比翼暴征木樵無欠宣誓婚連理 作:蘇民将来
エーデルワイスさん及び剣峰エーデルベルク関係の捏造設定注意(B級?映画的な意味で)
運命というものを信じるか、と聞いたことがある。
『リュカ=ルチアの聞きたいことは、その、
何故か少し怒ったようにエーデは当時の俺に頬を膨らませていたが。
俺の目の前で易々と、人の運命ってものを乗り越えたエーデは、少し不思議そうにしていた。
『運命……、何なんでしょうかね。そうですね。
────私にとって、それは、
ある人は、鎖でがんじがらめの扉であると言った。
ある人は、着こむために目の前に用意された鎧だと言った。
ある人は、暗闇に下りてきた細く光る糸のようなものだと言った。
エーデが語るそれは、俺には知らない誰かのことで。
『私はそう、上っただけですから。扉の鎖を引きちぎることもしなかった。着るだけで血しぶきをあげる鎧を身にまとうこともなかった。失った視力でもかすかに感じるたよりない何かをつかんで必死に這い上がることもなかった。
ただ、そこに存在したものを、存在するだけと認識して、
そして、俺が知るエーデは
『運命の限界点って何なんでしょうかね。前にも話しましたけど、私にとって剣術って、その導入はダイエットでしかなかったんですよ。
もちろん習得した以上は、より極めたいと思います。
でも、だからこそフラフラしてるというのは、話しましたよね。だから私、最初の動機からズレているので。私の剣というのは、きっと、強弱ではなく重さで言えばきっと、軽いんです』
本人は心底そう思っているのを、俺は知っている。
知っているが……、本人のその物言いは色々と語弊がある。
剣に想いが乗っている────俗に剣士と呼ばれる人種が武器を競り合うと、その一撃の重さが違うというのに対して、よく言われるものだ。
エーデ本人は
エーデは、本人は認めないだろうが基本的に意地っ張りなのだ。
頑固というか、自分が為すと決めたことはどんなことをしてでも成し遂げてしまおうという、そういう意志が強い。
例の剣術の
俺が直接見たわけではなく、友人ということであのお爺さんから少し話を聞いたくらいではあるんだが。
あの子が目指してるものは剣術とかじゃなく、
言ってる意味は良くわからなかったが、今のエーデの強さを基準に考えればよくわかる。
剣を構えれば、いつのまにか振りぬき終わっている神速。
その速度を実現するだけの
本人の頑固さがそのまま反映されたような強度と切れ味を持つ
仮にそれを防がれようと、いや、むしろ防がれてからが本領発揮となるのがエーデの剣。
確かに適正や才能はあったんだろうが。
それ以上に、そのことごとくから
なんなら俺の
思えばそう、
結果的に俺と
そんなエーデだから、彼女が振るう剣は重い。
とんでもなく重い────絶対に負けてたまるものかと、自分に重すぎる制約をかけてるのではと思う時もあるような一撃一刀。
だから、それを基準に相手の剣を重いと思ったところで「まあ負けませんけれども」とか「私程度の薄っぺらな矜持にも劣ってしまいますか……」とか、そういう上から目線がちょっと透けて見える。
本人は自覚してないかもしれないが。
ある意味、世界最強ゆえに許される特権のようなものだろう。
だからこそ。
そんなエーデだからこそ、
でも、だからこそエーデにとっては
『もちろん祖国を、家族を守るため。大事なものを守るために立ち上がろうと思った気持ちに嘘はありませんし、よく遊んだ公園とか、焼き払われたり、死体が山のように積まれて頭数を数えて遊ばれたり……、ああいうのを見てしまって、思うところは当然ありました。
憤りましたし、とても悲しかった。
けど、だからといってそれだけで、私の前にあの階段が現れたことは、よくわからないんです』
あそこに私の打破すべき運命の、象徴たる何かがあったとはとても思えない────。
だからこそ、ますますエーデは「私の剣は軽い」と思い込むことになったのかと、俺は納得した。
ごくごく当たり前のように、鍛えて。
ごくごく当たり前のように、強くなって。
ごくごく当たり前のように、必要な場面で覚醒してしまった。
一連の流れにおいて、エーデが強く自己を高めなければと、何のために剣を手に取るのかと魂に刻み込むような。
そういう理由がどこにもなかった────例えば一生のライバルにとって過去の人間になりたくないとか、最愛の相手を前にいつまでも燻っていたくないとか、そういう個人的な理由がどこにもなかった。
可哀そうだと、そう思える余裕が当時の俺にはなかった。
『だから、そういう運命を信じるかと問われるのなら、そうですね…………』
ぺろり、と。
唇についた琥珀色の液体をなめとり、苦笑いするエーデ。
白く美しく、たおやかで、しかしそこに凛としてある抜身の
『……私は信じたいと、そう、思います。リュカ=ルチア、
尊大すぎる、上から目線の、いつでも待っていますと手を差し伸べるような────。
そのエーデを前に、舌打ちをこらえるので俺は精いっぱいだった。
