焦燥をなくす旅 ― 廻る世界の中で ― 作:Virus Miss
王国の辺境にある小さな村。窓から差し込む陽の光が、新しい朝を告げていた。
まだ眠っていたいが、今日は特別な日だ。僕は仕方なく瞼を擦りながら身を起こした。
寝室を出ると、香ばしい朝食の匂いが漂ってくる。食卓には、いつものように陽気な母と、無口ながら優しい父の姿があった。
「あら、おはようレオン! 早く食べちゃいなさい。今日は学院に行く日なんだから!」
そう、僕は今日から王都にある王立学院に通うのだ。
出発の時間までには余裕を持って準備を済ませたい。
できれば、あの騒がしい幼馴染が来る前に……。
「レオンおはよう! 準備できた?」
思考を遮るように、勝手に家に上がり込んで元気に挨拶してきたのはエリシアだ。
彼女も一緒に学院に通うのだが、それにしても迎えに来るのが早すぎる。
時計を見れば、まだ待ち合わせの二時間前だ。この時間に来るのは逆に非常識だろう。
「まだ朝食を食べる時間帯だろ? いくらなんでも早すぎだ。自分の家の朝食はどうしたんだ?」
「ここで食べるの! ほら、持ってきた!」
「親と食べればいいだろう? しばらく会えなくなるんだから」
「あっちでも食べたよ? ここでも食べるの!」
なんてことだ。
学院に入寮すれば最低でも三年間は親に会えないというのに、彼女はここで二度目の朝食を取る気らしい。
「……わかった。これを食べ終わったら準備するから待っててくれ」
「ふぁかった!」
「食べながら喋るな」
呆れつつも食事を終え、僕は自室に戻って準備を始めた。
真新しい制服に袖を通し、持ち物をチェックする。推薦書、鞄、そして最低限の荷物。
ベッドに腰を下ろすと、ふと胸の奥にある感覚を思い出した。
生まれた頃から消えない、正体不明の焦燥感。
ずっと何かを守り、救わなければいけない気がしていた。
だからこそ、僕は困っている人の手伝いは必ずやってきた。荷物運びや、転んだ子供の介抱。
一番大変だったのは馬の世話だろうか。不意に飛んでくる後ろ足の蹴り、あれは下手したら死んでいた。不思議なことに、エリシアは絶対に蹴られないのに、僕だけ執拗に狙われていた気がする。
必死に蹄を避けている時、ふと見たエリシアのドヤ顔は一生忘れないだろう。
この村にはたくさんの思い出がある。
けれど、この焦燥感の正体も、学院に行けばわかる気がするのだ。
気づけばもう出発の時間だ。
「母さん、父さん。行ってきます」
「楽しんでくるのよ」
「……あぁ」
父さんは短く答えただけだったが、その雰囲気が寂しがっていることは痛いほどわかった。無口な父の愛情表現だ。玄関を出て、村の入り口に向かう。そこにはもう、二度目の朝食を終えた幼馴染が待っていた。
「レオン、忘れ物はない?」
「ああ。行こう、エリシア」
故郷を背に、二人は王都を目指して歩き出しはじめた。