「ハイ変わったー! お前なんで汁物にそんな劇薬混ぜんだよ! 廃棄だ廃棄!」
「えぇ?!」
「真面目にやれ真面目に!」スパーン
「は、はぃいいい!!」
なぜこんなことになったのか、それは数時間前にさかのぼる。
数時間前
「ここでしたよね・・・」
休日でありながら彼女、姫路瑞樹は学校に来ていた。
・・・エプロンを用意して。
彼女は指定された部屋、家庭科室に来ていた。
そしてガラガラと扉を開ける。
「よっ」
そこには彩樹天龍がいた。
「ああ、天龍さん。どうしたんですか?」
「いや、お前を呼んだのは俺だけどさ。お前、なんで呼ばれたかわかるか?」
「?」
姫路は首をかしげる。当たり前である。彼女には実際心当たりがないからである。
「わかった。説明しよう。お前を呼んだ理由は料理の改善だ」
「料理の改善、ですか・・・?」
「ああ」
姫路が復唱するようにつぶやくと天龍はうなずいた。
「お前の料理ははっきり言ってまずいとか言う味覚の次元をはるかに超えてしまっている。それを改善するためにここにお前を呼んだ。というわけで」
そう言いながら天龍はキッチンを指さした。
「米1合、そして味噌汁の具材にサンマだ。これで料理を作ってみろ」
「え、あ、はい」
「じゃあちょっとほっつき歩いてくるから。できたら携帯で呼べ。味見してやる」
「はい!」
彼女はエプロンをつけて腕まくりをすると料理に取り掛かった。
天龍はそれを見ると部屋を出ていった。
~しばらくして~
「できたのか」
携帯で連絡が入ったので天龍が家庭科室に帰ってきた。
「はい!」
そこには見た目はすごく良い料理が出来上がっていた。
「・・・」
天龍は味噌汁を少しかぐ。
「・・・おい、ピンク。いや、姫路」
「なんですか?」
「これすごい薬品の匂いがするんだが、お前何入れたんだ?それになんでガラスの器なんだ?」
「えっとですね・・・」
姫路は頬に人差し指を当てて言った。
「塩酸をちょっと」
次の瞬間、天龍のハリセンが姫路の頭をひっぱたいた。すごくいい音がした。
「痛いですぅ!」
「当たり前だ! 器が普通に溶解するわ! だからお前いつもガラスなんだな?!」
「は、はぃいい!!」
「・・・まあ、これは捨てるとしてだな。で、この米は?お前何か仕込んだんじゃないだろうな?」
そう言いながらおにぎりを少し口にする。そして吐き出した。
「・・・すごい変な味がするんだが、どういうことだ?」
「えっとですね。お米って洗うじゃないですか?」
「そうだな」
「だから」
「だから?」
「漂白剤を・・・」
次の瞬間、再びハリセンが姫路の頭をひっぱたいた。
「痛いですぅ!!」
「殺す気か! 水で十分だわ!」
「え? でも洗うんですよ?」
「水で十分だっつの! 洗濯か! シャツ洗ってんじゃねぇんだぞ?!」
そして天龍は焼かれたサンマをみる。
「これはまともに見えるな・・・」
そう言いながらサンマをかじる。
すると天龍は無言で洗面台に歩いたかと思うと
「オェエエ・・・」
吐いた。
「は、はいたぁ?!」
「お前これ何入れた! これだけはいつもと違ってまともだと思った俺がバカだったわ! オイこれホントに何入れたんだ!」
「えっとですね・・・、ちょっと色合いが悪かったので」
「おう」
「着色料を・・・」
次の瞬間、ハリセンが今度は姫路の胸をひっぱたいた。豊満な胸がぽよよんと揺れた。
「今度は胸ですかぁ?!」
「てめぇは何を作ってんだよ! 今は美術の授業じゃねぇしレプリカを作ってんじゃねぇんだぞ?! 殺す気か!」
「えっと・・・」
「なんだ? 言い訳だけなら聞いてやるぞ?」
「ホントに色合いが悪かったので・・・」
「だからと言って着色料を入れる意味がホントにわからねぇんだけど? お前俺になんかうらみでもある? あるんだったら今すぐ謝るけど」
「ないですよ?」
「そうか。・・・つまり普通にやってこれか?」
「はい」
「そっか~・・・」
そう言いながら天龍は腕組みする。
「わかった。おまえを徹底的に叩き直す。」
「ふぇ?」
「お前、もうすぐ運動会だろ?」
「はい!」
「だったらお弁当作るよな? お人よしのお前のことだ。絶対みんなのためにおにぎりでも握るだろうな」
「はい!」
「いい返事だ。まあ、そこでだ。今のままだったらお前は人を殺めてしまう可能性が高い。」
「・・・ふぇ?」
「つまりだ。今のまま薬品をぶちこみまくってたらいつか死人が出てお前は刑務所行きだ。それだけは嫌だろ?」
「はい」
「それに」
「?」
「お前の将来にお婿さんがかわいそうだ。仕事が終わって帰ってきたら待っていたのはくそまずい料理・・・。いつか『嫁の飯がまずい』とかいうスレ建てられるのがオチだぜ?」
