「焼き鳥いかがですかー?」
「こちら、わたあめもおいしいですよー」
今日も百鬼夜行は賑やかである。毎日がお祭りムード、お祭り大好きな生徒達が集まる不思議な学院。それが百鬼夜行連合学院。何か騒動が起これば百花繚乱紛争調停委員会が火を消しに走り、裏では陰陽部が静かに手を加えて周る。しかしそんな小さな騒ぎでさえ書き消してしまうお祭りの賑やかさは、今日も誰かの表情を変える。
「百夜堂の特製、河和たこやきですよー!いかがですかー!?」
満員御礼の百夜堂の横を通り過ぎ、宛先の無い場所へ向かう少女が一人。好物である焼き鳥を片手に、今日も少女は誰にも気づかれない。要は影が薄いだけだのだが、少女はこの境遇があまりにも心地良いのかもしれない。
誰にも気に留める事無く進む先に、一つの長椅子がある。公共の場にある、何の変哲もないただの長椅子に少女は腰掛ける。歩きながら頬張っていた焼き鳥を横に置き、一つずつゆっくりと食べていく。感情の変化が薄いのだろうか、表情には出さないが少女はペースを崩すことなく焼き鳥を口へ運んでいく。
ドガーンッ!
地響きと共に爆発音が聞こえ、どこかで騒ぎが起こっている声が聞こえる。少女の目の前を通り過ぎ、騒ぎから逃げ惑う人。しかし少女はどちらの事象にも一切気にかける事無く焼き鳥を口へ運ぶ。
パンッ!
ごちそうさまでした……とは言わなかったが、自身の腹を満たしてくれた食材に対し手を合わせて深く礼をする。未だ聴こえる騒動の音に耳を貸しながら、軽く天を見る。ああ、いい天気だ……とでも思っただろうか。
少女は一度音のする方を向き、すっと立ち上がる。
バゴーンッ!ダダダダダンッ!!!
騒動が収まる気配は感じない。いつもならその事を感じながらもその場を後にして立ち去るつもりだった。一人、少女の視線の先には一人の大人が居た。
会った事は無いが、その大人は最近噂に聞く『シャーレの先生』だろうか。少女はその大人を中心に捉え、動くことが出来なくなった。金縛りにあったわけでは無かったが、少女はその『大人』から視線を逸らすことが出来なかった。
少女が視線を逸らすことが出来なかったのに気づいたのはその3秒後。はっとした少女は、今度は
苔が生え、時が流れてところどころ削れている石段を登る。登った先には一つの古い木造の家があるが、これは少女の家ではない。しかしこの家に少女は住みついているのだろうか、一切その事実を気にする事はない。
ギシギシと床の木が軋む音がする中、少女は突然足を止める。
「あ、夕飯買うの忘れた……」
そう小さく呟き、ゆっくりと賑やかな方へと歩を進めるのだった。
物語のタイトルは、百鬼演雪語(ひゃっきえんせつかたり)と読みます。