呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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プリズムの放課後、あるいは 双子の視線が交差する瞬間

高専の裏手にある、古びた自動販売機の前のベンチ。

菜々子は、お気に入りのスマートフォンのカメラアプリを起動し、画面越しの自分と、隣で大人しくクレープを食べている美々子をチェックしていた。

 

「……ちょっと美々子。またそんな、無防備にクリームつけて。ほら、こっち向いて。今の光の入り方、最高に 盛れる タイミングなんだから。……はい、チーズ!」

 

シャッター音が、静かな放課後の空気に弾ける。画面の中には、少しだけ照れたように俯く美々子と、勝ち気な笑みを浮かべる菜々子の、どこにでもいるような女子高生の姿があった。

 

「……菜々子。また写真? ……そんなに撮らなくても、私は逃げないよ。……それに、さっきから 誰か を待ってるみたいに、校門の方ばっかり見てる」

 

美々子が、クレープを包む紙を丁寧に折りたたみながら、核心を突く。

その指摘に、菜々子は「なっ、別に! 誰も待ってないし!」と、あからさまに動揺して画面をスワイプした。

 

「……嘘。菜々子、さっきから 任務帰りのあいつ が通る時間を、3分おきに確認してる。……昨日、あいつに コンビニの新作スイーツ、一口あげる って約束したからでしょ」

 

「う、うるさいわね! それは、あいつが いつも私の写真にダメ出ししてくるから、甘いものでも食わせて黙らせようと思って……。……あ、ほら、来た!」

 

菜々子の視線の先。校門から、泥だらけのジャージを着た同年代の男子生徒(任務帰りの不器用な少年)が、疲れた足取りで歩いてくる。

菜々子は立ち上がり、制服のスカートを軽く整えると、わざとらしく大きな声で彼を呼び止めた。

 

「ちょっと! あんた、遅すぎ! 私が何分ここで 新作アイスの溶け具合 を監視してたと思ってるのよ! ほら、溶けちゃう前にこれ、さっさと食べなさいよね!」

 

菜々子が差し出したのは、二つに割られたアイスバー。

その差し出し方は乱暴だったが、指先が微かに震えているのを、美々子だけは見逃さなかった。

二人の間に流れる時間は、呪術も血の因習も関係ない、ただの「放課後の再会」としての、最高に瑞々しく、ソーダ水の泡が弾けるような甘酸っぱさだった。

 

「……菜々子。顔、赤い。……あいつ、喜んで食べてる。……よかったね」

 

美々子が、自分の胸元に抱えたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、静かに微笑む。

菜々子は「赤いのは夕日のせいよ!」と叫びながら、少年の隣に座り込み、とりとめもない学校の話を始めた。

 

その時、ベンチの背後にある大きな木の上から、ひょっこりと五条悟が顔を出した。

今日は黒い目隠しではなく、レンズの大きなサングラスをかけ、最高級の 青春の果実 を収穫しにやってきた 余計な特級 の登場である。

 

「はーい! 双子の初恋(ハッピーエンド) してるね諸君! 先生、空気を読んで 恋のフラッシュバック という名の特級呪術を持ってきてあげたよ! ほら、このスイッチを押すと、二人の周りに 告白しないと消えないハート型の結界 が出現して、本音を自撮りしないと出られなくなるんだけど……」

 

「「「「今すぐ高専から出て行ってください、五条さん(最強の邪魔者)!!!!!」」」」

 

菜々子の全力の叫びと、美々子の静かな(しかし殺気を孕んだ)呪力の高まりが重なり、五条は「えー、最強の僕が最高のカメラマンになろうとしてるのに。双子ちゃんはガードが固いなあ」と、わざとらしく肩をすくめて、空の彼方へと消えていった。

 

静寂が戻ったベンチの前で、菜々子と美々子、そして少年の三人は、どちらからともなく顔を見合わせて、お腹の底から笑った。

 

「……あはは! 五条さん、相変わらずね。……でも、美々子。……あいつ、アイス美味しいって。……明日も、一緒に帰ろうって」

 

「……うん。……菜々子が嬉しいなら、私も嬉しい。……明日も、晴れるといいね」

 

三人が、夕闇に染まりゆく校庭を歩き出す。

彼女たちが 3年J組 という名の、あまりにも明るく、あまりにも透明な季節から卒業できる日は、夏油傑という名の「救世主」が、彼女たちの笑顔の中に真実の救いを見出すまで、ずっと、ずっと先のことのようだ。

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