斉木楠雄の災難 〜魔法少女が生まれる前から、僕の日常は終わっていた〜 作:saiki!!
この物語は、『斉木楠雄の災難』の主人公が、もしも『リリカルなのは』の原作開始前の海鳴市に転校してきたら……という妄想から生まれたクロスオーバー作品です。
超能力者なら魔法なんて余裕でしょ?と思われるかもしれませんが、彼にとっては魔法少女の砲撃よりも、近所の喫茶店のコーヒーゼリーの方が死活問題です。
•設定: 斉木楠雄は原作通りのスペック(無自覚無双)。
•時間軸: なのはが魔法少女になる数年前(高校生編)からスタート。
•注意: 独自解釈や、高町家・月村家との深い関わり(ハーレム含む)があります。
楠雄の平穏が音を立てて崩れていく様を、どうぞ温かい目で見守ってください。
やれやれ、それでは本編をどうぞ。
『第1話:魔法少女が生まれる前の、終わりの始まり』
空が鳴っている。物理法則を無視したピンク色の光が、夜空を昼間のように照らしていた。
中心にいるのは、白い防護服(バリアジャケット)に身を包んだ少女──高町なのは。
「少し、頭冷やそうか」
彼女が手にした杖から、街一つを消し飛ばしかねない膨大なエネルギーが収束していく。
僕はそれを、近所のビルの屋上で眺めていた。もちろん、最後の一口のコーヒーゼリーを味わいながらだ。
(……やれやれ。少しどころか、街ごと氷河期が来そうな威力だな。というか、なのは。君、昔はあんなに大人しくて可愛い子だったじゃないか。……どうしてこうなった?)
僕は空中で爆発する光の奔流を見つめながら、数年前の記憶のページをめくった。
すべての元凶は、親の転勤でこの海鳴市に来た高校1年の春……。
海鳴大学付属高校の屋上で、僕が『高町恭也』と『月村しのぶ』という、この世界の理外に生きる二人組に出会ったあの日から始まったんだ。
(……そう。思えばあの時、僕はまだこの街の恐ろしさを知らなかったんだ。)
【数年前:海鳴大学付属高校 屋上】
春の風が吹き抜ける屋上。
僕は一人、平穏を噛み締めていた。
転校してきて一週間。目立たず、騒がれず、モブとして溶け込む。超能力者にとって、これ以上の贅沢はない。
手に持っているのは、購買で最後の一つだった期間限定の『極上プレミアムコーヒーゼリー』。
スプーンですくい、口へ運ぼうとしたその時だ。
【海鳴大学付属高校 屋上】
「——ほう。その若さで、一点の曇りもない『静』の境地か。お前、名は?」
背後からかけられた声に、僕は心底ため息をつきたくなった。
せっかく手に入れた期間限定コーヒーゼリー。最後の一口を、春の風と共に優雅に楽しむはずだったのに。
斉木:「(……斉木楠雄。ただの転校生だ。悪いが、今はこのゼリーとの対話に忙しいんだ。できれば透明人間だと思って通り過ぎてくれ)」
「斉木……か。いい名だ。俺は高町恭也。お前、どこの流派だ? その無駄のない座り方……かなりの使い手と見たぞ!」
隣に立つ少女、月村しのぶは、興味なさげに前髪をいじりながらため息をついた。
しのぶ:「……恭也、また始まったの? その辺の大人しそうな生徒を捕まえて『達人だ』なんて。……斉木くんだったかしら? ごめんなさいね、この人、剣のことになると少し頭が弱くなるの」
しのぶは僕を一瞥(いちべつ)した。その瞳には、僕を『その他大勢のモブ』として処理した冷たい光が宿っている。
斉木:「(……それでいい。月村しのぶ。君のような面倒な背景を持っていそうな人間には、一生そう思われていたいものだ)」
