「支援スキル」とは、「ボス」や「特殊な敵」との戦闘の際にスキルゲージを消費せずに使用できるスキルです。常時発動型のスキルの他、一定時間毎に使用可能なスキルなど様々な種類があります。ただしタグさんに支援をお願いすると、多額のクレジットがかかるのでお財布と相談して利用してください
スコープドッグ:標準的なATです
特徴がないのが特徴ですが、その分必要なクレジットも安いです!
呼び出すとマップ上の生徒さん達を全員拾って、指定したポイントに運んでくれます。また拾われた生徒さん達は一息つけるので一時的にコスト回復力が増加します。
スコープドッグ・ターボカスタム:火力と機動力に優れたカスタムタイプです
ただしクレジットもその分消費が激しいので気を付けてください
呼び出すと全装備を使って強力な範囲攻撃をしてくれます!
ただし相手が生徒さん達の場合ですとスモークディスチャージャーを発射して回避・命中デバフを与える、という内容になるので気を付けてください
D.U.(連邦生徒会直轄区)のビル群の谷間を、低い駆動音を響かせて進む緑の人型機動兵器
その足元から聞こえるのは、かつてのような金属とコンクリートが激しく削れ合う甲高いスキール音ではない
スコープドッグの足裏に備えられたグライディングホイールは、D.U.の舗装路を傷つけないよう、分厚い特殊ゴムコーティングのものに換装されている
さらに、脚部側面に備えられた急旋回用の要――ターンピックの射出機構には、物理的なロックプレートが撃ち込まれ、完全に封印されている
『火薬を使った鉄杭でアスファルトに穴を穿つなど、道路交通法違反および器物損壊の現行犯だ
連邦生徒会直轄区のインフラを破壊するなら、シャーレの助っ人だろうと容赦はしない』
着任初日、ヴァルキューレ警察学校公安局の局長――尾刃カンナと名乗った鋭い目つきの少女か
ら、直々に言い渡された警告だった
カンナは、タグの身分証と先生からの紹介状を確認すると、すぐさま彼を治安維持要員として現場に組み込んだ。だが、街の治安とインフラを守る警察官としての筋は一切曲げなかった。
ターンピックの封印は致命的な機動性の喪失を意味する。しかし、タグはあっさりとその条件を呑んだ
(ここは戦場ではなく、『街』だ)
タグは狭いコックピットの中で、専用の足回りの調整をする
循環する代替PR液の圧力、マッスルシリンダーの出力、そして想定される活動限界時間
(出力を20%絞り、稼働時間を10時間前後に制限された代替液のコンディションを探り、機体の新たな挙動に慣れる――丁度いいテスト環境だ)
赤い耐圧服の胸ポケットには、先生から渡された「シャーレ職員」の身分証が入っている
この身分と、ヴァルキューレからの依頼という大義名分さえあれば、白昼堂々とスコープドッグを市街地で運用できる
それは先生の万が一の計画には必須の条件だ
「こちらヴァルキューレ本部。シャーレのタグ派遣員、聞こえますか?」
通信機から、モブのオペレーター生徒の切羽詰まった声が響いた
エデン条約調印式を目前に控え、連邦生徒会長の失踪によって悪化していたD.U.の治安は、今まさに限界を迎えようとしている
「こちらタグ。感度良好だ」
「第4管区の銀行で、ヘルメット団を名乗る不良生徒の集団による強盗事件が発生。現地対応中の部隊が火力不足で制圧に手間取っています、至急応援を」
「了解した。現着まで180秒だ、現場の部隊にそう伝えろ」
「了解、お願いします」
タグは淡々と通信を切ると、コントロールスティックを握り直した
フットペダルを踏み込むとスコープドッグのターレットレンズに光が灯る
「緊急車両出ます! 一般車両は停車して道を空けてください! ……スコープドッグ、発進どうぞ!」
ヴァルキューレの一般生徒が一時的に一般車両の通行を止める
公用車両専用の駐車スペースに、降着状態で待機していたスコープドッグが立ち上がる。そして無理矢理外付けされた両肩のパトランプが光りだす
ゴムコーティングされたホイールがアスファルトを力強く蹴り出し、緑の巨体が滑るように加速していく
