双子の姉のせいで弟妹達が皆死んだんですけど、僕はどうすればいいでしょうか? 作:セイコウ
助けなんていりません。
求めません。
これ以上は、『家族』以外は何も欲しがりません。
だから、せめて、今の地獄の上も下も知らないままで、死なせてください。
少年はヒーローに対してそう思った。
だけど、そうは言わなかった。
だって彼は、
とある国……今回はN国とでも呼ぼうか。
そのN国には、とある秘密の研究所があった。
そこでは生物兵器、クローン人間の製造など様々な非人道的な実験が行われていたのだが、その中でも最たるモノがナニかと問われれば、それは『
『
それは、元々その研究所で行われていた人造人間を生み出す実験の過程で、偶然産まれた生きモノの名、及び、その生きモノに関する実験の俗称だ。
『
図らずも産まれた彼らは、その偶然の発生後すぐに、N国の軍部の幹部達により、生物兵器として量産されることが決定された。
また一番最初に誕生した2体と、量産されることが決まる前にすでに培養されていた28体には、水攻めや毒の投与、火炎放射器の噴射など、拷問まがい……というか、もはや殺意すらあるのではと思わされる実験が施された。
それじゃあどうして研究者達は、彼らにそんな所業をしたのかというと、実は彼らの肉体は、千変万化となり得るだけで、最初からその機能が備わっているワケではなかったのだ。
例えば体を水に変えるには、水という物体の法則について把握していないと変化出来ない。
まぁ、人間は難解な数学の問題を解くだけの潜在能力を持っているが、公式を覚えなければ実際に解くことは出来ない、というのと似たようなモノだ。
そして研究者達は、「法則は体に覚えされるのが一番早い」と考え、彼らに様々な刺激を与えた。
まぁその成果は、実り多いモノとはとても言えなかったが、それは然程重要ではない。
肝要なのは、その実験を行ったN国に対する、周りの国々の対応だ。
いくら秘密にしようと、情報というものを完璧に秘匿しきることは出来ない。
『
だが、N国がその要請を受け入れることはなかった。
すると連合軍は、『子供達の人権を守る!』と声明を発表し(人造人間の失敗作である彼らに、『人権』とやらが存在するかは甚だ疑問だが)、すぐさまモルモットとなっている産まれたばかりの子供達を救助するための部隊を結成した。
まぁその部隊が結成された頃は、N国と周りの国々の連合軍による戦争が近い内に始まるであろうことを、どの国の国民もが薄っすら察しているような、そういう緊迫した時期だったので、モルモット達の救助、もといその研究所への襲撃は、N国の戦力を削るという意味も、多分に含んでいたのだろう。
まぁ連合国の意図はどうであれ、事実として、そのモルモットの子供達への救助作戦は確かに実行された。
連合軍の兵士達は、その研究所を襲撃した。
だが、N国の研究所、そこに眠っていた未知の兵器達は、連合軍の想定を遥かに上回るモノばかりだった。
皮膚からも感染する、致死率80%の人工ウイルス。
光学迷彩を備えたドローン兵器。
人造人間による、無尽蔵の兵士達。
この恐るべき兵器達に、連合軍は撤退を余儀なくされた。
そしてそれは、『
事実、彼らが隔離されていた研究所内の部屋に辿り着けた連合軍の兵士は、スペース・ニヒルという名の女性兵士ただ一人だけだったのだ。
スペースは、モルモット達の前で、涙ながらに言った。
「本来に、ゴメン。今の私達じゃ、アナタ達全員を助けることは出来ない。」
スペース……そのクソったれなヒーローは、自らの所属する組織の被害をこれ以上増やさないために、憐れなモルモットの子供達を見捨てると、そう言ったのだ。
「だけど、それでも、一人、一人だけなら、助けられる。」
あまつさえそのヒーローは、残酷な選択をその子供達に強いた。
一人。
たった一人だけを助ける。
だからその代わり、それ以外は助けない。
その時子供達には、大きく分けて3つの選択肢が提示された。
その1……「自分を助けてくれ!」と主張する。
他のモルモット達……彼らにとっては、互いに『家族』と認識している存在を見放して、自分のみを優先して、そのヒーローの手を取る。
その2……誰か一人を選び、「この子を助けてくれ」と懇願する。
自分を含めたその子以外の29人が助かる可能性を自らの手で切り捨て、その誰かにヒーローの手を取らせる。
その3……全員で、誰一人として、ヒーローの助けの手を取らない。
全員が、これから先もモルモットとして非道な実験に苦しみ続ける代わりに、『家族』が離れ離れにならないようにする。
まぁ結局の所、どれを選んでも子供達にとってロクな結末には行き着かないのに変わりはない。
ただ今回の場合、子供達は『その2』を選んだ。
たった一人。
『
モルモット達の姉貴分だった個体。
研究者達からは1號と呼ばれていた彼女を「助けてくれ」と、他のモルモット達は必死にヒーローに懇願した。
「絶対!!絶対皆を助けに来るから!!お姉ちゃんが絶対に、皆を助けに戻って来るから!!」
彼女はヒーローに抱えられながら、残される他のモルモット達にそう言った。
涙ながらに、残して行く弟達に希望を与えた。
「うん!!待ってる!!」
弟達と、最初の二人のもう片方である兄貴分……2號と呼ばれた個体は、その姉の言葉を信じた。
