呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「はい注目ー。そこ、呪い合わない。先生を神保町の寿司屋で職質されている不審者で見ない」
ガララ、と教室の扉が開く。
今日の五条悟は、白衣の下にピチピチの全身タイツを着込み、右手に特級呪物・生ズワイガニ、左手に特級呪具・高級生ウニ、背中には開戦と書かれた戦国時代の陣旗を背負い、頭にはフリル付きの猫耳……ではなく、なぜか新鮮なマダイの活造りを載せていた。
「……先生。まず、その呪術と、戦争の幕開けと、築地市場の競り会場を煮こごりにしたような、意味不明な情報の回旋(かいせん)の落とし前、つけてもらえます?」
伏黒が、もはや言葉の定義がゲシュタルト崩壊を起こしそうな絶望感とともに、教壇を指差した。
「恵、君は相変わらず日本語の豊かさを分かってないね。今日は特別講義。読者から、五条先生。呪術廻戦というタイトルですが、回旋やら開戦やら海鮮やら、耳で聞くと何がなんだか分かりません。いっそ全部全裸でまとめてください。という、ペンネーム・同音異義語の呪霊に憑かれましたさんからのお悩みだ」
「……その悩み、アンタが一番助長してるんですよ」
伏黒が辞書を武器に構える。だが、五条は不可侵のダジャレによって、教室内を強制的に市場へと作り変え始めた。
「いいかい、みんな! 回旋(かいせん)する呪力で、開戦(かいせん)の狼煙を上げ、勝利の祝杯は豪華な海鮮(かいせん)で決める。これぞ最強の三位一体だ。解決策は一つ。僕がこの教室を大型漁船・神保町丸に作り変えて、僕自身が全裸で船首像となって、荒波を回旋しながら全人類の食卓へ突撃する」
「……五条さん。私はなぜ、この、北海道産・特選イカ、と書かれた段ボールを頭に被り、醤油の香りを漂わせながら廊下をパトロールしなければならないんですか。私の尊厳は、いつになったら時価から脱却して固定給になるんでしょうか」
伊地知が、過労で顔が使い古されたおしぼりのようにシワシワになった状態で、生臭いプリントを配る。
「伊地知くん、固いこと言わないの。ほら、悠仁! 今すぐ宿儺に代わって、全裸で集英社の役員室に乱入して、役員たちの前で、今日から誌名を週刊少年海鮮に変えろ! って叫びながら、全裸で黒閃(特上握りVer.)を打ち込んで、決算をイクラの軍艦巻きで真っ赤に染めてきて!」
「おう! 任せろ先生! 俺、これやれば、日本の漁業の資産価値も爆上がりなんだな!」
「魚を武器にするな!」
伏黒の冷徹な事実確認とともに、釘崎のハリセンが、音速を超えて五条の不可侵(鮮度保持済み)、伊地知のイカ箱、そして背景で勝手に呪霊の骨で豪華な出汁を取っていた家入硝子の寸胴をまとめて物理法則無視で粉砕し、五条の脳天にめり込んだ。
もはやこの教室において、ツッコミこそが唯一の食中毒対策である。
「痛ーい! 野薔薇ちゃん、言語の回旋(物理)を邪魔するなんて……これが語彙力の乏しさを腕力で補う、国語辞典の冷徹な選別(暴力)の力か!」
教壇でのたうち回る、魚介まみれの最強。
教室の掲示板には本日のおすすめ・五条悟(完売)の文字が踊っているが、この3年J組だけは、作品が完結する前に、先生のせいで全編がグルメ漫画に路線変更されそうな混沌に包まれていた。
「……ま、言葉が紛らわしいなら、僕が領域展開で全人類の語彙を、かいせん、だけに固定してあげるからさ。タイトルは、週刊五条、神保町で海鮮開戦!。来週から全編これで行くよ」
「……そのまま回転寿司のレーンに乗って、誰も取らないまま干からびてこい」
伏黒が、窓の外でなぜか本当にカジキマグロを抱えて一ツ橋グループのビルへと全裸で突撃していく虎杖を眺めながら、深くため息をついた。