『出るぞ』
「よろしくお願いします!」
路面へのダメージを最小限にするために、スコープドッグの加速自体はゆっくりだ
スコープドッグが巡航速度一杯まで加速し終える。前方には、こちらの進路を塞ぐ形となっている一般車両が多数ひしめいている
D.U.の主要道路は二車線以上が主であり、また車線自体も広い
スコープドッグの横幅程度なら1車線以内に収まる。それはつまり――
「急ぎだ」
腕の振りと重心移動、両足の位置調整という複数の動作を無意識レベルで行い、スコープドッグは次々と車線上の走行車両を巧みに追い越していく
それを見たヴァルキューレの生徒は
「何あれ…」
と完全に呆けていた
D.U.第4管区、大通りに面した都市銀行は、キヴォトス特有の日常的な事件に見舞われていた
その正面エントランスのガラスは無惨に砕け散り、周囲には乾いた発砲音が絶え間なく響き渡っていた。
「ひゃはははは! ヴァルキューレが束になっても、アタシたちラブ&ピースなヘルメット団には敵わないっての!」
「さっさと金庫のパスワード教えなさいよね!」
アサルトライフルやサブマシンガンを乱射する不良生徒たち――通称『ヘルメット団』の激しい弾幕に晒され、パトカーの陰に隠れたヴァルキューレの一般生徒たちは完全に身動きが取れなくなっていた
「くっ、相手の火力が予想以上です! 応援はまだですか!?」
「今、シャーレの特別派遣員がこっちに向かってるって――」
その時だ。アスファルトを力強く、かつ静かに蹴る重低音が響き渡り、交差点の角から巨大な緑色の人型兵器が姿を現した
「な、なんだあれ!?」
「ロボット……!? ええい、撃て撃て!」
ヘルメット団の銃口が一斉にスコープドッグへと向けられる
雨あられと降り注ぐ小口径の銃弾が、緑の装甲に着弾しては甲高い音を立てて弾き返されていく
タグはコックピットの中で、微かに揺れる機体を制御しながら、ターレットレンズで冷静に暴徒たちの位置を捕捉した
(レンズガードを作ってもらったほうがいいかもしれん)
脳裏に暴徒制圧用装備である、ターレットレンズ防護用の外付け防弾プレートが浮かび上がる
「……目標確認。制圧する」
両手で構えたヘヴィマシンガンの照準を合わせ、引き金を引く
ズガガガガガッ!!
腹の底を震わせるような、30mm機関砲の重低音がD.U.の大通りを支配した
30mm弾が生身の人間に直撃した場合の結果など、想像するまでもない。一発で四肢は吹き飛び、文字通り血肉の雨となって周囲に降り注ぐ、完全な過剰火力だ
だからこそ、タグは「死なない程度」に、彼女たちが隠れている障害物や足元のコンクリートを狙って射撃を行った
着弾の衝撃波と爆風が巻き起こり、銀行のエントランスを土煙が覆い尽くす
「うぎゃあああっ!?」
「いたーい!!」
「目が回るぅぅ〜……」
土煙が晴れた後、タグの視界のモニターに映し出されたのは、ススだらけになって地面に転がるヘルメット団の姿だった。
彼女たちの頭上にある光の輪(ヘイロー)は明滅しているものの、誰一人として五体を欠損していない。さすがに流血はしている――が、カメラの倍率を上げて観察したところ、致死にいたる量を出血しているものはいない
タグは知らないが、出血した者は極めて運が悪かった部類に過ぎない。大半の者は、目を回して完全に気絶しているだけだった
「……」
タグはコントロールスティックから手を離し、ヘルメットの奥で深く、深い溜息を吐き出した。
(いくら爆風と衝撃波だけとはいえ、30mm弾の至近距離での着弾だぞ……? それで、打撲と気絶、少量の出血で済むのか)
ミレニアムでの公開実証の際、「生徒は銃弾を受けても容易には致命傷に至らない」という説明は受けていた
しかし、いざ生身の人間が重機関砲の威力を真っ向から受けて「痛い」で済まされている光景を目の当たりにすると、自らが生きてきた世界との決定的な断絶を痛感せざるを得ない
(……下手をすれば、俺の乗っているATの装甲のほうが脆いんじゃないか?)
