呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「――問おう。君たちは、服を着ることで何を失ったのか」
ガララ、と教室の扉が開く。
そこにいたのは、最強の呪術師ではない。
一つの「概念」として確立された、真っ白な虚無だ。
今日の五条悟は、全裸という名の「事象(イベント)」そのものだった。
彼は教壇に立つのではない。そこに「在る」だけで、世界のテクスチャを上書きしていく。
「……先生。なんでしょう、その『僕の裸は、人類には早すぎる聖杯です』みたいな神々しさは。教室の空気が、まるで魔術回路を無理やり通されたときみたいにバチバチいってますよ」
伏黒が、自身の影が「死」という名の深淵に変質していく予感に、冷や汗を流しながら呟く。
「恵、いい指摘だ。指摘が指摘として成立するためには、観測者が正気である必要があるけれど。いいかい、人間が服を纏うのは、自らの『境界(ライン)』を曖昧にするための妥協に過ぎない。けれど僕は違う。この肌こそが、無下限という名の『絶対客観』。服という外部装甲(プロテクト)をパージした僕の肉体は、もはや一つの『固有結界』なんだ」
「……先生。その設定資料集みたいな長い説明で、公然わいせつ罪という名の『社会の法理』をねじ伏せないでください」
釘崎が、呪力を込めた釘を握りしめながらも、目の前の男の「存在強度」に圧倒され、一歩も動けない。
「野薔薇ちゃん、法理とは凡人が生存するために引いた境界線だ。だが、最強(グランド)である僕にとって、境界とは超えるものではなく、消し去るもの。悠仁、君の中に棲まう『呪いの王』に告げておくれ。彼が『切断』という物理現象に固執するなら、僕は『融解』という魂の解放を提示しよう。僕が脱ぐのではない。僕という存在が、服という概念を許容できないほどに、根源(オリジナル)へと至ってしまっただけなのだから」
「あはは! 先生、よくわかんないけど、今の先生の肌、すっげー魔力……じゃなかった、呪力で光ってるな! 電球いらずだぜ!」
「……。悠仁、君のその、宇宙の真理を一瞬で日常(コメディ)に引きずり戻す無垢さ。それこそが、この地獄のような物語(シナリオ)における、唯一の『生存ルート』なのかもしれないね」
五条は、月明かりも届かないはずの昼間の教室で、静かに両手を広げた。
その指先から零れるのは、羞恥ではなく、世界を再定義するための「青」。
「さて。講義の時間は終わりだ。次の頁(ページ)で、僕が人間に戻っているか、それともただの光に溶けているか……。それは、このTYPE:JUMPという物語を観測する、読者次第、ということにしようか」
「……待てよ。勝手に感動的なラストシーンみたいな顔して消えるな。これ、ただのギャグ漫画なんだよ……!」
伏黒の叫びを置き去りにして、全裸の最強は、不可視の「空(から)」へと還っていった。