だが、この場にはもう一人、僕を「モブ」として扱ってくれない存在がいた。
士郎(霊):『……え? 嘘だろ。君、今、僕と目が合わなかったか……?』
恭也の背後でふわふわと浮いている、エプロン姿の男。
不慮の事故で亡くなったはずの、高町家の主──高町士郎の幽霊だ。
士郎(霊):『君……見えるんだろ? わかるぞ、他の人間とは波長が違う! お願いだ、僕の家族の様子を、もっと近くで見てやってくれないか!?』
斉木:「(……やれやれ。幽霊まで熱血漢か。無視だ。これ以上、この家の事情に関わるのは命取りだ)」
しのぶ:「さあ恭也、行くわよ。次は移動教室なんだから」
恭也:「……むう。斉木、またな! 次回は手合わせ願いたい!」
しのぶは最後まで僕に興味を示すことなく、恭也の腕を引いて屋上を去っていった。
【放課後:喫茶「翠屋」店前】
結局、僕はここに来てしまった。
士郎(霊):『さあ、入ってくれ斉木くん! ここのコーヒーゼリーは、僕がレシピを完成させた自慢の一品なんだ! 今は妻の桃子が味を守ってる。絶対後悔はさせないよ!』
斉木:「(……やれやれ。幽霊の勧誘がこれほどしつこいとは計算外だ。……いや、あくまで僕は『ゼリーを食べる』という目的のために来ただけだ。家族を守ってくれという君の頼みを聞きに来たわけじゃない)」
僕はカランコロンと、落ち着いた音を立てるドアを開けた。
【店内】
桃子:「いらっしゃいませ! ……あら、恭也と同じ制服ね。お友達?」
カウンターの奥から現れたのは、淡いピンクのエプロンをつけた女性、高町桃子さん。
その笑顔は、夫を亡くしたばかりとは思えないほど温かい。
だが、僕の耳には届いてしまう。
桃子:(……あ、いけない。今、士郎さんがいつも立っていた場所を振り返っちゃった。……もういないって分かってるのに。しっかりしなきゃ!なのは達の前では、笑っていなきゃね)
斉木:「(…………。)」
僕は黙って席につき、メニューも見ずに注文した。
斉木:「コーヒーゼリーを。……あと、あまり干渉されない席がいいです」
桃子:「ふふ、面白い子。わかったわ、一番奥の特等席ね。今、特別に美味しいのを持ってくるわね」
彼女が奥へ引っ込んだ隙に、士郎さんの霊が僕の目の前に座った。
士郎(霊):『……ありがとう、斉木くん。君が来てくれるだけで、なんだか店が明るくなった気がするよ。……実はね、最近この街の空気が騒がしいんだ。僕が生きていれば戦えたんだろうけど……』
斉木:「(……話しかけるな。僕は今、ゼリーに全神経を集中させるのだから)」
そこへ、店の奥からパタパタと小さな足音が響いてきた。
なのは:「ママ、おてつだいするー! ……あ、おにいちゃん、だあれ?」
幼いなのはが、目を丸くして僕を見上げている。
その純粋な瞳。後の「白い魔王」の面影など微塵もない、ただの守るべき少女。
斉木:「(……やれやれ。どいつもこいつも、僕の平穏を削りに来る)」
【その時、店のドアが開く】
しのぶ:「あら、恭也。忘れ物よ……って、あら?」
店に入ってきたのは、着替えたばかりの私服姿の月村しのぶだった。
彼女は、一番奥の席で幼いなのはに絡まれている僕を見て、今日一番の「不審なものを見る目」を向けた。
しのぶ:(……斉木くん、だったかしら。恭也が騒いでいただけの、ただの地味な転校生。……でも、どうして? うちの猛犬(恭也)や、警戒心の強いなのはが、あんなに短時間で懐いているの?)
