いつも通りのアポロとの散歩の途中、一誠はアポロに問いかけた。
「…なあ、何か空の色が変だけど此処は一体何処なんだ?」
「冥界だ」
「…ちゃんと
「我がイッセーを傷つけさせない。大丈夫だ」
そういう意味ではないのだが。しかし、そうやって胸を張るからには大丈夫なのだろう、多分。
「…しかし、冥界か」
一誠も一通りのことはアポロとドライグから聞いている。冥界には堕天使と悪魔が住んでいるはずだ。
「そういえば、悪魔って人間と外見的にはどう違うんだ?亜人系?怪物系?角生えてたり尻尾生えてたりする?」
『…大半は外見上、人と然程変わらん。悪魔の羽が生えているくらいだ。…まあ、真っ当でない者の中には、己の躯を改造して異形になっているものもいるし…そもそも、人とは異なる姿に生まれついている者もいるらしいが』
「ふーん…ってことは、悪魔は普通に人の中に紛れ込めるんだな」
『ああ』
その時、一誠が弾かれたように顔をあげる。
「…ドライグ、アポロ、今何か聞こえなかったか?」
「何者かの哭き声がしたな」
『おそらく、竜に連なる者の声だろうな』
「…そいつのところにいけないかな」
「近いようだから可能だ」
そう返し、アポロは哭き声の主に向けて進路を変える。
「…泣かないで」
思わずというように一誠が呟いた言葉は、風にかき消された。
「何で泣いてるんだ?」
「…え」
顔を上げたヴァーリは己を見る知らない少年に言葉を失う。少年はヴァーリの頬に触れる。
「怪我してるのが痛いのか?」
少年が一言、二言呟くとその手から優しい力が伝わって彼の躯を癒していく。
「きみは、なんでボクにやさしくしてくれるの?」
「だって、別に優しくしない理由はないだろ。それより、年もあんまり変わらないみたいだし、友達になろうよ」
「とも、だち?」
「うん、ともだち」
にっこり、と少年は笑う。ヴァーリもそれに釣られたように笑みのような表情を浮かべた。
「僕は一誠。君は?」
「…ヴァーリ」
「じゃあヴァーリ、一緒に遊びに行こう」
「…うん」
ヴァーリは頷いて一誠の手を取った。
アポロは二人の幼子を乗せて狭間を飛んでいた。
小さく舌打ちをする。二人にではない。己を追う戦闘狂に対してだ。不用意に縄張りに侵入してしまったアポロも悪いかもしれないが、だからといって、縄張りから出てからも執拗に追ってくるのはいかがなものか。
「アポロっ…」
「案ずるな、あんなもの程度に遅れを取る我ではない」
その時、それの放った火球がアポロに迫る。アポロは咄嗟に旋回してそれを避けた。
「あっ」
「っ、ヴァーリ!」
ヴァーリの躯が宙に浮く。一誠の伸ばした手は空振り、ヴァーリは時空の裂け目に飲み込まれる。
「ヴァーリ!!」
「イッセー、手を離すな、そなたまで落ちるぞ」
「でも、ヴァーリが…」
「裂け目に飲まれたのなら、いずれかの地にたどり着いているだろう。おそらく、こうしてアレと追いかけっこをするよりは危険はあるまい」
「・・・」
二度、三度と放たれる火球をアポロは避ける。
「いい加減、しつこいぞ!」
アポロはドラゴンブレスを放つ。それは地獄の業火さえも生温い灼熱の
一誠がヴァーリを連れ出したのは、ヴァーリが虐待されていると見て取ったことが大きい。だから、家の人にヴァーリを何処かに落っことしたことを言うつもりはないのだが、逆に、ならばどうするかを決めかねた。
「イッセー、早く決めねば門限までに帰れなくなるぞ」
「…わかってる」
気配を探った感じ、その屋敷の中にいるのは10人にも満たない程度で、ヴァーリは含まれていないようだった。少なくとも、裂け目が繋がっていた先は此処ではないらしい。
一誠の知覚できる限り、この近くにヴァーリの気配はないようだ。ドラゴンの気配の欠片もない。
「冥界は広大だ。探すにしても一筋縄ではいかないぞ」
「…それでも、これで放っておくなんて、無責任だし後味が悪すぎる」
「…イッセーがそう言うのなら」
アポロはゆっくりと旋回し、常よりゆっくりと空を飛ぶ。一誠は近くを鋭敏化させて気配を探る。
「もう少し速度を上げても大丈夫だよ」
そう言いながら一誠はあたりを見回す。このあたりにはどうやらあまりヒトは住んでいないようだ。建物は見当たらず、森が眼下に広がっている。
結局、その日はヴァーリを見つけることはできず、門限ギリギリに捜索を切り上げた。
「…ごめん、ヴァーリ」
一誠は彼の無事を祈ることしかできなかった。
「そう深刻に考えるな。ドラゴンはしぶとい。アレも幼いとはいえドラゴンの端くれなら無事であるに決まっている」
「そう…だと、いいんだけど」
不安と後悔を瞳に宿す一誠をちらりと見て、アポロは小さく溜息をついた。
修正力さん頑張った