pixivにあげたやつをこっちにも投稿します。
僕が作者です。
【Twitterアカウント】
https://x.com/pulana_chan?s=21
「や、先生。おはよ」
私...『銀鏡イオリ』は、当番としてシャーレを訪れていた。
しかしいつものように挨拶をしても、返事は返ってこなかった。
...先生がいない。
「...先生?」
少し嫌な予感がしながらも、どこかにいるはずの先生を探して、視線を巡らせる。
すると、廊下で倒れ込んでいる先生の姿を見つけた。
「.....先生っ!!」
すぐに駆け寄って、先生の状態を確認する。
...脈拍も、呼吸も問題ない。
ひとまずは安心だ。
一瞬胸を撫で下ろすが、依然油断はできない状況。
先生は一体なんで倒れているんだ?
誰かに襲われた?
とりあえず、救急医学部に連絡を
いや、ここはゲヘナじゃないから救急車を呼ぶべきか?
「....ィ、イオリ....?」
考えを巡らせていると、突如先生が口を開いた。
「先生、大丈夫、すぐに救助を....」
キーパッドを叩こうとした私の手を、先先は何も言わず、ただそっと優しく止める。
「先生...?」
「大丈夫....大丈夫だから....ちょっと頑張りすぎちゃったの.....かな..?」
「だ、大丈夫なわけないだろ、とりあえず救急車呼ぶから、先生はしっかり....」
そこまで話したところで、先生が少し震えているのに気づいた。
....泣いてる?
先生は、少し嗚咽を漏らしながら震えている。
しゃがみ込んでいる私の足元に、ポツポツと涙が落ちているのがわかった。
「....ごめん、イオリ、ごめんね.....」
そう言いながら必死に涙を堪えようとしているが、まるで精神が壊れてしまったかのように、かえって涙が溢れ出しまっている。
...こう言う時、どうすればいいんだろう。
とりあえず、慰めないと
「....先生、大丈夫。私がいるから」
「...私がいるから、私に何があったのか、話してみて?」
そう言って、私はそっと先生の手に自分の手を重ねた。
先生の手は、弱々しく震えていた。
「.....私に任せて」
「...ィオリ....」
精一杯の言葉で先生を慰めると、なんとか響いたのか、先生は私をギュッと強く抱きしめてきた。
そして、積もりに積もった想いを、もう抑えきれないとでも言うように、先生は言葉を続ける。
「.....もう、私、先生無理だぁ....」
「....」
「毎日徹夜ばっかりで....」
「....」
「ミスばっかしてみんなからの信用も....」
「.....」
「もう誰も私を先生なんて.....」
「....」
しばらく思いを吐露した後、先生は「ごめん、イオリごめんね」とひたすらに謝り続けていた。
「...そんなわけ、ないだろ」
「なんでもっと早く言ってくれなかったんだ」
「私は先生のこと.....頼りにしてるから」
ただ泣きながら謝り続ける先生に精一杯の言葉を掛け、ただ先生を抱きしめ返す。
先生を元気付ける為とは言え、何故かこんな状況でも、先生とこんなに密着する事に対して気恥ずかしさも感じていた。
どれくらいそのままでいたんだろう。
しばらくして、先生も落ち着いたのか、嗚咽が聞こえなくなっていた。
「...落ち着いたか?」
「うん...ごめんね」
「いいよ謝らなくて。先生も....まぁ...大変なのは理解してるから」
「でも私....これからもやっていけるかな....」
「...はぁ...じゃあ、私が毎日シャーレに来て、仕事とか手伝ってあげる。なにか話とかも聞いたげるから。これでいいか?」
「い、いいの...?」
「まあ、先生は先生でいてくれないと...まぁ...みんな困るし。......あと、私も」
「...ありがとう、イオリ......」
そういうと、先生はまた私に抱きついてきた。
私はさっき言った事に少し赤面しながらも、ゆっくり先生のことを抱き返した。
_______________________________________
…それから、私は毎日先生の元を訪れるようになった。
先生の仕事を手伝って、先生と一緒になんでもない話をする、ただそれだけ。
「.....先生。こっちの書類、片付いたよ」
「うん...ありがとう、ごめんね、イオリ....」
「...先生、事あるごとに謝るのはやめて」
「...いや、無理にとは言わないけど」
「う、うん、ごめ.......いや、わかった」
1週間もしないうちは、先生も全く元気が無かったが、1ヶ月もすると先生も少しずつ元気を取り戻していることが、目に見えてわかるようになった。
「先生。渡された書類、終わったよ」
「うん、ありがとう」
「次はこっちをやればいいの?」
「うん、よろしくね」
「...先生、最近結構元気出てきたんじゃない?これなら、もう私が来なくても大丈夫なんじゃないか?」
「うん...前よりかはマシになってきてるかも。でも、どうだろう...イオリがいるから頑張れてる節もあるし.....」
「.....もう私、イオリがいないと生きてけないかも」
その先生の言葉に、何故か少し安心した。
私は、先生が元に戻れるように此処に来ているのに。
いつの日か、私が先生の元に来なくてもいい日が来ないといけないのに。
その日の事を考えると、少し胸がチクっとした。
