全方位脳焼き英雄、停戦条件に身柄を要求される。   作:鐘楼

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罪状その4

 『効率的に、殺す』

 

 そのための兵器を造るのが、自分の仕事だ。

 

 もっとも、今回の……地球侵攻の第一目標はあくまで恐怖を伝播させること。普段とは異なる設計思想ではあったが、抜かりはない。やれるだけのことをやって、兵力を整えたつもりだった。

 

 そのはずだというのに、送り込んだ兵力は尽く壊滅した。不測の事態だが、それはまだ良い。元々地球側にまともな戦力はいないという想定だったのだが、その前提が崩れただけのこと。今度は、対抗戦力を踏まえた兵器を新たに送り出すだけだ。

 

 ……だが、それでもダメだった。

 

「異常っすね、これは」

 

 調整を重ねたはずの兵器群は、それでも敗北を重ねた。機械系の兵器は粉々に破壊されたが、生体兵器は戦闘不能にされて敗走してきたので、情報を持ち帰ってくることに成功したのは不幸中の幸いだった。

 

 そこから分かったのは、この壊滅的な被害がほとんど一人の手によって齎されていたという事実。

 

「一ノ瀬、ヒナ……」

 

 魔法少女と呼ばれる対抗戦力の、トップエース。規格外の成長スピードでこちらを必ず上回り、異常な継戦能力で戦場を荒らし回る存在。どこまで強くなるのか、その強さの秘訣はなんなのか、どうすれば勝つことができるのか、疑問と興味は尽きない。

 

「申し訳、ございません……サンゾラス様……」

 

 ふと、報告をしてきた生体兵器がそんなことを口にする。

 

「いえ、いえ。あなたが謝ることではありません。これはあなたを勝利できるスペックにデザインできなかった自分と、適正な戦場を見誤った司令部の方々の責任ですから」

 

 持たされた力を発揮して勝てないのであれば、それはもう仕方がない。そもそも兵器というのは、責任を取らされる立場にない。そんな自分の考えを述べたまでだが、少女の姿をした兵器は悲痛な表情を浮かべる。

 

「そ、それでは私は……私の価値は……!」

「心配せずとも、傷が治れば配置換えが命じられるんじゃないっすか。もう下がっていいですよ」

「っ…………はい」

 

 何か言葉を飲み込むような顔をして、兵器は退室した。彼女は一から自分が創り出した生命であり、戦闘に特化した存在としてデザインし、育て教育した傑作だった。そのはずなのに敗北して、彼女は自分の価値が揺らいだと感じたのだろう。

 

 ……だろうが、かけてやれる言葉などない。そもそも、彼女にその在り方を押しつけたのは他ならぬ自分で、自分はそれに対してなんとも思わずただ人を害する兵器を造り続ける生き方をしてきた女だ。それが、サンゾラス・アクタなのだから。

 

 そんなことよりも、今は一ノ瀬ヒナだ。一ノ瀬ヒナを仕留められるような兵器を造らなければならない。ただそれだけを頭に浮かべ、研究を続ける。

 

 

 

 

「……ははっ、とんでもないっすね」

 

 対一ノ瀬ヒナを念頭に置いた新兵器は、その一切が彼女には通用しなかった。それどころか、痺れを切らして自ら先陣に立ったイミスティル様ら高貴な方々すら一ノ瀬ヒナは退けてしまったのだ。

 

 こうなってしまっては、もう自分の兵器の出る幕ではない。実際、一ノ瀬ヒナ対策から身を引いて他の魔法少女相手を想定した兵器に集中するよう命令が下った。

 

 命令ならば従うほかないが……正直に言って、未練があった。

 

 一ノ瀬ヒナはどんな動機で戦っているのか。どうしてここまで強いのか。どうして連戦してもパフォーマンスが低下しないのか。年齢は? 家族は? 嗜好は? 交友関係は? なぜ……頑なに生体兵器を殺そうとしないのか。

 

 様々なことを、どうしても確かめたい。こんなことは初めてだった。

 

 

「一ノ瀬ヒナさん、ですね?」

 

 ……初めてだったから、自分がこうも思い切ったことをする女だということも、初めて知った。誰にも告げずに、自分は一人地球に侵入し、一ノ瀬ヒナに接触を試みたのだ。自分自身、大した戦闘能力もない女だ。一ノ瀬ヒナがその気になれば、拘束されてしまうだろう。そうなれば、自決も視野に入れなければならない。……それでも、どうしても話してみたかった。