こちらの常識を根底から覆すキヴォトス人の異常な頑丈さに、タグは呆れ果てたような、諦めに似た笑いを浮かべるしかなかった
「す、すごい……! たった数秒でヘルメット団を全滅させちゃった!」
「ありがとうございます、シャーレの派遣員さん!」
パトカーの陰から立ち上がったヴァルキューレの生徒たちが、スコープドッグを見上げて歓声を上げている
タグは、スコープドッグの左腕を掲げて歓声に応える
そして無言のまま機体を旋回させると、次の事件対応の為に、指定された公用駐車場へと向けて静かにグライディングホイールを走らせた
それから数十分後。D.U.の主要交差点で、タグは暴徒鎮圧とは全く異なる業務に従事していた
大型の配送トラック同士の接触事故により、交差点のど真ん中を横転した車両が塞いでいたのだ
エデン条約の噂が広まるごとに交通量が増加しているD.U.において、この渋滞は致命的な混乱を招きかねない
「レッカー車、まだ到着しないんですか!?」
「こっちの道も迂回させて! ああっ、もう全然人手が足りないよぉ!」
ホイッスルを吹きながら交通整理に奔走するヴァルキューレのモブ生徒たちの横を、緑の巨体がローラーダッシュで滑り込んでくる
『管制官から状況は聞いた、下がっていろ。許可は取った、俺がどかす』
スコープドッグの外部スピーカーから、タグの声が響く
トラック周辺から生徒達が退避したことを確認する
機体を、横転したバンタイプのトラック荷台横に密着させる。両腕をボックス部と道路の間に差し込む
(マッスルシリンダーの圧力、問題なし)
フットペダルとコントロールスティックの絶妙な連携。ギチリ、とマッスルシリンダーが収縮する低い駆動音が鳴り響き、数トンはあるはずの大型トラックが、まるで段ボール箱でも扱うかのようにスムーズに持ち上げられる
そのまま腕を上げることで、横転したトラックを引き起こす
『どうする?移動させた方がいいか?』
「……あっ、はい!あちらに空きスペースありますので引っ張れますか?」
『誘導を頼む』
今度はトラック前方に回り込み、バンパーの下に腕を差し込む。トラックの前部分を持ち上げると、ゆっくり後方へと足を進める。生徒の誘導に従い、交差点の端の空きスペースへとトラックを正確に降ろす
レッカー車を待てば数十分はかかるであろう撤去作業が、わずか1分足らずで完了した瞬間だった
「おおーっ! すごーい!」
「あれめっちゃ便利じゃないですか!? うちの局でも装備として導入しましょうよ!」
「ねえねえ、あのロボットって中にエアコンついてるのかな? もし涼しいなら、あの中でサボるのに最適じゃない?」
渋滞が解消され始めた交差点の隅で、ヴァルキューレの生徒たちが呑気な声を上げている
その会話は、スコープドッグの外部集音マイクを通じて、コックピット内のタグの耳にもしっかりと届いていた
「……」
タグはヘルメットのバイザーの奥で、再び深い溜息を吐いた
エアコンなどという快適装備が、使い捨て兵器(AT)に搭載されているはずがない
狭く閉鎖されたコックピット内は、駆動系の放つ熱気と、焼けたオイルの匂いが充満している
(そういえば、代替PR液はオリジナルと違って匂いが少ないな。その点だけは乗り心地が良くなったな)
と、タグは内心で評価を下した
赤道直下の塹壕よりも不快なこの鉄の棺桶空間は、平和な学園の生徒が「サボる」ために滞在できるような場所では断じてない
(五分もすれば、慣れないやつは熱気と匂いで吐き気を催すかもな)
呆れを通り越して、もはや平和という名の異文化に圧倒されつつあった
戦場では殺人機械であるはずのスコープドッグが、この街では便利な重機、あるいは珍しいアトラクションのように扱われている
そのどうしようもないギャップに、タグは抗うことすら馬鹿馬鹿しくなっていた
「タグ派遣員、道路のクリアを確認しました! ご協力感謝します!」
「……気にするな。それが俺の『仕事』だ。待機場に戻る」
ヴァルキューレの生徒の元気な敬礼を背に受けながら、タグはスコープドッグを再び走らせる
出力を絞った代替PR液の稼働時間は、残り六時間といったところか
タグは次の休憩ポイントを頭の中で算出しながら、喧騒に包まれたD.U.の街並みへと機体を溶け込ませていった