姉からの希望を胸に、これからも苦しむ覚悟を決めた。
ただ、そんな覚悟も虚しく、残された彼らは、たった一人を除いて皆死ぬことになる。
モルモット達の姉貴分のみがヒーローに救われ、そこから間もなくして、案の定というかなんというか、当たり前のように、N国と連合国の戦争は始まった。
ただ最初の内は、特にモルモット達には何の影響もなかった。
彼らは生物兵器として量産された存在だったが、まだまだ研究者達は彼らの十分なデータを取れていなかったので、彼らは依然研究所の一室に閉じ込められ、戦場には送られなかったのだ。
故に彼らは戦争が始まってからも、これまでと同じような実験をされて、これまで通りの、苦悶の叫びを上げるだけだった。
そしてその程度のことを耐えるのは、覚悟を決めたモルモット達にとっては容易いことだった。
だが、戦争が進むにつれて状況は変わる。
いや、この表現は正しくないな。
正確には、ヒーローに救われ、その後に連合軍に参加した、かつては1號と呼ばれた個体……連合軍の仲間から、アポスと名付けられた彼女が、戦場で活躍をし始めると、モルモット達を取り巻く環境は一変した。
まずそもそもの話として、アポスの兵器としての性能はズバ抜けていた。
敵からのあらゆる攻撃を、時にはダイヤに、時には水に、またあるときには空気に、自らの体を変化させることで耐えきり、受け流し、敵を攻める時は、自らの体を電気に変容され、雷の槍として敵陣に突っ込む。
その強大な力を駆使して、連合軍の敗戦必至と言われた戦線を連合軍の勝利に導き、N国の不敗の参謀をも討ち取ったアポスは、連合国の国民から、英雄とも、勝利の女神とも称された。
そしてその連合国での名声は、悪名という形で、N国にも響き渡る。
それは当然N国の上層部や研究者共も例外ではないワケで、アポスが連合軍の兵士として戦果を挙げれば挙げるほど、彼らはアポスと同族であるモルモット達に、大きな関心と期待を向けた。
彼らの個体数を増やすための培養はさらに促進され、産み出された彼らが苦しむ場所は、研究所の中から、戦場の最前線に移り変わった。
ただ悲しいかな。
どうやらアポスは、『
アポスと他の『
アポスは体の全てを人の肉以外の物質に変えることが出来たが他の『
アポスはどんな攻撃を受けても、体をその時の状況に適したモノに変化させ、それらの攻撃全てを耐えきったが、他の『
また、アポスは自らの持つ質量以上の物質に体を変化されることが出来たが、他の『
アポスは自らの体を変化させることで、炎の竜巻すら起こし、その炎で敵陣全てを飲み込むことすら出来たが、他の『
つまるところ、アポス以外の『
そのため大量に培養された『
普通の人間程度の力しかないのに、アポス並の戦力を期待された結果、その全てが過酷極める戦場の最前線に送られたからだ。
結果としてN国は、
『
『
『
増やさずに、消費し続ければすぐになくなるのが、この世の道理だ。
その道理に従い、アポス以外の
アポス以外にも一人だけいるのだ。
生き残ってしまった『
最初の二人の片割れ。
救われなかった方。
アポスではなかった方。
突然変異種であるアポスと同じ性能を持ち、故に死ねなかった少年。
N国の仲間からデクアルと呼ばれるようになるその少年。
彼こそが、この物語の主人公だ。
「キミを、キミ達を助けるっていう約束を、ボクは守れなかった。ボクは、キミ達との約束を最悪のカタチで破った。いや、破るなんて次元じゃない。ボクは守るどころか、ボクのせいでキミ達を傷つけた。これは、許されざる罪悪だ。でも、それでも、いや、だからこそ、ボクにその罪を償わせてくれないか?」
今はアポス、かつては失敗作1號と呼ばれたその少女は、自分と瓜二つの容姿をした少年に、涙ながらに問いかけた。
いつか彼女がスペースに、モルモット達を助けに来た正義の味方に、手を伸ばしたように。
「なぁ2號、いや、デクアル。キミはボクに、何をして欲しい?」
アポスの問いに対して、失敗作2號……デクアルは無機質に答えた。
その縋る手を、切り落とすために。
「……別に、何も。僕はお前に、何もして欲しくない。」
それが、デクアルの本心だった。
彼からすれば、スペースの……ヒーローのお節介のせいで、全てを失ったのだ。
ヒーローが助けに来たせいで、片割れが自分達の元を去った。
あまつさえ、希望を押し付けられた。
そして片割れの……アポスのせいで、他の『家族』が……元から居た『家族』も、片割れが居なくなってから増えたたくさんの『家族』も、みんなみんな死んだ。
アポスに絶望を、齎された。
だから、余計なことをコレ以上しないでくれ、というのが、紛れもない彼の本音だ。
「僕はあの時お前に、ヒーローの手を取って欲しくなかったんだよ。」
彼はあの時言わなかったことを、何もかもが手遅れになった今になってようやく言った。
「う、あ……う。」
アポスは、うめき声を上げるばかりで、言葉らしい言葉を象ることは出来なかった。
つまるところこれは、少ししかない『大切』を守りたかっただけの少年が、そのうちの一つの『大切』のせいで、たくさんの『大切』を失う物語だ。
それでも少年が幸せになろうとする、ハッピーエンドを目指す物語だ。
クソな正義の味方って、書くの難しいっていうか、書けなくないですか?