「えぇ?!」
「そういうの嫌だろ?」
「・・・はい」
「そうならないためにもお前をここで今鍛えなおそうと思ってるわけだよ、わかる?」
「はい!」
「いい返事だな。よし、やるぞ」
「はい!」
~☆~
「お前の」
「はい」
「料理は」
「はい」
「ハイッ豚のエサぁああああああ!!!!」
「豚の、エサ・・・」ガクッ
~☆~
「お前」
「はい」
「なんで化学の実験してるんだ?」
「・・・エヘッ」
「(無言のハリセン)」
「痛いですぅ!」
~☆~
「お前さ」
「・・・はい」
「ホント学習能力ねぇな! 鍋とけるに決まってるだろ?!」
「偶然なんですぅ!」
「うるせぇ!」
~☆~
「「・・・」」
メキメキ・・・(サンマの頭が4つに分裂する音)
「なーんでサンマがキメラみたいになってんだよぶち転がすぞ」
「なんでなんでしょうね・・・」
「お前いつかキメラを大量生産しそうですげぇ怖いんだけど・・・」
「それは、ない、です、よ・・・?」
「なぁんでそこで断言できねぇんだよ・・・」
~☆~
「ここまで(いろんな意味で)苦戦した相手はお前が初めてだわ・・・」
「じゃあ、天龍さんの初めては私ですね!」
「・・・」
「ごめんなさいちょっと冗談で言いましただから無言で拳を握らないでくださいお願いします」
「ふん!」スパーン
「ハリセンですかぁ?!!」
「握った拳は飾りだぁ!」
「後から言うんですね・・・」
「ハイ変わったー! お前なんで汁物にそんな劇薬混ぜんだよ! 廃棄だ廃棄!」
「えぇ?!」
「真面目にやれ真面目に!」スパーン
「は、はぃいいい!!」
そして今に至る。少しはましになった姫路瑞樹。しかし、薬品を入れる癖は直っていない。
「・・・」
すると天龍はドカッと椅子に座った。
「天龍さん・・・?」
「姫路」
「はい、なんでしょう?」
「お前ここに座れ」
「はい」
姫路は天龍の目の前の椅子に座る。
「姫路」
「はい」
「生きるってどういうことかわかるか?」
「・・・へ?」
「だから生きるとはどういうことかって聞いているんだ」
「それは・・・」
「わかった。もういい。俺が言う。
生きるっていうのはな、誰かの命を喰らうってことだ。」
「・・・」
「サンマだってもともとは生きていたものだ。鶏肉だって豚肉だって牛の肉だってもともとは生きていた物の肉だ。それは野菜にも言えることだがな」
「・・・」
「料理をする、食事をとるというのはその生きていたものに対する一種の感謝みたいなものだ。いただきますというのがいい例だな」
「・・・」
「そして食べ物を粗末にすることは人の思いや命を無下にすることだ。わかるか?」
「・・・はい」
「つまりだな、姫路。お前が今やっていることは」
「・・・」
「はっきり言って生きていたものに対する冒涜でしかない」
「・・・」
「これ以上改善する気がないのならお前はさっさとこの世からいなくなればいいと思う。感謝もできないような人間が生きる必要性はないからだ」
「・・・グス」
「それが嫌ならその癖を直せ。そしてうまくなれ。手伝ってやるから」
「・・・ほんとですか?」
「ああ、今回ばかりは嘘はつかねぇ」
「・・・やります」
「そうか。だったら俺は最後までそれにこたえなければな」
そう言って姫路を立ち上がらせる。
「・・・チャレンジ、しようぜ?」
「はい!」
~☆~
「・・・お、だいぶ良くなったな」
「ホントですか?!」
「ああ。だがまだまだだ。お前ならできるだろ?」
「はい!」
~☆~
「もう少しだな」
「はい!」
「と言っても赤みそと白みそを混ぜるのはいただけないな」
「う・・・」
「まあ、次から直せばいいさ」
「はい!」
~☆~
「おい、休憩だ」
「へ?」
「ずっと立っているのも疲れただろう。ほら、ショートケーキだ」
「えぇ?! 食べていいんですか?」
「食べていいぞ」
「わーい!」
そして・・・。
「・・・まあ、及第点だな」
「本当ですか?!」
「ああ、普通に食える範囲だな。よくやったぞ」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして」
そう言いながら天龍は片付けを始める。
「姫路、手伝え」
「はい!」
二人は食器を洗い始めた。
~しばらくして~
「いや~、疲れたな~」
「はい、そうですね~」
二人は帰り道を歩いていた。
「これでお前は晴れて殺人料理人から普通の料理人になったな」
「そうですね」
「あー・・・舌がしびれてるなぁ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だろ。ハハッ」
「フフッ」
そんなことを話しながら二人は笑いあった。
続く