俺の目の前に聳え立つ、果ての見えない高く遠く、どこまでも上下左右に伸びる崖のような壁。
あの日、立ち尽くし、どうしようもないまま膝をついた俺と。
横でさも当たり前のように
その差を示す様な壁を、俺は、エーデと契り結んでからも、超えることが出来ていない。
※ ※ ※
剣峰「エーデルベルク」。
地上から伸びる一本の剣のような、大自然の神秘というにはあまりに自然界にケンカを売っているような山。
その麓の農村のとある家で、俺は椅子の修理をしていた。
「よっと。……えっと、たしかこう削って組むと────」
「ほっほ! すごいじゃないかいアンタ、くぎ一つ使わずに椅子を治しちゃったよ」
「木材自体はまだ生きてる……使い道がある形だったから、新しく斬ったこれだけで直せると思っただけだよ。はい、婆ちゃん」
「ありがとうね! いやあエーデちゃんも良い旦那をもらったものだねぇ!」
どっちかというと俺が貰われた側のようなものなんだが、どう言ってもこの年代の方々は人の話を聞かないというか、都合が良いように
慣れたと言えば慣れた。
この一帯は、エーデこと「世界最強の剣士」「世界最悪の犯罪者」「比翼」エーデルワイス・サーレマが、その脅威度のみで世界から勝ち取った土地。
何をやらかしてそんなことになったのか、と言うのは今更話すのも変な気分になるが。
要するに、エーデが国に対して占領と蹂躙のため仕掛けられた一国分の戦力を、のきなみ片っ端から打倒し、時に殺戮も併せて全滅させ続けた結果だ。
その結果、祖国からすら
もちろん、両親(俺にとっては義両親)だったりの所在は祖国エストニアの側。
エーデ自身が色々あって多忙なこともあり、接触する機会もかなり稀になってしまっている。
……あまり接触回数を増やしすぎて、人質としての価値を見出されるとの問題があるということで、会いに行けないのだと寂しそうな顔をしているのをよく見ていた。
こればかりは中々うまくいく話でもなく、世の中の難しさを感じさせる。
まあ、そんなエーデだが。
理由はあったもののたまたま引きこもったこの領域における村民たちとは、決して険悪な仲ではない。
ごくまれにだが、俺と一緒に麓にある食堂で何か食べに行ったり、買い出しをしてると大歓迎されたりする。
理由は……、なんだろうな。
恐れられるというわけでもないのは、エーデ本人の気質が気質だからというのはあるが。
なんだかんだエーデが、この地域における
そんなことを考えながら、食堂を運営してる婆さんの「息子も嫁が見つからなくてねぇ」とそんな愚痴を受け流していると。
どこかから悲鳴が聞こえたので、俺は木樵りの斧みたいに背負っていた
「ちょっとまた
「あいよ! じゃあ、今度はまたエーデちゃん連れていらっしゃい。また、とびっきりのマカロンとジャムを作ってあげるからっ」
まったくあれだけ食べて太らないなんて羨ましいねぇ、と豪快に笑う
「
────瞬間、俺は店から200メートルほど離れた場所で、爺さん3人が集団に襲われてる場所へと移動していた。
突如現れた俺の姿を認識していない連中は、なんだ? モヒカン? マ○ドマ○クスめいた格好をしてるのは趣味だろうか。
その奥にクマのような大男がいるのが見えるが、全員こっちの出現に気づいちゃいないから、特にこっちも気にせず────。
「……は?」
初めに反応したのは奥の大男。
おそらくリーダー格だろう、仮称
デバイスはえらく巨大な……、それこそ馬でも車でも引きつぶせそうなくらいに叩きのめせるような、鉄の塊のような剣だったが。
そんなものを背負って偉そうにふんぞり返ってる時点で、ここでは命はない。
「おー? なんじゃ、リュカ坊主か」
「脅かしおって、何じゃ何じゃ?」
「
「いや、だからって夜の飲み代にしようってチンピラまがいの連中相手に仕掛けてるんじゃねぇよ」
思わず口調が荒くなるが、こういうのは年寄りのたしなみじゃと大笑いする三人。
いかにも見た目ひ弱そうに転がっている三人と、状況が呑み込めていないらしいモヒカンたち。
「お前も
「……おおよそ状況が呑み込めないけれど、おそらく? その爺さんたちに『比翼がどこにいるのか』とか聞き出すために脅してたんだろうと思うけど、判断が甘いと言っておく」
「あ?」
ここは、無法地帯。
エストニアから法的に、そして倫理的に隔離されたいわば境界。
自治に励む村民たちに対して、外から来る人間は一つだけ暗黙の了解のようなものがある。
どうやら何も知らないで来たようなので、同業者として無駄に命を散らすのを見るのは忍びない。
「爺さんたちは
具体的に言うと、もうすでにその辺に五人くらい、いろんな銃持ってお前たちめがけて構え────って、ハライセに撃つなよハライセにっ」
悪態を付きながら念のため周囲に「斬撃を置いて」おくと、予感的中。
一般人が一切の躊躇なく、自分たちに出来る限界レベルで殺しに来てる。
しかもあの三人の爺さんらに関しちゃ、全く顔色一つ変えずに。
