呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
物語の始まりは、いつも通り唐突だった。
「――いいかい。今日からこの教室は『3年J組』だ。そして僕は、君たちの担任の五条悟だよ」
都立呪術高専。
本来なら静寂と呪いの気配が支配しているはずの教室で、五条悟はまるで民放の学園ドラマから飛び出してきたような熱量で、教壇をバンバンとリズミカルに叩きながら言い放った。
「……先生。一応確認しますけど、僕と悠仁は1年、釘崎も1年。……どこをどうひっくり返せば『3年』になるんですか。算数からやり直して、ついでに高専の学則を100回くらい音読してきましょうか?」
伏黒が、教科書すら開かずに冷徹な、しかしどこか諦めを含んだツッコミを入れる。
「恵、固いこと言わないの。いいかい、物語の都合っていうのはね、設定を飛び越えたところにこそ爆発的な熱狂(カオス)が生まれるんだよ。学年なんてただの数字、記号に過ぎない。僕の六眼で見れば、君たちはすでに数多の死線を潜り抜け、三回くらい留年した後のベテラン3年生のような……そう、熟成された貫禄すら漂っているよ」
「勝手に熟成させるな! 私はまだ花の女子高生、フレッシュな1年生なの! 私の瑞々しい青春を返せ、この目隠し変質者!!」
釘崎が怒りに任せて机を蹴り飛ばすが、五条はそれを無下限呪術を応用した華麗なステップでかわし、黒板のチョークを手に取った。そして、迷いのない筆致で大きく「J」の一文字を書き殴った。
「先生……。その、不吉に輝く『J』ってのは、結局なんなんだ? 実はオレたちが知らないだけで、高専には地下階とかにJ組までクラスが埋まってるのかよ。それとも、新しい特級呪霊の名前か?」
虎杖が、少し身構えながら素朴な疑問を投げかける。
「ふふ、よくぞ聞いてくれたね悠仁。この『J』。それは……僕たちが所属し、生かされ、そして踊らされているこの世界の王、『週刊少年ジャンプ(JUMP)』のJさ! つまりこの教室は、友情・努力・勝利を文字通り死ぬ気で強要される、最も少年漫画的な戦場(クラス)なんだよ!」
「……は? ジャンプのJ? じゃあ、オレたちが3年J組なのは、単に『ジャンプに載ってるから』っていう、最悪にメタな理由だけかよ!」
「そうだよ。それに『3年B組』だの『3年Z組』だの、先人たちが使い古したパロディの列に並ぶなら、『J』の方が僕らっぽくて最強にクールだろ?」
「理由が適当すぎるんだよ!!」
三人の怒号が夕暮れの校舎に響き渡る中、五条は窓の外、赤く染まり始めた青空を見つめて、ふっと声を落とした。
「いいかい。この『J』の一文字に、これからどれだけの意味が塗り重ねられていくか……。ある時は眩い光に、ある時は巨大な利権に、そしてある時は血塗られた悲劇に。それが何を指し、君たちをどこへ連れて行くのか。今はまだ、誰も想像すらできないだろうね」
「……何言ってるんだ、この人。怖いんだけど。もう帰りましょうよ、この部屋、頭がおかしくなる呪いでもかかってますよ」
伏黒が静かに荷物をまとめ、教室の扉へ向かった。しかし、その扉は五条の「無限」によって完全に遮断されており、物語の歯車が回り始めたことを告げるかのように、一ミリも動かなかった。
こうして、学年を無視し、設定を無視し、謎のアルファベット一文字の因縁に翻弄される彼らの、あまりにも奇妙で、あまりにも長い放課後が幕を開けたのである。