呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「はい注目ー。そこ、呪い合わない。先生を教育委員会から最優先で指名手配されている不審者で見ない」
ガララ、と教室の扉が開く。
今日の五条悟は、白衣の下に特大サイズの赤ちゃん用おむつを腹巻きのように装着し、首からは金メダル級のサイズのおしゃぶりをネックレスとして下げ、右手には特級呪物・哺乳瓶(中身は最強の練乳)、左手にはガラガラ(純金製)を持っていた。
「……先生。まず、その少子高齢化社会に真っ向から泥を塗りつつ、全国の保育士さんの正気を奪うような、倫理観の特級過呪怨霊みたいな格好の落とし前、つけてもらえます?」
伏黒が、もはや自分の出生の秘密以上に目を背けたい現実を前に、虚無を見つめるような冷めた声を出した。
「恵、君は相変わらず生命の神秘を分かってないね。今日は特別講義。読者から、五条先生、本編で恵くんたちのパパ代わりをしてた時のエピソードをもっと詳しく教えてください。あ、服は脱いでてもいいです。という、ペンネーム・ショタ黒の影に住みたいさんからのお悩みだ」
「……そのハガキ、今すぐ十種影法術で影の底に沈めて消していいですか」
伏黒がスマホで火葬の準備を始める。だが、五条はそれを優雅な指先で弾き飛ばした。
「恵、落ち着いて。いいかい、みんな。子育てで一番大切なのは、不可侵の愛と圧倒的な開放感なんだ。僕が恵を連れて歩いていた時も、僕は常に心の中で全裸だった。だから恵も、あんなに真っ直ぐで影のある、立派なひねくれ者に育ったんだよ。今日はその再現として、僕がこの教室を最強のベビールームに作り変えて、僕自身が全裸で天井から吊るされた動くメリーになる」
「……五条さん。私はなぜ、この赤ちゃん用よだれかけを顔に巻いて、四足歩行で廊下をハイハイしながら、不審な呪霊がいないかパトロールしなければならないんですか。私の尊厳は、いつになったら成人済みとして扱われるんでしょうか。それ以前に、このよだれかけに集英社の承認印が押されているのはなぜですか」
伊地知が、過労で顔が離乳食のようにドロドロになった状態で、涙目になりながらプリントを配る。
「伊地知くん、固いこと言わないの。ほら、読者からのハガキがもう一通来てるぞ。五条先生。最強の呪術師なら、オムツ替えも一瞬ですか? それとも無下限呪術で汚れを弾くんですか? という、ペンネーム・家事育児は領域展開で終わらせたいさんからのお悩みだ」
「……アンタ、自分の汚れを不可侵で周囲に撒き散らすことだけはするなよ」
虎杖が呆れ顔で突っ込むが、五条はおしゃぶりを咥えたまま、ガラガラを音速で振り回しながら加速する。
「いいかい、みんな! 出版界を救うのも育児を救うのも、最終的にはインパクトだよ。はい、悠仁! 今すぐ宿儺に代わって、全裸で集英社の託児所に乱入して、役員たちの前で、僕をたまごクラブの表紙にも出せ! って叫びながら、全裸で幼児退行黒閃を打ち込んで、非上場企業の次世代育成計画をアーカイブ化してきて!」
「おう! 任せろ先生! 俺、これやれば、世の中のお母さんたちの負担も爆下がりなんだな!」
「行かせるかボケェッ!!」
釘崎のハリセンが、音速を超えて五条の不可侵(育休取得済み)、伊地知のよだれかけ、そして背景で勝手に教育用知育玩具を物理的に解体して特級呪具に改造していた真希の作業机をまとめて物理法則無視で粉砕し、五条の脳天にめり込んだ。
もはやこの教室において、ツッコミこそが唯一の義務教育である。
「痛ーい! 野薔薇ちゃん、次世代の育成(物理)を邪魔するなんて……これが少子化を加速させる、独身貴族による冷酷な弾圧(暴力)の力か!」
教壇でのたうち回る、おむつ姿の最強。
教室の掲示板には理想の父親ランキング(圏外)の文字が踊っているが、この3年J組だけは、生徒が卒業する前に、先生のせいで全員が人間としての根幹を喪失しそうな混沌に包まれていた。
「……ま、育児が大変なら、僕が領域展開で全世界の人間を赤ちゃんに変えてあげるからさ。タイトルは、五条先生、全人類のパパになる!。来週から全編これで行くよ。ちなみに主題歌は僕が歌う子守唄、無下限ララバイだ」
「……そのままガラガラの隙間に挟まって、一生誰にも振られずにゴミ箱へ行け」
伏黒が、窓の外でなぜか本当におぎゃあと叫びながら、一ツ橋グループのビルに向かって四足歩行で爆走し始めた虎杖を眺めながら、深くため息をついた。
この物語において、正常な成長曲線を描ける者は一人もいない。