_______________________________________
「...もう私、結構元気になったかも」
ある日、シャーレに来た私に向かって、先生が嬉しそうに報告してくれた。
昨日、“あの日”以来初めて徹夜できたのだと言う。
到底褒められるようなものではないが、先生自身でもそう思えるくらい、先生が元に戻りつつあると言うことらしい。
きっと、喜ばしいことなんだろう
「いやっ、でも...」
「...まだ...元気にはなって、ない...」
何故か、そう口走ってしまった。
「えっ...そうかな...?」
まさか私が否定から入ると思っていなかった先生は、少し残念そうに私に尋ねる。
「.....いや....やっぱり、だいぶ元気にはなってると思う。このままいけば、私が来なくてもやっていけるんじゃない?」
咄嗟に、言葉の軌道を修正する。
「そう、やっぱり?イオリもそう思う?」
そう言う先生はとても嬉しそうだった。
先生が元に戻りつつあることに喜びを感じながらも、どこか心の中に焦りも感じつつあった。
_______________________________________
あれから、私は毎日欠かさず先生の元へ通い続けた。
日に日に元通りになっていく先生は、少しずつ元と同じような業務をこなすようになっていった。
しばらく行っていなかったからか、出張する日も多くなり、いつしか私と会えない日が多くなった。
「...あれ、今日は先生と会わなくていいんですか?」
いつもの時間になっても風紀委員会の仕事を続けている私を疑問に思ったのか、アコちゃんが尋ねてくる。
「...先生は今日ワイルドハントまで出張だから。会おうにも会えないよ」
「そういえば、一昨日も、その前もそうでしたね。確か一昨日は...ミレニアムでしたっけ」
「ミレニアムは明日、一昨日行ったのはトリニティだよ」
「ふーん....詳しいんですね、先生の出張先に」
「ばっ...違うからっ、別にそんなのじゃ...」
「そういえば、シャーレに行かなくなってからのイオリはどこか落ち着きがないような.....ほら、この書類も、記入欄が一つずつズレてますよ」
「あっ...ほんとだ」
「やっぱり、イオリはわかりやすくていいですね」
「.....アコちゃん、からかうのもいい加減に...」
「はいはい、修正液貸してあげますから、ズレてるとこ直してくださいね」
そう言って、アコちゃんは机に修正液を置いて、彼女のデスクに帰っていった。
.....先生。
確かに、先生の元へ行けなくなってからの私は、私でないような気がする。
どこへいっても、思考の中心に先生がいるような気がする。
『.....いや....やっぱり、だいぶ元気にはなってると思う。このままいけば、私が来なくてもやっていけるんじゃない?』
あの日、私が先生に言った言葉を思い出す。
『私が来なくてもやっていけるんじゃない?』
先生は、それに否定しなかった。
先生は、もう私が来なくてもやっていける。
その事実が、どことなく私を喪失感と不安に襲わせた。
_______________________________________
.....廊下を走る。
ガラガラ、と引き戸を開けて、部屋に駆け込む。
そこには、ベッドに横になっている先生がいた。
数時間前、先生が指揮していた戦闘任務で、スケバンが放ったサブマシンガンの流れ弾が、先生の右肩に直撃したらしい。
そのスケバンを私が懲らしめてやりたい。
私がいれば、そんなことには...
「先生、大丈夫か?!」
「...ん...イオリ...?」
よかった。とりあえず、先生は無事らしい。
「よかった...無事で...」
そう言って、私はそっと先生の手に自分の手を重ねた。
先生の手は、弱々しく震えていた。
...あの日と同じ。
私があの日、弱っていた先生の手に自分の手を重ねたあの時と同じように、先生の手は弱々しく震えていた。
「あはは...ちょっと油断しちゃったのかな...?」
「.....イオリ?」
「あ、いや....先生の手が、震えてて...」
「あぁ...ちょっと痙攣しちゃってるんだ。一時的な神経ショックだから、数日経てば治るらしいよ」
「.....そう.....」
「...これから、毎日お見舞いに来てもいい?」
「え、まあ、それはありがたいけど....」
......ああ、わかった。
これだ。
私の不安と、喪失感を拭う方法は。
.....先生は、弱いんだ。
数週間後、先生は退院した。
先生も、私も、いつもの日常に戻る。
そうなるはずだった閑静な住宅街に、パァンと乾いた音が響く。
「...うっ....うぅっ....」
「先生っ、大丈夫か?!」
脚に銃弾を撃ち込まれ、倒れ込んでいる先生に近づく。
「うぅっ.....だ、だれか....た、たすけっ....」
『.....もう私、イオリがいないと生きてけないかも』
かつてそう言っていた先生は今、生きる為に、私だけでない、誰かに助けを求めている。
「あ...イ、イオリ......」
私に助けを求める先生の手に、私の手を重ねてみる。
先生の手は、あの時と同じように震えていた。
「...大丈夫、私に任せて」
そう言って、私は先生を“安全な場所”まで運んでいく。
また、私がいないと生きていけないように。
先生がまた、“元に戻る“ように........