呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「――ああ、ついに届いてしまった。僕が最も恐れていた『均衡(エキリブラ)』という名の終焉に」
ガララ、と教室の扉が開く。
そこにいたのは、いつもの奔放な不審者ではなかった。
今日の五条悟は、足の先から首の付け根まで、一切の隙間なく「重厚なフルプレートアーマー(全身鎧)」に身を包んでいた。しかもその上から、鉄鎖で幾重にも巻かれ、南京錠までかけられている。
「……先生。何ですかその、中世の拷問器具と機動戦士を足して二で割ったような重装備は。ついさっきまで『全裸こそが魂の解放だ』とか虚淵節で語ってた熱量はどこへ行ったんですか」
伏黒が、金属音を響かせながら一歩踏み出すたびに床を凹ませる「最強」を、怪訝そうな、しかしどこか安堵した目で見つめる。
「恵、いいかい。全裸とは、あまりに強大すぎた『希望』だったんだ。だが、その光が世界を焼き尽くそうとした時、因果律という名の抑止力が働いた。僕の『全裸』は今、この絶対不可侵の物理障壁の中に封印されたんだよ。これは保護ではない。世界が僕という特級呪物を拒絶した結果の、収容(パリティ)だ」
「要するに、警察に本気で怒られて、二度と脱がないって『縛り』を強制されただけですよね? その鎧、内側に『もう二度と脱ぎません』って念写されたお札がびっしり貼ってあるのが見えますよ」
釘崎が、鎧の隙間から漏れ出る「抑圧された露出欲」という名の呪力に、ハンマーを構えて警戒する。
「野薔薇ちゃん、言葉には気をつけたまえ。今の僕は、自らの意志を剥奪された『平和の象徴』だ。服を着るという行為が、これほどまでに息苦しく、そしてこれほどまでに『正しい』なんて。悠仁、君の中の王に伝えておくれ。彼が『支配』を望むなら、僕は『自己犠牲』という名の重装甲を提示しよう。僕が服を着るのではない。世界という名の檻が、僕を包み込んでいるだけなのだから」
「あはは! 先生、なんかガンダムみたいでかっこいいな! でも、その格好じゃトイレとか、給食食べるのとか、めちゃくちゃ大変そうじゃないか?」
「……。悠仁、君のその、形而上学的な絶望を『生理現象の不便さ』へと引きずり下ろす無慈悲な指摘。……ああ、それこそが、鎧の内部で蒸れ始めている僕の唯一の救い(アライアンス)だよ」
五条は、金属のきしむ音を立てながら、震える手で黒板に「道徳」と書き殴った。
その文字は、抑圧された激情ゆえか、血を流しているようにさえ見える。
「さて、授業を終えようか。次に僕がこの鎧を脱ぐ時、それは人類が真の意味で自由を手にする時か、あるいは……僕の理性が完全に決壊し、物理的にこの鎧が弾け飛ぶ時か。どちらにせよ、それはあまりに凄惨な『ハッピーエンド』になるだろうね」
「……一生、その鎧の中で蒸されててください。それが世界のためです」
伏黒が、カシャカシャと音を立てて去っていく鉄塊(先生)の背中に、初めて心からの「敬礼」を送った。