しのぶの冷ややかな視線が、少しだけ鋭さを増す。
彼女の中で、僕という存在が「風景」から「観察対象」へと、ほんの数ミリ、ランクアップした瞬間だった。
(……士郎さん…霊の話を適当に聞き流していると、厨房から「お待たせしました」という優しい声と共に、その『至宝』は運ばれてきた。)
桃子:「はい、特製コーヒーゼリーよ。こだわって作った、うちの自慢の一品。……お口に合うといいんだけど」
目の前に置かれたのは、深い漆黒の宝石のようなゼリー。その上には、計算し尽くされた量のアングレーズソースが、まるで芸術品のようにかかっている。
斉木:「(……っ!? この、鼻を抜ける芳醇な豆の香りと、一切の雑味がないクリアな光沢……。やれやれ、この店は『本物』を出してくるのか)」
僕は、月村しのぶが店に入ってきたことにも気づかないふりをして、震える手でスプーンを突き立てた。
口に入れた瞬間。
濃厚な苦味と、それを包み込むような桃子さんの優しさが、脳内の幸福物質を強制的に分泌させる。
斉木:「(…………うまい。うますぎる。……なんだこれは。まるで、失われたピースが埋まっていくような……。……いけない、幽霊の頼みを引き受けてしまいそうなほど、心が無防備になる)」
その時。
背後から、コツン、と椅子の背もたれを叩く音がした。
しのぶ:「……斉木くん、そんなに美味しいの? 頬が緩んでいるわよ」
斉木:「(……ッ!?)」
僕は一瞬で「無」の表情に戻り、ゆっくりと振り返った。そこには、いつの間にか僕の隣の席に座り、身を乗り出して僕の顔を覗き込んでいる月村しのぶがいた。
しのぶ:「さっき屋上にいた時は、石像みたいに無機質な人だと思ったけれど。……今のあなた、なんだか『人間』らしくて安心したわ」
しのぶは、まだ興味なさげな口調ではあるものの、その瞳の奥には、ほんの少しだけ**「探り」**の光が混じっていた。
なのは:「おにいちゃん、ゼリーおいしい? なのはも、それがだいすきなの!」
なのはが僕の膝に手を置き、身を乗り出してくる。
桃子さんはそれを見て、クスクスと笑いながら僕たちのテーブルに水を置いた。
桃子:「あらあら、しのぶちゃん。斉木くんをあんまりいじめないでね? ……でも、そんなに喜んでもらえて、士郎さんもきっと喜んでるわね」
士郎(霊):『……ああ、最高だよ! 君が食べてくれるのを見て、僕も幸せだ。ねえ、斉木くん。やっぱり君には、この店に毎日来てほしいな!』
斉木:「(……やれやれ。ゼリーは最高だが、周りがうるさすぎる。……食べ終わったら、一秒でも早く帰るとしよう。……そのはずだったんだ………正直に言おう。このコーヒーゼリーのためなら、多少の幽霊や、少しばかり鋭すぎる少女の視線くらい、耐える価値があるかもしれない)
僕は空になったカップを見つめ、心の中でため息をついた。
斉木:「(……やれやれ。僕の平穏な日常の値段は、コーヒーゼリー1個分だったというわけか)」
その時、店の外で不気味な風が吹き抜けた。それが全ての始まりだとも知らずに。
第1話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!作者のsaikiです。
記念すべき最初の災難、いかがだったでしょうか。
高町家のコーヒーゼリーの魔力……。あれは超能力者でなくても抗えませんよね。僕も美味しいゼリーを探し求めている最中です。
さて、図らずも幽霊の士郎さんに気に入られ、しのぶさんには目をつけられ……。
楠雄の平穏はすでに風前の灯火ですが、次話では『翠屋』の美味しい時間と、しのぶさんの不穏な動きがさらに加速します。
もし「続きが気になる!」「斉木、頑張れ(笑)」と思ってくださった方は、**【お気に入り登録】や【評価】**をいただけると、執筆の大きなエネルギー(とコーヒーゼリー代)になります!
感想もお待ちしております!
それでは、また次の災難でお会いしましょう。