 

「なに、あんた?」

 

 初めて生で見る一ノ瀬ヒナは、魔法少女に変身していない素の姿だった。侵攻が小休止に入ったタイミングを見計らってここに来たので、当たり前ではあるが。

 

 彼女はどう見ても不審な自分に対して、特に警戒した様子もなく自然に対応する。無警戒……というより、絶対的な余裕の表れだろうか。おかしな嘘は無駄だと判断し、自分は正直に素性を打ち明けることにした。

 

「自分はサンゾラス。向こう側の技術者で、こっちの世界を襲うための兵器を開発している者です」

「ふーん」

 

 あまりに明け透けな自己紹介に、一ノ瀬ヒナは驚くでも怒るでもなく、面白そうに薄く笑う。

 

「で、そんなのがノコノコと何の用? 喧嘩?」

「いえ、とんでもない。自分はろくに戦えもしない女です。ヒナさんの相手なんてとてもとても」

「なんだ」

 

 降参のジェスチャーをしながら無力であることをアピールすると、好戦的な笑みを浮かべていた一ノ瀬ヒナはあっさりと引き下がった。代わりに、怪訝な顔をこちらに向ける。

 

「じゃあなんなのよ。というか、戦えないくせに一人でノコノコ出てくるとか、舐めてるの?」

「舐めてるだなんて。自分ほどヒナさんを評価している者もそういないと思うっすよ」

「あ、そう? 私、最強?」

「自分などとはあまりに次元が違うので、正確な判断はできかねますが……間違いなく最強の一角でしょうね」

 

 実際、彼女が陛下などよりも強いかは判断しかねるが……届きうる可能性はあるというのが、自分の考えだった。それを聞いた一ノ瀬ヒナは、目に見えて機嫌を良くする。

 

「ふふん、あんた良い奴ね」

「良い奴、ですか」

 

 その言葉に、自分は思わず苦笑した。

 

「なによ?」

「いえ、自分は……平気な顔で命を奪う兵器を造り、果ては知性ある命も兵器にする、血も涙もない女ですから。その評価は正しくないっすよ」

「ふーん?」

 

 なぜか……そんなつもりはなかったはずなのに、口から出てきたのは罪の告白だった。それを聞かされた一ノ瀬ヒナは、興味があるのかないのか曖昧な相槌を返すだけ。その反応は……正直、意外だった。

 

「……何も、思わないんすか?」

 

 一ノ瀬ヒナは、自分の生体兵器にトドメを刺さない。必ず無力化に留めていた。なにか、執念を感じるほどに。そこから、彼女は命を奪うことに拒否感があるのではないか、そこには自身の危険を顧みないほどに徹底した、潔癖とも言える正義感を持つ人物なのではないかと推測していたから。もしその通りの人物であったなら、自分の行いを許さないだろう。

 

「よく分かんないわね。私はあんたの被害者じゃないし、あんたに兵器にされた命でもないし。私が何か文句を言う立場じゃないんじゃない?」

 

 あっけからんと、彼女はそう言ってのけた。

 

「被害者……ではあるんじゃないっすか」

「そう? もうあんたの兵器なんて私の敵じゃないけど」

「それには返す言葉もありませんが……ヒナさんのお仲間は……」

 

 一ノ瀬ヒナの他にも、魔法少女はいる。彼女たちのうち何人かは、自分の兵器に敗れ仮死状態に陥っていた。魔法少女が想像通りの存在であるならば、まだ助かる道はあるが……間違いなく、ヒナの仲間は被害を受けている。

 

「まぁ、それはね。私より弱いあの子たちを戦場に立たせた私がいけなかったというのもあるし。そもそも、あの子たちは普通にそっちの奴の命を奪ってたしね、一方的な被害者ではないんじゃない?」

「それは……そもそも自分たちが……」

「まぁその点! 私は誰も殺してないけど!」

 

 事情はあれど、そもそも攻め込んだのはこちら側……と言おうとして、ヒナに自慢げな声に遮られる。

 

「それは……なぜなんすか? なぜ、殺さないよう固執しているんすか?」

「簡単ね。殺して勝つより、殺さずに勝つ方が難しいでしょ?」

「まぁ、はい」

「最強の私は、常に難しい道を行くわ。そっちの方が誇らしいから」

「……はは、凄いっすね」

 

