「キレイ、こんなところにいたんだ。遠坂邸に誰もいないから、びっくりしたよ」
「そういうお前は、今まで何処に行っていたんだ?念話にも反応しなかったが」
「そうなの?気付かなかった」
ドラゴンは小さく首をすくめた。
「アポロに時空間移動ができるのか試してただけだよ。予想外に時間がかかっちゃったから成功とも失敗とも言い難いんだけど」
有り体に言えば、プチ浦島状態である。日中だけ使うつもりが、一日経過していたようだ。
「キレイの方はどうなの?何か色々事態が動いているみたいだけど」
「…ああ。まあ、色々あったな。まず、時臣師が死亡したので、暫定的な措置として、アーチャーが私と契約した。また、セイバー陣営と戦うために、一時的にバーサーカーのマスターと協力している。ちなみに、アーチャーはライダーと戦いに行ったようだ」
「ランサーは?」
「とっくに脱落している」
少し考え、ドラゴンは首を傾げる。
「多分アーチャーとライダーはアーチャーが勝つだろうけど…となると、3VS1でセイバーと戦うの?大仰だね」
「いや…とりあえずはバーサーカーとセイバーで争わせる。共倒れになればよし、でなくとも時間稼ぎにはなる」
「時間稼ぎ?」
ドラゴンは不思議そうな顔をする。
「聖杯の降霊のための儀式だ。…とはいっても、後は時が満ち、杯が満たされるのを待つだけというところまできているが」
にやり、と綺礼の口角が持ち上げられる。ドラゴンは目を細める。
「…キレイも、聖杯にかける願いができたんだ」
「メインは、衛宮切嗣と決着をつけることだがな」
「決着、って…キレイ、これまでその人に接触できてないんでしょ?ことごとく妨害が入ったとかで」
ドラゴンはその動機をいまいち理解していないが、綺礼が切嗣に対して強い執着を持っていることは知っている。いつの間にか、その心境に幾許かの変化が生じているようだが。
「…あの男は、私とは違う」
「そりゃそうでしょ。人は、他の誰かにはなれないよ。どんなに頑張ったって、自分以外の何かになることなんてできないんだから」
「…そういう話では、ないのだが」
「じゃあ、どういう話?」
「…私は。あの男は私の同類であるのだと…そして、私の見つけられなかった"答え"を持っているのだと、思っていた」
「で、違うってわかったからそのフラストレーションを八つ当たりにぶつけるの?」
ドラゴンの問いに綺礼は沈黙し、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「…そうなるな」
「…まあ、セイバーのマスターからしてみれば理不尽にも程があるだろうけど、別にいいんじゃない。キレイがそうしたいならそうすれば。自分の意志で選んだことなら応援するよ、僕は」
「…そうか」
「僕も願いを譲る気はないけどね」
そう言ってドラゴンは肩をすくめる。
「…そういえば、アポロの姿が見えないようだが」
「何か、気になるものがあるとかで様子を見に行ってる。僕が呼べばすぐ戻ってくると思うけどね」
「アレがお前の傍を離れるのは珍しいな」
「寧ろ、見に行く先に僕を連れて行きたくなかった、というのが正確なところじゃないかな。…何処に行ったんだか知らないけど」
『神器も安定している以上、イッセーは最低限身を守ることはできるだろうからな。奴は多分にイッセーに対して過保護なきらいがあるが、一応それなりに実力は認めている』
「アイツは心配するポイントがおかしいんだよね」
『…うむ』
「あれ、王様、機嫌良さそうだね。何かいいことでもあったの?」
「…子雑種か。今宵、聖杯戦争の勝者が決まることになる…お前にもその資格自体はあるが…」
「王様、キレイを焚きつけたでしょ。具体的にどうかは知らないけど」
「順当に終わってはつまらぬだろう。どんでん返しがあってこそ、余興も楽しめるというものだ」
「順当って、王様と僕が勝ち残って、戦うことになるとか?」
そうなった場合どうなるだろう、とドラゴンは思う。戦った時の相性はぶっちゃけ微妙である。
ギルガメッシュの蔵の中にはおそらく
ギルガメッシュの宝具には魔術を防ぐものもおそらくあるはずなので、対魔力は余り高くないらしいが魔術が効くということもあるまい。かといって、勝ち目がないかといえばそうは思わないのだが。
