未遠川にてキャスターが海魔を召喚した。それはすぐに他の全てのマスターの知るところとなった。
「一般人の目撃者がたくさんいるってのが問題だよね。っていうか、野次馬?」
「非現実的に見えているとしても、危機感のない人間が多すぎる。己だけは何があっても大丈夫だとでも思っているのか、愚か者どもめ」
「追い払う前に記憶に処理を行って事態を隠蔽する必要がある」
「ふむ、僕の出番だね。何か変な白昼夢でも見た、と思ってさっさと家に帰って寝るように暗示をかける、ってところでどうかな」
「ああ」
「王様と時臣さんはアレの対処に行くんだよね?」
「そうなるはずだ」
「一応、暗示をかけ終わったら合流する、って方向?」
「基本的にはそれでいい。状況を見て判断してくれ」
「オッケー。キレイはどうするの?」
「師のサポートに回る予定だ」
「ふーん…まあ、無茶はしないようにね」
ドラゴンはビルの上に立ち、歌う。
彼のスキル、竜声は声の届いたものに対する精神干渉を行うというものである。対抗するためには、同ランク以上のカリスマかそれに匹敵するスキル、対魔力などが必要になる。
今回は意図して対抗するのに必要なランクを下げて行っている。"一般人"のみに効果があるようにするためである。基本的に竜声は敵味方の区別なく発動する。関係者までかかってしまっては困るのだ。
「♪どんなに手を伸ばしたって、夢は夢のままで、現実は何も変わらない。僕の手にあるのは、ただのガラクタだけなんだ」
歌の内容は効果にはあまり関わらない。重要なのは声を聞かせることだからだ。その内容を理解しなくても構わない。ただ、聞き流された場合に上手く発動しない可能性があるため、意味のある言葉を発する方が望ましい。
歌という形を取ること自体、一定時間声を出し続ける、という形をとる上で都合がいいからである。別に演説をするとかでも構わない。ただ、彼の印象に近いものではあるが、演説は聞き流されやすい。歌の方が聞くとはなしに聞いてしまうものが多いのである。
「♪もしこの願いが叶うのなら、どうか君だけは変わらないで。夢ならずっと覚めないままでいて。僕を闇の中に一人で残さないで」
川に現れた怪物を指差したりして騒いでいた野次馬たちは、少しずつその場を離れていく。
一般人を避難させ終わり、ドラゴンは馬ほどの大きさになったアポロに騎乗して川へ近づく。サーヴァントたちが共闘し立ち向かっている状態にあるようだが、思うようにダメージを与えたられていないようだった。…バーサーカー主従だけは相変わらずアーチャー陣営狙いのようだが。
「…僕らはあっちに加勢した方がいいかな」
「アレに加わるのはさして意味もなさそうだからな」
「だよねぇ」
アポロは一旦川岸に戻ってきたセイバーたちの傍に舞い降りる。
「おお、お前たちも来たか、ドラゴン」
「一般人を退かしたから加勢に来たよ。…というか、まだ終わってなかったんだ?」
「アレの再生能力がなかなかに厄介でな…いや、参った」
「貴殿は…」
ランサーに向け、ドラゴンは横ピースをする。
「サーヴァント、ドラゴンだよ。よろしく」
「アレを破るには対城宝具が必要そうなんだが…お前さんはどうだ?」
「え、うーん…アポロのブレスをある程度チャージすればそれぐらいの威力は出せるかもしれないけど…本質の属性的には水だから、どうだろうなあ。中途半端だと逆に面倒なことになりそうだし、威力を上げすぎると街が消し飛んじゃうかもしれないし」
「我は別にこの街が消し飛んでもかまわぬが」
「教会の人たちが困っちゃうからそういうこと言わないの」
「ふん。教会などに我が気を使ってやる義理などないのだからな。…困らせる理由ならあるが」
その時、アイリスフィールの携帯に電話がかかってくる。まごついたアイリスフィールの代わりにウェイバーが電話に出る。
「これが、
『ああ。星の造り出した宝具、人々の願いの結晶…』
「ある意味で、我に似た力ということだな」
「あー…」
アポロの司るものは"夢幻"。ある意味で、人々の願いや望みと捉えても間違いではない。アポロとエクスカリバーを一緒にするのは何となく抵抗が有るが。
「…それにしても、アレは流石にアポロもただじゃすまないよね、直撃したら」
「直撃すれば、な」
『チャージ攻撃ならおいそれと出せないだろうがな。…まあ、生前はあれをほぼチャージ時間なしに連発していたんだが』
「なにそれこわい」
「我のブレスと同じことだろう」