私、一ノ瀬ヒナは英雄である。
ある日突然、平和だった地球に隣の世界、アナザーワールドから侵略者が現れた。私は天然の魔法少女として、アナザーワールドの尖兵と戦った。数年の間、どんどん敵は強くなって、脱落する仲間もいたけれど、私は強かったのでなんとかなった。幹部も全員私が倒したし、誰も殺さずみんなを守るって誓いも守ることができた。強いので。
一時期、第二世代……つまり、人工の魔法少女が誕生して私たち
さらに、実はアナザーワールドの目的が地球に潜む邪神みたいなのを引きずり出して倒すことだと突き止めたあたしは、アナザーワールドの女王と協力して邪神を打ち倒した。そう、私が二つの世界を救ったのだ。えっ、私英雄すぎ……?
これでアナザーワールドが地球を攻める理由もなくなったので、後は今までのしがらみを乗り越えれば平和は目前。そう、私のおかげで。
平和の一番の立役者として、私の名は歴史に刻まれることやむなしだろう。どうしよ、銅像とか建っちゃうのかな……なんて、考えていたのに。
「すまん一ノ瀬、犠牲になってくれ!」
「は……?」
軍……もとい、魔法少女統括庁の上司、田島さんに呼び出された私は、開口一番そんなことを言われた。土下座で。
「いや、まずなんで土下座してるんです?」
「これが俺の精一杯の誠意だからだ! ……とりあえず、この書類を見てくれ」
誤解のないよう言っておくと、田島さんは威厳のある厳格な上司として魔法少女たちにも慕われている人である。さすがに私には頭が上がらないとはいえ、こんな文字通り頭が上がっていない格好を軽々しくする人ではない。当然、それなりの事情があるんだろうが……。
私は、おそらくその答えが書いてあるであろう書類を手に取る。先の『犠牲』という言葉に嫌な予感がするけども、思い切って書類に目を通す。
それは、アナザーワールドからの和平案だった。
賠償。復興への全面協力。全面的な技術供与。そこには、地球側への至れり尽くせりな条件が記されていて、正直心が躍った。ま、そうだよね~、私がいる時点で、へりくだるしかないよね~……なんて、思っていたら、続く文章に目を疑った。それは、ただ唯一、アナザーワールド側の地球への要求としてとても目立つ位置にドデカく記されていた。
『対価:一ノ瀬ヒナの身柄』
「…………???」
「そういうわけなんで、頼む! 犠牲になってくれ一ノ瀬!」
わ、訳が分からない……なぜ私の身柄が……まぁよく考えたら私はぶっちぎりの超重要人物だし妥当か……。って、いやいやいや!
「嫌ですよ! 私、一番頑張ったんですけど! その結末が私の首差し出して終わりって!」
「いやまぁ、そんな悪いようには扱われないらしいから。向こうの頭が保証してた」
「セレスが……」
アナザーワールドの首魁、クイーン・セレスティアルとは、邪神をしばいた時に共闘したので知らない仲ではない。たしかに彼女なら、私を公開処刑とかにはしないとは思う。
「それにさ、一ノ瀬なら危なくなった時点で逃げてくることもできるだろ? 最強なんだし」
「まぁできますね。最強なので」
本当に危ない目に遭ったら、力づくで脱出することも可能だとは思う。向こう……アナザーワールドに乗り込んだ経験だってある。
「……なぁ、頼むよ。その条件は、本当に破格なんだ。いくら一ノ瀬がいるとはいえ、地球全体の戦力はまだまだ向こうには及ばない。一ノ瀬さえ向こうに行ってくれれば、もうみんな戦わなくてすむ……! それどころか、眠ってるアイツらが助かるかもしれねぇんだ……!」
「……!」
眠っている、あの子たち。敗北した第一世代の魔法少女は、死ぬ代わりに醒めない眠りにつく。アナザーワールドの技術さえあれば、みんながまた目を覚ますかもしれない。田島さんはそう言っているのだ。
また、みんなが……。そんな夢が、私の背中を押した。
「……分かりました」
「本当か!?」
「けど……あの子たちは知ってるんですか?」
あの子たち……つまり、後輩。ここに所属する第二世代の魔法少女たちのことだ。
「いや……伝えていない。間違いなく反対されるからな」
「でしょうね~」
一応、慕われている自覚はあるし、私が犠牲として敵の手に落ちたなんて知ったら何をしでかすか分からない子もいるだろうし、田島さんの判断は分かる。まぁ、時間が経てば諦めてくれるだろう、多分。
「……そうなると、みんなにバレる前にさっさと行った方が良いですよね」
「……すまん」
「最終的に自分で決断したので、謝る必要ないですよ」
そのやり取りを最後に、私は単身アナザーワールドへ向かった。今度は攻め込む為ではなく、自分を差し出すために。私が向かえばもうそこで案内が待っているらしいが、どんな待遇が待っているんだろうか。
……眠っているみんなの為だし、仕方がない。どんな待遇だろうと一旦は耐え忍んでやるぞと意気込んだところで、私はアナザーワールドへと降り立った。そこには。
「セレス……」
なんと、親玉であるクイーン・セレスティアルが単身、待ち構えていたのだった。
「久しぶりね。まさかセレス一人だなんて、そんなに私に会いt」
「ヒナ!」
「わっ!?」
皮肉の一つでも言ってやろうとしたのに、なんとセレスは私の言葉を聞かず、いきなり抱きついてきた。
「ちょっ、いきなりなによ!?」
「よく来てくれたね、ヒナ」
「そりゃあんたがあんなふざけた条件を提示してきたからで……って、あんたそんなキャラだった?」
「あぁ、ヒナ……キミに会えない一日千秋の日々も、ようやく終わりを迎える……」
「聞きなさいよ!」
こいつ……共闘した時はもっと凜々しい感じだった気がするんですけど……。
「なに、急に抱きついてきて……悪いものでも食べたわけ?」
「口にしたわけではないが……キミの心に触れてしまってからというもの、すっかり私はキミに染められてしまった、ということなんだろうね」
「染めた覚えがないんですけど!?」
「あぁ、もちろん許されるのなら、キミという果実を口にしてみたいというのが正直な気持ちさ」
そう言ったセレスの指が、私の唇に触れる。それって、まるで、き、きっ、キ──
「なっ、なにすんのよ!」
「おっと」
思わず、私はセレスのことを振り払って距離を取った。
「ふ、ふざけてないで! 目的を言いなさい、なんで私の身柄を要求したの!」
「あぁ……そうだったね。こういうものは、しっかりと言葉にするのが礼儀だ」
真面目な……以前のセレスを思わせるような真剣な雰囲気を纏うセレス。いよいよ真面目な話ができると安堵するが、当のセレスがゆっくりと近づいてきて、さらには片膝をついて跪いたところで、困惑が深まっていく。そして──
「──結婚しよう、ヒナ」
「?????????????????」
私の脳裏に、果てしない宇宙が広がった。