 真似できないし、理解しがたい考えだった。だけどもヒナは……自分のような日陰者にとって、直視のできない類いの光ではなく、焦がれずにはいられない、その背を追ってみたくなってしまうような光なのだと、そう感じた。

 

「……良いんすか? 自分をタダで帰してしまって」

「別に? 問題ないし」

「ヒナさんをぎゃふんと言わせるような兵器を造るかもしれないっすよ」

「望むところね、サンゾラス」

 

 半日ほど、立場を忘れて語り合った自分とヒナは、そうして何もなかったかのように別れた。もうすっかり、一ノ瀬ヒナの強さ、人柄、言葉が脳裏に刻みついていることを内に秘めながら。

 

 

 ひっそりと帰還を果たした自分は、やがてヒナのある言葉を思い出した。

 

『私はあんたの被害者じゃないし、あんたに兵器にされた命でもないし。私が何か文句を言う立場じゃないんじゃない?』

 

 罪だらけの人生を送ってきた自覚はあるが、それは自分の心で完結していたもの。被害者……国の、陛下の敵にそれを聞くことは不可能かつ無駄だけれど、後者なら確かめることができる。生み出された命が、自分をどう思っているのか。

 

 そう考えた自分は、一枚の嘆願書を作成した。

 

 

「私を、助手に……? 光栄です、サンゾラス様!」

「まぁ、期待してるっす」

 

 本当に、心底嬉しそうにしかみえない笑顔で喜ぶ少女。彼女こそ、早期にヒナに敗れ、配置転換が予定されていたあの生体兵器。自分が要望を出し、この研究室に招いたのだった。

 

 嫌だろうな、と思っていた。昨日まで戦闘を求められていた身だというのに突然別のことを求められるのも、よりによって自分と長時間いることなど。けれど、現実には彼女は喜んでいるように見える。そんな彼女に、本当はもっと落ち着いてからにするつもりだったのだが、つい、聞いてしまった。

 

「嫌なら、断ってくれても良いんすよ。戦闘の方が、スペックを発揮できるでしょうし……」

「いえ! 私は、サンゾラス様の役に立ちたいんです!」

 

 予想もしていなかった言葉に、目を丸くしてしまったのが自分でも分かった。

 

「……なぜっすか? 自分は……あなたを勝手に生み出して、勝手に力を与えて、選択肢のない人生を……」

「今の私があるのは、サンゾラス様のおかげですから。それに、サンゾラス様は私に……私たちに直接色んなことを教えてくれました。優しく、一人一人に……短い子供時代でしたが、あの時間があったから私たちは頑張って来れたのです」

「……!」

 

 尊敬の眼差しを向けてくる少女。だがそれは……あまりにも釣り合っていないだろう。本当に、大したことはしていないのだ。知性も武器になる彼女たちの短い子供時代の間に、必要な知識を詰め込むための教育。それを手ずから施しただけのこと。

 

「……アイン」

「! 名前を……っ」

 

 その頃は、彼女をそう呼んでいた。彼女だけではない。同型の皆に、それぞれ名前をつけて……忘れたことなどなかった。必要がないから、兵器になってからは呼ばなかっただけで。それなのに、名前を呼んだだけでアインは感激して涙を浮かべた。

 

「そういうことなら、これから頼むっす。アイン」

「……はい! あの、それと……サンゾラス様……」

 

 気恥ずかしくなって話を切り上げようとすると、アインは迷いを見せながら自分を引き留めた。しばらく言葉を待つと、彼女は顔を赤くして言葉を紡ぐ。

 

「業務時間でないときは、その……お母様と、お呼びしても……」

「……まぁ、いいっすけど」

 

 まぁいいかと了承すると、アインは綻ぶような笑みを浮かべて……心の奥にしまっていた罪悪感が、和らぐような気がしたのだった。

 

 

 

 

「一ノ瀬ヒナ……!」

「やはり、ヒナさんは異常っすね」

 

 上からの命令に反して、今日も自分はヒナに勝つ方法を考えていた。アインの方も、一度負けた相手というのもあって、かなり肩の力が入っている。

 

 他の魔法少女と規格は共通しているはずなのに、ヒナの力は一線を画す。異常と言っていい力だ。なにか、ヒナ自身に秘密があるとしか考えられない。

 

「ヒナさんの遺伝情報を手に入れることができれば……」

「私たちを応用した、一ノ瀬ヒナのクローンということですか? それなら可能性は……」

 

