異世界転生したので本物のくっころが見たい! ~悪役を演じているのに、なぜか女騎士たちがみんな俺に落ちていた~   作:砂乃一希

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第19話 正義の姫騎士、凶暴令息に敗れる(シンシア視点)

「凶暴令息、ですか?」

 

最初にその噂を聞いたのは士官学校の入試を1年後に控えたあるパーティーのときだった。

いわゆる王室派と呼ばれる王族に近しい、もしくは友好的な家のみが集められたカジュアルなパーティー。

そこに参加していたある貴族令嬢が話しているのがつい耳に入ってしまったのだ。

 

「し、シンシア王女殿下。この度はお招きいただきありがとうございます」

 

「ごきげんよう。それよりも私もそのお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「は、はい。もちろんです」

 

私はその話を聞くべく会話に混ぜてもらうことにした。

後から来た私のために先程の令嬢が最初からお話をしてくれる。

 

「実はここ最近、モーン伯爵令息を襲って傷つけたとして凶暴令息と呼ばれている人物がいるのです」

 

「それはどなたなのでしょうか?」

 

「ドレイク家の嫡男、ジェラルト=ドレイク様です」

 

私はその名前を聞いた瞬間、少し頭が痛くなった。

ドレイク家はここ最近急速に力を付けている騎士の名門であり軍部を一手にまとめ王室派の中で一番力を持っている家。

その力は強大でもはや王室派ではなくドレイク派と陰で呼ばれているほどだった。

そんな家の嫡男がこのような噂を流されるのは王室にとってとてつもない痛手としか言いようがない。

 

「一体何があってそんなことに?」

 

「デヴィット=モーン伯爵令息がドレイク領を通行中に突如決闘をしかけられたと。ただ他にも色んな噂が出ておりどれも根拠がなくみな混乱している状況です。ただデヴィット伯爵令息とジェラルト様が決闘をしたのは事実のようでした」

 

「なるほど……そんなことが……」

 

私は話を聞かせてくれた令嬢にお礼を言いその場を離れる。

そしてそのままパーティーに戻りそれが終わるとすぐに兄様のもとへと向かった。

しかし兄様は苦笑しながら首を縦に振る。

 

「凶暴令息?ああ、その噂ならば余の耳にも入っている。父上も既にご存知だ」

 

「なっ……!ならばなぜ私には教えてくれなかったのですか?」

 

「教える必要が無いからだ。今そなたがこの件を知ったところで何もできることなどない。それにドレイク家とこんなくだらんことでトラブルを起こしたくないのだ」

 

(ドレイク家だからしょうがない、とでも言う気なのですか……!それに私だけ知らなかったなんて……!)

 

まるでドレイク家のご機嫌を取るかのような兄様の発言に少しムッとなる。

しかも自分は政治に直接関与することはないだけに兄様の言葉は理に適っていてそれもまた少し悔しくなる。

どこまでもこの兄は合理的なのだ。

家族としては優しい兄でも王子と王女として関わるときは厳しい一面をもっている。

 

「……失礼しました。私はこれにて失礼します」

 

「ああ、そうすると良い。あとそなたに一つ助言をやろう」

 

「……何でしょうか?」

 

「そなたは何も見えていない。わかった気になっているだけだ。その事を頭に刻み込め」

 

「……承知しました」

 

私は兄様の言葉を頭に残したまま自室に向かった──

 

◇◆◇

 

そして時は過ぎ入寮初日。

私は兄様と共に馬車に乗り士官学校へと向かっていた。

 

「なにやら上機嫌ですね、兄様」

 

「そう見えるか?」

 

「ええ。顔はいつもどおりですがどこか機嫌が良いように見えます」

 

双子だからこそわかる本当に些細な変化。

いつも真意を悟らせずに諸侯と話している兄様が今日はどこか上機嫌だった。

 

「はっはっは!そなたにはバレているか。いやなに、会いたい人物と会えるのが楽しみなだけだ」

 

「いつの間に愛人を作ったのですか?」

 

「愛人なんぞ作っておらんさ。ただジェラルト=ドレイクに会うのが楽しみなだけさ」

 

その名前を出された瞬間、思わず顔をしかめる。

あれから1年が経つが未だ凶暴令息の噂は消えていない。

入試で会ったときもいけ好かなくでどこか変な男、くらいの印象しか持たなかった。

ヘラヘラと笑うあの表情はどこか悪寒がする。

 

「なぜ会いたいのかと聞きたげな顔だな」

 

「それはそうですね」

 

「初めて会ったとき思わず気圧された。アレは腹の中に何かデカいものを抱えているのだろう」

 

「っ!」

 

兄様はジェラルト=ドレイクと面識がある。

だが兄様が貴族に対してこんな評価をするのは初めてのことだった。

 

