを傷つけ悲しませるものは全て滅べばいい。今でもそう思っている。だが、イッセーはそう思わぬようだ」

ぽつりと、溜息のようにアポロは言う。

「人間というのは難しいものだな」

「…竜種(ドラゴン)なのではないのか?」

「イッセーは肉体的には人間だ。竜を宿し、我とも契約したが故に竜としての要素も持っているというだけでな」

「…ということは、殺されたドラゴンの両親というのも人間なのか」

「一般市民だと言ったであろう」

「・・・」

アポロは呆れたような視線を綺礼に向けるが、正直わかれと言われても困る。竜種は既に世界の裏側に消えて久しい。そう簡単に表側に現れる存在ではないはずだが。

「では何故ドラゴンは竜を宿しているのだ?」

「さて。一つの偶然であろう。誰の望みでも、誰の策略でもなく…或いは、運命とでも言うべきか」

「ドラゴンのもう一つの宝具はその竜か」

「で、あろうな」

 

 

 

 

 




ちなみに原作知識に当たる知識はない

まあ、そういうわけで、白黒姉妹に会っていない√です。
他は大体破壊者√本編通り。
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