呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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宿命のJ、あるいは「脱ぎ捨てた後の残骸」

教室の黒板には、前回の「呪」という文字が消された跡の上に、さらに大きく「師」という一文字が書き加えられていた。

五条悟は、教壇に背を向け、窓の外の暮れなずむ空を眺めながら、かつてないほど低く、響く声で語り始めた。

 

「……先生。前回の『呪術とは何か』という狂気じみた講義の続き、やるんですよね。もう心の準備(諦め)はできてます。……で、今日は『呪術師とは何か』ですか」

 

伏黒が、もはや感情の起伏を殺したような、静かな声で問いかける。

 

「恵、いい質問だね。呪術が『剥き出しの感情』だとするなら、それを取り扱う『呪術師』とは一体何者なのか。……それはね、他人の泥水のような感情を飲み込み、自分の魂を削りながら、それを『仕事』として成立させる、世界で一番不条理な生き物のことだよ」

 

五条はゆっくりと振り返り、その瞳(六眼)で生徒たちを一人ずつ射抜くように見つめた。

 

「ちょっと先生! 急にシリアスな職務放棄みたいなこと言わないでよ。私たちは呪霊を払って、感謝されて、美味しいもの食べて……そういう真っ当な(?)ヒーローを目指してるつもりなんだけど!」

 

釘崎が、机の上に置いた藁人形の頭を、無意識に撫でながら叫ぶ。

 

「アハハ! 先生、オレはなんとなくわかってきたよ! 呪術師って、結局『アイツの代わりに自分が呪われる』って決めた奴のことだろ? 誰かのために、自分の正気を少しずつ捨てていく……みたいなさ」

 

「悠仁、正解だ。……呪術師の本質とは、自己犠牲という名の『究極の自己満足』なんだ。他人の呪いを肩代わりし、その重みに耐えながら、涼しい顔をして立ち続ける。……そのためには、並大抵の精神力じゃ足りない。だからこそ、僕たちは常に『狂気』を身にまとっていなきゃいけないんだ」

 

五条は、教壇を拳でトン、と叩いた。

 

「いいかい諸君。自分の魂を削る仕事をするには、心に防護服を着ちゃいけない。むしろ、すべてを脱ぎ捨て、全裸の魂で呪いと取っ組み合わなきゃいけないんだ。……つまり、僕が今まで推奨してきた『全裸での不法侵入』や『変態露出(シャウト)』は、呪術師としての強靭なメンタルを鍛えるための、あまりにも慈悲深い臨床教育だったんだよ!」

 

「「「「結局、全裸の正当化かよ!!!!!」」」」

 

伏黒が、深すぎる溜息と共に顔を覆ったその時、教室の扉が開き、ボロボロの領収書を握りしめた七海建人が現れた。

 

「……五条さん。呪術師の本質は『クソ』な現実をどう処理するかという実務にあります。自分の魂を全裸にするのは勝手ですが、それを生徒に強要し、教育委員会から『J(事案)』の通知が私のデスクに届く現実は、呪い以外の何物でもありません。……You、今すぐ服を、というか理性を着なさい」

 

「あ、ナナミン! 君も呪術師という名の『社畜の悲劇』を語りに来たのかい?」

 

「私はただ、27歳を過ぎてなお全裸を説く大人を、労働基準法で裁きたいだけです」

 

七海の冷徹な一喝に、教室の「最強の授業」は一瞬で瓦解した。

 

「……ちっ。やっぱり『呪術師の本質』も、ナナミンの『現実(JITSUMU)』には勝てないか」

 

五条はチョークを置き、いつもの軽薄な笑みに戻った。

 

「……さて。本質を語ったらお腹が空いたね。……みんな、打ち上げに『お茶(意味深)』でも飲みに行くかい?」

 

「「「「絶対行かねーよ!!!!!」」」」

 

彼らが「呪術師」という名の、あまりにも脱ぎたがりすぎる宿命から解放される日は、五条悟という名の特級の迷師が教壇に立ち続ける限り、永遠に来ないのかもしれない。

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