呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
教室の照明が突如として極彩色のサイケデリックな光を放ち、歪んだギターのフィードバック音が壁を震わせた。
五条悟はいつの間にか目隠しを外し、ヒッピー風のフリンジジャケットを羽織って、教壇の上でストラトキャスターを抱えている。
「先生……何ですかその格好。ファンサで盛り上がった後に急にトーン落とさないでくださいよ。教室が1960年代のウッドストックみたいな匂いになってるんですけど。不吉な予感しかしない」
伏黒が、歪む視界の中で「27歳までのカウントダウン」と書かれた不穏なカレンダーを凝視する。
「恵、これは呪力じゃない。才能を燃やし尽くす『ロックの魂』さ。いいかい、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、ブライアン・ジョーンズ……。偉大な『J』たちは皆、27歳という若さで、この世界の理(ことわり)から解脱してしまった。これこそがロック史における『Jの悲劇』……通称、27クラブだ!」
「ちょっと待ってよ! 27歳って、まさに先生の今の年齢じゃない! 縁起でもないこと言わないでよ、死ぬ気なの!? 勝手に伝説になろうとして退場しないでよ!」
釘崎が、いつの間にか手渡されたタンバリンを、怒りに任せて激しく叩きながら叫ぶ。
「アハハ! 先生、見てよこれ! オレの指、勝手にジミヘンみたいな運指で動くんだけど! でもオレ、まだ10代だよ! 27歳まであと10年以上あるから、全然ピンと来ねーわ!」
「悠仁、お前はいいよな。……先生、まさか僕たちに『27歳で死ぬくらいの熱量で生きろ』とか、そういう昭和のロックスターみたいな無茶振りをしに来たんじゃないでしょうね。僕たちは呪術師であって、魂を切り売りするミュージシャンじゃないんだ」
伏黒の冷めた視線を浴びながら、五条はギターに火を放った。
「その通り! 才能は枯渇する前に燃やし尽くすべきだ! 3年J組、卒業を待たずに僕たちは伝説になるんだ! いいかい諸君、27クラブの呪いを解く唯一の方法は、死ぬことじゃない……『全裸でロックンロールを踊り、既成概念を破壊すること』だ!」
「「「「結局、脱ぐ口実じゃねーか!!!!!」」」」
その時、教室の扉が物理的な破壊音と共に蹴破られた。
そこに立っていたのは、ヒッピー風のスカーフでも、スパンコールの衣装でもない。
血走った眼に、緩んだネクタイ、そして手に持った鈍く光る「一級建築士」の免許証を武器のように構えた、七海建人だった。
「……五条さん。今の時刻は午後6時3分。私の定時は5時半です。あなたが教室で『J』の悲劇だか『J』の快楽だか知りませんが、全裸でギターを燃やしているせいで、校舎全体の火災報知器のログを消去するのに33分の残業が発生しました」
「あ、ナナミン! 君も伝説のJ(定時退勤・JITSU-WA-TAIKIN)を目指しに来たのかい?」
五条がギターを掲げて笑うが、七海の背後からは、もはや特級呪霊を凌駕する「社畜の怨念」が立ち上っていた。
「いいですか。ジミ・ヘンドリックスもジム・モリソンも、27歳で亡くなったのは悲劇かもしれません。しかし、一番の悲劇は……27歳を過ぎてもなお、全裸で教壇に立ち、10代の教え子を雪山に連行しようとする30手前の大人が目の前に存在することです。これはロックではありません。ただの事案です。通報される前に服を着なさい。労働はクソですが、公然わいせつはもっとクソです」
「ナナミン……! 言ってることが正論すぎて、ロックの火が完全に鎮火したよ……!」
虎杖が思わず拍手を送り、伏黒は静かに七海の後ろへ避難した。
「……ちっ。やっぱり『J』の自由は、社畜の『J(実務)』には勝てないか」
五条は渋々フリンジジャケットを脱ぎ、いつもの目隠しを装着した。
「……先生。一応確認だけど、結局27クラブの『Jの悲劇』はどうなったんだよ」
伏黒の問いに、五条は最後の一葉(ピック)を窓の外へ投げ捨て、ニヤリと笑った。
「決まってるじゃないか、恵。僕たちが27歳を過ぎても生き残るために必要なのは、ロックな死じゃない。……七海にバレないように次の『J(準備)』を進める隠密性だよ!」
「「「「結局、反省してねぇのかよ!!!!!」」」」