「世界最強の剣士を倒して名を上げたいのは結構、結構。だが旅行客でもそうだが、ある程度は常識的にふるまっとかないといけないよ。恫喝とかするなら、よそ者同士でやれってことだ。
それだったらエサ認定受けないから」
「え、餌だとこのガキッ」
「ガイルの兄貴を馬鹿にすんじゃねェ!」
そんな、路上運転でウインカーを出すことを恥だとか、追い抜き車線で抜かされることをナメられたと思うようなことを言われてもなあ……。
爺さんたちは俺が出てきたことで
そこはまあ、諦めてもらいたいところだ。
なお、エーデもさっき意外と受け入れられてるとは言ったが、意外ということは基本的にはよそ者扱いということだ。
ただ最強すぎてどうしようもないのが大前提にあって。
その上で、こうした
普通に村々にお客としてくる分には、相応に歓迎し。
違反するなら、無法地帯であるが故に相手を選ばないレベルの方法での粛清と
もちろん実力でかなわない場合は別だろうが、少なくともこのモヒカンたち程度はどうとでもなると踏んだのだろう。
修羅の国か何かか? と、前にエーデが拾ってきた極東の子供は言っていたか……。
いや、村の人たちも生きるのに必死だっていうことなんだがなあ……。
まともな
外部と大きく取引できるような商材が、そこまであるわけでもないし。
俺ですら「剣峰に生い茂る樹木で作った家具」とかいう希少価値で、ツテをたどってネット販売とかしてまあまあ高額取引したり、金だけじゃなくその家具もまた村々に下したりしてご機嫌伺いしたりするくらいには、関係性は気を遣うもの。
みんなも決して悪い人たちじゃないから、努力してるこちらの姿勢は受け入れてもらっているので、なんとかエーデも排斥されるようなことにはなっていないのだ。
……排斥されたところで気にせず居座れるくらいには最強生命体であるという点は、この際考慮には入れないことにする。
話は戻すが。
そういう微妙な因習までいかないパワーバランスが存在することを、彼らは理解できないらしい。
「ガキにナメられたら話にならねぇ。殺るぞ。
よく覚えておけ、俺は『怒濤』のガイル! 『比翼』エーデルワイスをぶっ殺して世界最強を奪い取る男!」
「「「やっちまえ、兄貴ッ!」」」
実力差が分からない相手は面倒だと思いながら、とりあえず俺は何も言わずに
大きさとしては俺の身の丈程度。
持ち手がちょっとした槍みたいな長さになり、それに応じて鉞めいた部分も拡大。
一目で自分の獲物を叩き切れそうなサイズになった
ただ、それでも立ち向かってくる気概があるのは……、俺が
まあ、大した問題ではない。
瞬間的に連中から少し距離を取り、そのまま
俺の動きを読んだのかすぐさましゃがみ込んで頭を隠した爺さんたちはともかく、その動き一つで軒並みモヒカン共はぶっ飛ばされた。
仮にも
「────手伝いますよ、リュカ=ルチア。いたずらに皆さんに犯罪を犯させるのも、忍びないですからね」
「って、いや、何でエーデ? 下りてきたの?」
と、いつの間にか俺のすぐ隣にエーデが立っていた。
白いもこもこのコート姿が凛とした雰囲気には有ってないが、性格的なことを知ってると不思議と似合っていて、ちょっと可愛らしい。
後まあ、ナチュラルにエーデも
そんなエーデの言葉を聞いていた老人たちは、そっぽ向いて口笛吹いたりしてるし。
全力で孫娘にごまかしにかかってるような、そんな振舞い方である。
「運搬はリュカ=ルチアがするとして、とりあえず一か所にまとめましょう。わざわざまとめるために使用回数を増やして、『
「応」
俺の
俺の現在位置を基準として、そこから半径約4キロメートル以内の範囲を自由にワープすることが出来る。
カテゴリー的には因果干渉系になるらしいが、詳しくはおいておいて。
こいつには「一日13回」という使用制限がある。
制限というよりは、魔力の問題なんだが……。
そもそもワープ自体かなり無法な能力だと考えれば、二桁いってるだけでも十分破格の回数だ。
そして普段戦闘用とかに温存してるこれを、さらにエーデが手伝うという形で温存させようということは。
エーデはエーデの用事で
「……で、今日のご予定は?」
「
「…………美味しいマカロンも用意してるって言ってたし、じゃあ、片付けたらいこうか」
賛成です、と。
こればかりは世界最強の超然とした雰囲気もなく、エーデはごくごく楽し気に俺へウインクして、小さくⅤサインを向けてきていた。
小娘のような振る舞いに「年齢を考えろよ」と一瞬脳裏を過ったが……。
まあ、俺もそれなりの年だということを考えると、自分にも刺さるなと今回は自重した。
まあ、結局この時そんなこと考えてたのはバレてたので「ほら、あーんしてくださいな? あーん……」と、散々お店でサーモンステーキを切らされ、エーデの口にあーんさせられることになった訳だが…………。
いくつになっても仲が良くて結構! と、例の恵体の婆ちゃんがカカと笑い飛ばしてたのに、羞恥心を感じていたのが俺だけなのは絶対、大問題だぞ、本当になぁ……。