「あれがどれだけ頭のイカれた奴なのか同じクラスで見てみたい。それだけの話だ」

 

「そうですか……」

 

「まあそなたにも直にわかるさ。あれは見てて飽きぬ男だぞ」

 

「そんなものは求めていません」

 

兄様の変な琴線にも困ったものだと密かにため息をつく。

しかし学校に到着すると否が応でも意識せざるを得なかった。

なぜなら──

 

「なっ……!?私が……二位……!?」

 

成績表の一番上にある名前は自分ではなかった。

しかも歴代最高点で1位に君臨していたのはあの男だった。

凶暴令息に負けた、その事実が猛烈に悔しくさせる。

 

「ほう、よく頑張ったな。シンシア。それにしても流石だな、ジェラルト=ドレイクは」

 

「なぜ……私はあの男に負けたのでしょうか……」

 

「そんなことは人に聞かずとも自分の目で確認するといい。同じクラスで共に学ぶ仲間となるのだ。いくらでもその機会はあるだろう」

 

「……はい」

 

そして兄様の言葉通りその機会はすぐにやってきた。

授業初日の学校案内中にあの男と模擬戦をすることになったのだ。

お互い訓練用の木剣を持ち直接向き合う。

 

「私はまだあなたが首席だというのが信じられません。なので……この一戦で証明してみせます。正義なき剣に力なんて無いと」

 

「そうですか。では私も証明しますよ。強さに必要なものは正義ではないと、否をつきつけましょう」

 

(この男……!体つきといい立ち方といいどう考えても初心者ではなく強者のそれ……油断せず全力でいかなくては……)

 

そう自分に言い聞かせ最初から全力で戦った。

なのに──

 

(なぜ……なぜこの男はこんなにも強いのですか……!?どれだけ攻撃しても、どれだけ揺さぶってもまるで壁みたいにビクともしない……!)

 

届くと思っていた。

正義のためにと必死に磨いてきた剣は必ず通用すると思っていた。

なのにまるで子どもと大人が戦っているかのように圧倒的な力の差がそこには存在している。

第三者から見れば拮抗しているか私が押しているように見えたかもしれないがこの男と戦っている私自身がこの男との実力差を誰よりも痛感していた。

 

(絶対に一矢報いる……!このままでは終われない!)

 

「アルバー剣術……飛翔の型!フロートスラッシュ!」

 

「紅月流、斬撃の術……月光撃下」

 

私の今までの全ての努力をかけた最後の全力の一撃。

だけどその剣があの男に届くことはなく無情にも簡単に私の剣は弾き飛ばされる。

飛んでいく剣がスローモーションに見えカランと落ちる剣を呆然と見ていることしかできなかった。

 

「そこまで。この勝負、ジェラルト=ドレイクの勝ちだ」

 

「負け、た………」

 

体から力が抜け、思わず膝をついてしまう。

悔しい。

その一言が私の全てを埋め尽くした。

己の誇りを懸け、挙げ句には下着の柄までも言われ辱められたというのにまるで赤子の手をひねるかのように何もさせてもらえず負けた。

その現実がどうしようもないほど重くのしかかってくる。

 

「いい勝負でした、と言っておきましょう」

 

そう言ってジェラルト=ドレイクは私の前に膝をつき顎を優しく手で持ち上げる。

その整った顔立ちが何よりも腹立たしい。

でも敗者の私ができることは負け惜しみ程度に睨みつけることくらいしかできなかった。

惨めで情けないのは自分でもわかっている。

でもそうでもしなければ心が簡単に折れてしまいそうだった。

涙が溢れてしまう前にジェラルト=ドレイクの手を払いのけ立ち上がって歩き出す。

 

「一つ、聞いてもよろしいでしょうか」

 

早くその場から立ち去りたかったはずなのに私の足は止まり無意識に質問してしまっていた。

あなたの言う剣に必要なものはなんなのかと。

自分の誇りに正面から否を突きつけられた今、あの男が何を考えているのか知りたかった。

 

「想い、ですよ」

 

「え……?」

 

それは凶暴令息と呼ばれる男が口にするにはあまりにも意外すぎる言葉だった。

だけどジェラルトの顔にふざけたりからかっている様子はない。

本当に必要なものは想いだと心から言っていた。

話せば話すほど驚かされることばかりだった。

 

「あなたが誰かのために頑張るというのならそれでも結構。あなたがその美しく気高い精神を持ち続ける限り、私は何度でもお相手いたしますよ」

 

想い、ですか……

私もあの人の想いを受け継ぐことはできているんでしょうか……

 

答えは当然帰ってこない。

でも覚悟は決まった。

あの男に挑み続けよう。

あの男に勝ち、誰かを守れる強さを得るその日まで──

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