およそ、全長5m程度になったアポロの背の上に一誠は座っていた。
散歩である。認識阻害をして街の上空を飛ぶのだ。飛行機やなんかは飛ばない程度の高さで、アポロの視力なら地上も十分見える。落ちると危ないからと一誠が下を見るのは止められているが。
「アポロ、何か面白いこととかある?」
「そうだな…人間の親子が退魔師の集団に襲われているのが見えるぞ。放っておくと死にそうだな」
「…えっ。大変じゃん、助けないと!」
「それがイッセーの望みなら」
アポロはそう返して加速する。一誠の目にもアポロの言ったものが見て取れるようになり、僅かに眉をしかめた。
母娘と退魔師たちの間にアポロは躍り出る。
「な、何だ?!」
「弱いもの苛めはダメなんだぞ」
「続けるというのなら、我が相手になってやろう。…まあ、瞬殺確定ではあるがな」
「アポロ、殺しちゃダメ」
「そなたがそう言うのなら」
明らかに場違いな強者であるアポロに、退魔師たちはどう動くべきか決めかねているようだった。一誠は母娘に視線を向ける。母親の方が娘を庇ってか負傷しているのを見て、一誠は手を伸ばす。
「"温かき癒しの光よ"」
女性の体に白い光が降り注ぎ、その躯を癒していく。小さく呻き声をあげて女性が身を起こす。
「かあさま!」
「朱乃、怪我はない?」
「う、うん…」
女性と目が合い、一誠は魔術の行使を止めて手を下ろす。
「あなたが助けてくれたのね、ありがとう」
「お礼を言うのはまだ早いよ。あの人たちはまだあそこに居るから」
「かかってこないのならば、さっさと立ち去れば良いのにな?」
アポロが挑発するようにそう言うと、退魔師のリーダーらしき男が舌打ちをした。
「…今日のところは引くとしよう。だが…よく覚えておけよ、朱璃。姫島はその子供の存在を認めない」
退魔師たちが全て立ち去り、アポロが母娘と向き合うように体の向きを変えたその時、その鼻先に光の槍が飛来する。アポロは槍を危なげなく避け、それが飛んできた方を見た。
「朱璃!朱乃!」
「あなた」
「とうさま」
堕天使の男は母娘に駆け寄り、アポロを鋭く睨みつける。アポロはそれに剣呑な視線を向けた。
「成程、大体わかった。禁断の異種間恋愛ってやつだね。確か、堕天使の本拠地は冥界なんだよね?堕天使がハーフに厳しいんでなければ、その子が自分の身を自分で守れるようになるまで冥界にいた方がいいんじゃない。次も間に合うとは限らないし、家族は一緒に過ごすのが一番だからね」
「…何のつもりだ」
「ええ、そうするわ。ありがとう、僕」
「散歩中に通りかかっただけで大したことはしてないよ。じゃあね。行こう、アポロ」
「…そなたがそう言うのなら」
アポロはとても不満そうに男を睨みつけた後、空に向けて飛び上がる。
「…あ」
何か言おうとした少女に一誠は小さく微笑んで手を振った。
「かあさまをたすけてくれて、ありがとう!」
そんな声が背から追いかけてきた。アポロは振り返りもせず加速して高度をあげる。
「失礼極まりないな、あの男は」
「状況を把握していない状態でいきなり
『相棒は己が暴漢か何かと間違われたのはいいのか?』
「別に、助けた相手に敵意を向けられたわけじゃないし。勘違いされたものは仕方ないさ。全然知らない相手だしね」
一誠はそう言って肩をすくめてみせる。実際、全くショックを受けなかったといえば嘘になるが、一誠は一誠なりに男の判断も仕方のないものだと納得している。一誠は相手の敵意の有無、それが誰に向いているかを見て取ることが出来るが、普通はそれが難しい(特に焦ったり頭に血が上ってたりすると)ということは知っている。一誠だって、とっさの時に正しく判断できるとは言い切れない。
「まあ、行きずりの相手にどう思われるかまで気にしてたら何もできなくなっちゃうよ」
『そうかもしれないが』
「それに、間違われたのは僕っていうよりアポロだからねぇ」
寧ろ、あの男は女性が一誠に向けて声をかけるまでその存在に気付いていたか怪しい。アポロが存在感と威圧感に溢れすぎているのだと言ってしまえばそれまでだが。
『…まあ、それは確かになあ』
「我はイッセーではない有象無象には興味がない」
「そう言い切るのもどうかと思うけど…」
一誠は苦笑する。アポロはふん、と鼻を鳴らした。
『
「どういう意味だ」
『そのままの意味だ』
「…まあ、アポロは人だったら残念なイケメン系列だよね」
しみじみとそう言って一誠はあははと笑う。傍観者のノリである。
薄い本時空じゃなくてもアポロは頭がおかしい(褒め言葉)