 ヒナの強さがなにか後天的なものに起因するなら、これはかなり良いアプローチだと思われる。そうでなくとも、解析のためにヒナの生体情報は手に入れておいて損はない。

 

 ふむ……ヒナのクローンか……アインたちのノウハウを応用するなら、ヒナさんと同じ姿の子供を教育することになるが……。

 

「子供……ヒナさんの、子供……」

「サンゾラス様?」

 

 ……技術的には、可能だ。クローンではなく、ヒナさんの……肝心のヒナさんの協力があればだが、あの、ヒナさんの……強く、眩しく、格好よくて、そして靱いヒナさんとの……うん、悪くない。それどころか、とても良いアイデアな気がしてくる。

 

「……アイン」

「はい?」

「妹の親がヒナさんってのは、どうすか?」

「えっ……えっ?」

「技術的には、できるはずっす。ヒナさんに協力してもらって、まずは自分が──」

「えっ……嫌です」

「いや、でも……」

「嫌です」

「……」

「……」

 

 初めて反発された……?

 

 

「ただちょっと……自分にヒナさんの子種を恵んでほしいなぁ、と」

「こだね……?」

 

 寄ってきたサンゾラスがよく分からないことを言うので、思わず聞き返す。すると、サンゾラスは小声で耳元に囁いてきた、

 

「ヒナさんの子供が欲しいので、そのための協力を、と思いまして」

「は、はぁっ!?」

 

 ヘンなことを急に囁いてきたサンゾラスに、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「そ、そういうのって……男女じゃないと無理なんじゃないの? 保健の授業でやったんあだけど……」

「通常はそうなんですが、自分の技術ならできないこともないっす」

「そ、そうなの?」

「えぇ。それに、そういった普通の行為と違って恥ずかしくもいやらしくもないですし、すぐに済みます。その後のことも、ヒナさんが心配することは何もないですから……最強のヒナさんならなんてことのない、予防接種みたいなもんっすよ」

「そう……なら余裕ね!」

 

 サンゾラスの話だと、ぜんぜん大したことではなさそうだった。最強の私なら問題ないと言われて逃げるわけにはいかない。私の想像しているようなその……ヘンなのじゃなさそうだし、素直にサンゾラスについて行こうとした、その時だった。

 

 喧嘩をしていたはずのセレス、冬歌、イミーが私とサンゾラスの行方を阻む。なんか……戦闘前みたいな雰囲気だ。

 

「ヒナを連れてどこへ行く気なのかな、サンゾラス」

「おや、皆様方。自分はただ、少しヒナさんに実験に協力してもらおうとしただけっすよ」

「その実験の詳細について、正確な報告を求めるわ。偽れば……覚悟することね、サンゾラス」

「そうは言われましても。自分はイミスティル様の指揮下にはありませんので」

「なら、私の問いには答えられるということで良いのかな?」

「そ、そうだよ! その実験、私が先に実験台になりたい!」

「おや、冬歌さん。自分はそれでも構わないっすけど」

「なっ!? そちらにつくのか冬歌!?」

 

 ガヤガヤと、今度は四人で口喧嘩になってしまった。私が中心の話題……というのは辛うじて分かるけど、一周回って蚊帳の外だ。

 

「一ノ瀬ヒナ……」

 

 よく分からないので一歩引いて眺めていると、目の前に人影が現れる。見れば、どこかで見たことがあるような気が……記憶を探ると、思い当たる顔があった。

 

「あ、思い出した! あんた、随分前に私が返り討ちにした……」

「私は認めません! あなたを、父とは、決して……!」

「……????????????」

 

 それだけ言って、その少女は涙ながらに去って行った。

 

 父……??……?……????? 聞き間違い……???

 

 

 理解を諦めて騒ぎの方を見ると、未だにセレスと冬歌とイミーとサンゾラスが何やら言い争っていた。なにこれ……? 私、帰ってもいい……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──一ノ瀬ヒナが放心していた、その頃。地球においても、一ノ瀬ヒナの失踪に勘づく者たちが現れ始めるのだった──

 

 

 

 






~~みたいな感じで、純粋つよつよ無自覚女子が知らぬ間に地獄を作っちゃうお話、読みたーーーーい! よね?って話でした。そういうの、誰か書いてくれないかなぁ(チラッチラッ

 ……あ、多分続かないです
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