「お前を倒せるものなどおるまい。そんなものは聖杯に何かを願いまでもないだろうからな」
元々か細くなっていたパスが完全に切れたことをドラゴンは感じ取る。
「…キレイが負けた、かな?」
「手間が省けたな」
「依り代を失って留まっていられなくなる、って可能性もあるし、そう言い切るのはどうかな。まあ、今夜中に願いを叶えるところまでやっちゃえればどうにかなるだろうけど」
「さしあたっては、神父を殺したであろうセイバーのマスターを殺すか」
「まあ、サーヴァントかマスターのどっちかは殺さなきゃだしね」
セイバーはギルガメッシュがどうにかするだろう。何やら、興味を持っているようだったので横槍を入れて余計な不興を買うこともない。
『…しかし、この地の聖杯は英霊の魂をくべることで願望機としての役を果たすのだろう?四騎分の魂では、到底足りないのではないか?』
「そのへんはまあ、最悪、倍加って手もあるし」
必要なのは願望機としての機能だけだからね、とドラゴンは付け加える。
「何ならあの暴君もくべてやればよかろう。他の英霊より容量も大きそうだしな」
「正直、王様を倒そうと思ったらアポロに頑張ってもらわなきゃ無理だと思うけど…でもそうすると多分、王様の方も本気出すよねぇ」
「ふん、我はそなたが望むのであれば、暴君の一人や二人、けちょんけちょんだ」
「…僕、男で良かった」
「わからぬぞ?ああいう手合いは両刀の好みに合えば何でもイケるものと相場が決まっている。同性だから安全とは限らぬ」
「…いや、僕もそういう人を知らないわけではないけどさぁ」
『…いや、好みであるなら既にちょっかいをかけられれるんじゃないか?あまり自重などするタイプには見えんし』
「我のイッセーに手を出そうとすればとりあえず去勢するがな」
アポロの発言にドラゴンとドライグは閉口する。色々と酷い。
「まあ、最終的には全てを後悔させながら殺すだろうが」
「…未遂でも?」
「未遂ならば余計に予防策が必要であろう」
「言いたいことはわからないではないけど色々とどうかと思う」
「令呪をもって命じる。セイバー、聖杯を破壊しろ」
「なっ」
二画の令呪を費やした命令により、セイバーはエクスカリバーを聖杯に向けて構える。抗うことは不可能だろう。
「アポロっ」
「…無理だ。場が悪すぎる。アレは、屋内で使うものではない」
「…嫌だ。こんな不毛な結末は受け入れられない。殺し合い、誰も何も得られないなんて、酷すぎる」
竜声のハウリングで僅かにセイバーの動きが鈍る。それを見て、切嗣はドラゴンに向けて銃弾を放つ。その弾は、ドラゴンの肩を貫く。
「っ」
「!貴様っ」
アポロがブレスを放とうとした時、エクスカリバーから放たれた光が聖杯を砕く。
廃墟の中でドラゴンは目を覚ます。傍らでは、彼を庇ったらしいアポロが呻いている。ドラゴンはアポロに治療を施しながら辺りを見回した。セイバー、アーチャー、切嗣の姿は見える範囲にはない。
見上げた空にはぽっかりと黒い穴が空いており、禍々しい
「…え」
「…イッセー、どうやらこの戦争には最初から救いは用意されていなかったようだぞ」
アポロは瞳を
「暫く、我慢していてくれ」
そう言って、ドラゴンの返事を待たずにアポロはドラゴンを丸呑みにして空を見上げる。
「我を虚仮にしてただで済むとは思わぬことだ。逆鱗に触れられた竜程凶暴なものはいないのだからな」
そう言って、アポロは口元に魔力を集める。
「我の可愛いイッセーを悲しませた報い、しかと受け取るがいい」
アポロの
治療はした。後は本人次第だ。本人の生命力、生きる意志の問題。
これ以上、外野はどうすることもできない。本人の意志があれば充分助かる可能性はある。
それは逆に言えば本人に意志がなければ危ういかもしれないということである。考えたくもない可能性だ。子供が生を望まぬ世界など、碌なものではない。
赤い竜が哭いていた。
いや、哭いているように見えただけで本当には哭いていなかったのかもしれない。確かなのは、そこに竜がいて、天を仰いでいたということ。それ以上のことは想像するしかない。
何があったのか、何が起ころうとしているのか。ただ、碌でもない状況だということは確かだ。そもそも、竜というのは現代においては御伽噺の産物である。