D.U.のメインストリートから一本外れた、少し落ち着いた路地裏のホットドッグスタンド
およそ五時間のパトロール業務、事件鎮圧、交通整理を終えたタグは、指定された休憩ポイントでスコープドッグを降着状態にさせ、遅めの昼食をとっていた
赤い耐圧服のままベンチに腰掛け、ケチャップとマスタードがたっぷりとかかったジャンボホットドッグにかぶりつく
カリッと焼かれたソーセージから溢れる肉汁と、強烈な塩分。それをプラコップのコーラで一気に胃へと流し込む
戦場では決して味わえなかった、脳を痺れさせるようなジャンクなカロリーの摂取に、タグは無意識のうちに口元を僅かに緩めていた
(贅沢を言えば野菜が欲しいところだが、夕飯に取ればいいか)
一本目を素早く胃に収め、二本目にかぶりつこうとしたその時だった
(……足音、一つ。足運びからして素人だが、妙にすばしっこいな)
二本目のホットドッグを咀嚼し始めながら、タグは視線だけを横に動かした
待機状態のスコープドッグの巨大な脚部の影に、ひょっこりと隠れるようにして近づく小柄な人影があった
特徴的なピンク色のツインテールに、見覚えのあるミレニアムサイエンススクールの校章。そして、獲物を見つけた小動物のように好奇心に満ちた目を輝かせている少女だ
「うひょー! 本物ですよ本物!」
少女は周囲に人がいないか確認するように視線を泳がせると、ぐっと声を潜めた
「――あっ、そうだ。これの燃料がブラックマーケットで高値で売れるって噂でした。にはっ……ちょっとだけ抜いちゃおっと」
装甲をコンコンとノックし、あちこちのハッチの隙間を覗き込んでいる。そしてとうとう手元のタブレットを取り出し、何やら打ち込み始めた
「……ふむ、外部からのアクセスポートは物理的に遮断されてるみたいですね。でも、私の暗号解読能力をもってすれば――」
「残念だが、そいつのハッチは電子制御では開けられないぞ」
背後から掛けられた低い、しゃがれた声
「ひゃんっ!?」と間抜けな悲鳴を上げ、少女は振り返る間もなく、赤い耐圧服の腕によって首根っこを正確に、かつ無造作に掴み上げられた
暴れる隙すら与えない、完璧な拘束
だが、宙吊りにされたピンク髪の少女は、恐怖するどころか「にゃはは……」と悪びれもせずに笑い声を上げた
「見つかっちゃいましたー! いやー、ちょっと出来心というか、未知のテクノロジーへの探求心というか! 私、黒崎コユキって言います! 怪しいものではありませんよ!」
(……よく回る口だ)
タグは表情一つ変えず、掴んでいたコユキの襟首から手を離し、地面に降ろしてやった
そのままベンチに戻ると、残っていたホットドッグの半分を再び無言で咀嚼し始める
「……えっ? 反応薄くないですか!?」
怒鳴られることも、ヴァルキューレに突き出されることもなく、ただ放置されたことにコユキは目を白黒させた
タグからすれば、そのような労力を費やす価値がないだけだった
だが、彼女の生来の図太さと自己中心的な性格は、そんなことでは止まらない
彼女はタグの隣のベンチに勝手に座り込むと、聞かれてもいない身の上話と、ここへ来た理由を機関銃のように喋り始めた
「いやー、聞いてくださいよ! 私、本当に悪運体質なんですよ! 先日のミレニアムでの公開実証、私だけ見られなかったんです!ちょっとセミナーのシステムにイタズラしてたらユウカ先輩たちに追いかけ回されて、反省室に入れられちゃって!」
身振り手振りを交え、自分がいかに理不尽な目に遭っているか(※すべて自業自得である)を熱弁するコユキ
「お前が悪いんじゃないか?」
相槌を打つタグ
「だからってあんなどデカいお祭り騒ぎ、生で見られないなんて、不幸引く確率ここに極まれりって感じです! その後なんとか脱走したんですけど、どーしても悔しくって!シャーレの助っ人としてD.U.にいるって噂を聞いて、どうしても直接拝みたくて来ちゃったんです!」
普通の人間なら五分で頭痛を催すようなその騒がしさの中で、タグはただ「ああ」「そうか」と、相槌ともつかない短い単語を返すだけで、自分の食事のペースを一切崩さなかった。
コユキのような、自分のペースで場を支配しようとするタイプに対する最適な対処法。それは、相手の言葉に感情を動かさず、ただし決して無視はしないことだ
事実、タグの内心には苛立ちの欠片も湧いていなかった
