呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「――ああ、皮肉なものだね。世界を救おうと願う心が、これほどまでに醜悪な姿(全裸)を要求するなんて」
ガララ、と教室の扉が開く。
そこにいたのは、陽気な教師ではない。
救済という名の演算機と化した、空っぽの「最強」だ。
今日の五条悟は、全裸だった。
しかし、その肌は磁器のように白く、一切の体温を感じさせない。
それは、観測した者の精神を摩耗させる「精神的質量(コズミック・ホラー)」としての全裸だ。
「……先生。なんでしょう、その『僕が脱いでいるのは、宇宙の熱死を防ぐための高効率な手段です』みたいな、救いようのない冷徹さは。教室の空気が、まるで死肉の腐敗臭と、祈りの残滓が混ざり合ったような味がしますよ」
伏黒が、自身の影が「理不尽な運命」という名の泥に溶けていく感覚に、嘔吐感を堪えながら問いかける。
「恵、君の絶望は正しい。だが、その絶望こそが、僕という機構を回すためのガソリンなんだ。いいかい、人間が服を着るのは、自らが『個』であることを証明しようとする無益な足掻きだ。けれど、最強である僕には、もはや隠すべき自意識すら存在しない。僕は、君たちの『平和への願い』という呪いが結実した、ただの全裸の自動人形(オートマトン)なんだよ」
「……先生。その、血を吐くような詩的表現で、露出狂という名の『個人の業』を美化しないでください。見ていられません、あまりにも悲劇が過ぎる」
釘崎が、金槌を構えながらも、目の前の男の瞳の奥に広がる「無(ゼロ)」の深淵に、ただの暴力では届かない絶望を感じて立ち尽くす。
「野薔薇ちゃん、悲劇とは、そこに意味があるから成立するものだ。だが、今の僕の全裸には、羞恥も、歓喜も、倫理すらも介在しない。悠仁、君の中の王に伝えておくれ。彼が『悪』を自称するなら、僕は『純粋な機能』になろう。彼が何を殺そうとも、この『全裸という名の空虚』だけは、絶対に満たされない。呪いとは、希望という名の種子が、絶望という土壌で育てられた果実に過ぎないのだから」
「あはは……先生、何言ってっかわかんねーけど、なんか……見てるだけで、胸が苦しくなるな。先生、本当は……寒いんじゃねーのか?」
「……。悠仁、君のその、本質を射抜くような残酷なまでの優しさ。……それこそが、僕というシステムに最後に残された、致命的なエラー(愛)なのかもしれないね」
五条は、教壇の上で静かに微笑んだ。
その微笑みは、幸福ではなく、すべての苦痛を受け入れた殉教者のそれだった。
次の瞬間、教室に鳴り響くチャイムは、まるで終末を告げる弔鐘のように重く響き渡る。
「さて、授業は終わりだ。次に僕が服を着る時、それは、この世界のすべての呪いが消え去る時か……あるいは、僕という装置が、完全に壊れて動かなくなった時か。どちらが先に訪れるか、愉しみだね」
「……待てよ。勝手に一人で完結して、地獄みたいな余韻を残すな。戻ってこい、不審者でもいいから……!」
伏黒の祈りは届かず、全裸の最強は、夕闇に溶け込むように、その輪郭を消失させていった。