呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「はい注目。注目してくれないかな。注目しろと言っている僕が、実は一番君たちに注目しているというパラドックス。見つめることが見つめられることであるならば、六眼を持つ僕は、世界で一番『見られている』という呪いに曝されているわけだけれど、まあ、そんなことはどうでもいいんだ。本当だよ? 嘘じゃないけれど、本当でもないんだ」
ガララ、と教室の扉が開く。
今日の五条悟は、白衣を着ていない。
代わりに、全身に「不可視の文字」を呪力で刻印しただけの、実質的な全裸――否、「全裸という名の饒舌」を纏って登場した。
「……先生。何ですか、その『言葉の壁』に守られた全裸は。情報量が多すぎて、ツッコミを入れる隙間に『あとがき』が入り込む余地もありませんよ」
伏黒が、いつになく理屈っぽい溜息を吐きながら、手にした出席簿をパタリと閉じた。
「恵、いい指摘だ。指摘が指摘として機能するためには、対象が指摘されるべき欠陥を有している必要があるけれど、今の僕は欠陥そのものが完全性を持っているからね。つまり、僕が服を着ていないのは、服という定義が僕の肉体という語彙に追いついていないからに他ならない。不服かな? 服がないだけに」
「……先生。それ、自分で言ってて楽しいですか? 私は今、自分の語彙力がドブ川に流される音を聞きました」
釘崎が、金槌を弄びながら、意味のない問答に終止符を打とうと一歩踏み出す。
だが、五条はそれを「無下限の論理」で制した。
「野薔薇ちゃん、暴力は言葉の敗北だよ。けれど、言葉が全裸であるならば、暴力はもはや愛撫に等しい。いいかい悠仁。君の中にいる『呪いの王』に伝えておくれ。彼が『切断』を愛するなら、僕は『剥離』を愛そう。布地と肌の離別。それは悲劇ではなく、新しい自分との邂逅(エンカウント)なんだ」
「えーっと、先生! よくわかんないけど、俺も脱げば、その難しい話の仲間に入れてもらえるのか?」
「悠仁、君のその短絡的な思考、嫌いじゃない。むしろ、僕の複雑怪奇な修辞学(レトリック)を、ただの『露出』という一言で片付けてしまう暴力的なまでの純粋さこそが、この物語の救済だ」
五条は、教壇の上で優雅にくるりと一回転した。
不可視の文字が躍り、読者の動体視力を削り取っていく。
「さて、今日の授業のまとめだ。正義とは、全裸でも揺るがない意志のことではない。全裸であることを、いかにして『正義』と呼称させるかという、徹底的な詭弁のことなんだよ。……おや、もうチャイムかな? 時間が過ぎるのは、僕の術式よりも速いね」
「……もう二度と、この人に台本(プロット)を渡さないでください」
伏黒が、虚空を見つめながら呟いた。
そこには、言葉の羅列で構築された、誰にも解けない「全裸の城」が聳え立っていた。