(自分の欲望と目的を大声で垂れ流してくれるこの少女の騒がしさなど、手のかからない仔犬のじゃれ合いのようなものだ。……アイツに比べれば、わかりやすいし、とっつきやすい)
タグの脳裏に、かつての戦友の顔が浮かぶ――
無口で、自分勝手で、理由も説明しないまま常に最悪の地獄へと突っ込んでいく、あの不器用極まりない友人――キリコ・キュービィー
アイツの意図を汲み取り、死地を潜り抜ける労力に比べれば、コユキのこの騒がしさは平和な子守唄に等しい
だが、あまりにも途切れることなく続くコユキの早口を聞いているうちに――タグは不意に、軽い頭痛を覚えた
『ほら、慌てて喋らない。お水を飲んで』
――懐かしい女性の声が、脳裏を掠めた
いつ、どこで聞いた声だったか。血に塗れた過去の底に沈む、ごく僅かな、懐かしい時間の記憶
「……でね! だから私は――」
「少し待て」
タグは一度立ち上がると、弾丸のように喋り続けるコユキを遮った
そのまま隣のホットドッグスタンドの親父に向かって、オレンジジュースを一つ頼む。タグは身分証を取り出し、まだ慣れない手つきで電子マネーの決済を済ませた
プラスチックのカップに入ったよく冷えたオレンジジュースを手に戻ると、タグはポカンとしているコユキの顔の前に、それを突き出した
「……飲むか?」
「えっ?」
唐突にジュースを差し出されたコユキは、目をぱちくりと瞬かせた
怒られるわけでも、追い払われるわけでもなく、いきなり飲み物を奢られたのだ。彼女の計算にはない大人の行動だった
「……あ、ひょっとして私の手口を吐かせるための自白剤とか入ってたり……なんて! シャーレの人がそんなことするわけないですよね! にゃはは、大人は太っ腹ですね! いただきまーす!」
一瞬だけ胡乱な目を向けたものの、生来の現金さと図太さが勝ったらしい。コユキは両手でカップを受け取ると、ストローに口をつけて一気にオレンジジュースを吸い込み始めた
「んぐ、んぐ……ぷはーっ! 冷たくて美味しい! 実は逃げ回ってて喉がカラカラだったんですよー! オジサン、怖い顔してますけど案外優しいんですね!」
コユキは満面の笑みを浮かべ、オレンジジュースの氷をカラカラと鳴らした
「……喋るなら、息継ぎくらいはしろ」
タグは再びベンチに腰を下ろし、コーラを一口飲んで淡々と返した
そのぶっきらぼうだが確かな気遣いに、コユキは嬉しそうに「にゃはは!」と笑う。
「いやー、潤いました! で、さっきの話の続きなんですけど、ユウカ先輩の追跡を撒くために私が使ったダミーコードがですね――って、あれ?」
十数分ほど喋り倒し、オレンジジュースも半分ほど減ったところで、不意にコユキの手元のタブレットがけたたましい警告音を鳴らした。
画面を見たコユキの顔から、さーっと血の気が引く。
「げげっ! ユウカ先輩の追跡がもうそこまで来てます!? どんだけ執念深いんですかあの人!」
コユキは弾かれたようにベンチから立ち上がった
そして、逃走の準備をしながらも、目の前で最後の一口を飲み込み、コーラをすする得体の知れない小柄な大人――タグに視線を向ける
自分の話を遮りもせず、怒りもせず、かといって同情するわけでもない。ただ隣に「在る」ことを許容してくれた、奇妙な安心感
「オジサン、なんか変わった大人ですね! 私、また遊びに来てもいいですか!?」
無邪気にそう尋ねるコユキに対し、タグは一瞥もくれず、プラコップを傾けたまま淡々と答えた。
「好きにしろ――当分はここで働く。騒がなければ話くらいは聞いてやる」
冷たくも聞こえるそのフラットな言葉が、今のコユキにとってはむしろ心地よかった
「にゃはは、言質取りましたからね!それじゃ、また!」
嵐のような笑い声を残し、コユキはD.U.の雑踏の中へとあっという間に姿を消していった。
空になった包み紙とコップをゴミ箱に捨て、タグはゆっくりと立ち上がり、傍らのスコープドッグを見上げる。代替PR液の稼働時間は、まだ十分に残っていた
最も甘美なる茶会の席に、裏切りの毒は潜んでいた
狂信と猜疑が交差する楽園に、偽りの静寂が舞い降りる
――これで終わるはずがない
大人の直感が、再び漂い始めた硝煙の匂いを嗅ぎつける
地獄をもっとも知る男に、先生は静かに願う
装甲騎兵に、ありったけの火薬を積み込め、と
次回「装填」