呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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鋼鉄の鼓動、あるいは 0.1ミリの電気信号

京都校の放課後。夕暮れが差し込む廊下は、金色の粒子が舞っているように静かだった。

三輪霞は、誰もいない教室の片隅で、メカ丸の無機質な金属の肩にそっと語りかけていた。

 

「……ねえ、メカ丸。今日の任務、お疲れ様。……あのさ、これ。京都駅で見つけて、メカ丸に似合うかなって。……あ、似合うっていうか、その、部屋に置いといたら可愛いかなって」

 

三輪が差し出したのは、小さくて丸い、グリーンのクォーツが埋め込まれたストラップだった。メカ丸のカメラアイを思わせるその輝きに、三輪の指先が少しだけ震えている。

 

「……三輪。自分は機械だ。装飾品など、必要ない。……それに、自分は今、遠隔操作中だ。本体に届ける術(すべ)もない」

 

メカ丸の声は、スピーカー越し特有の平坦な響きだった。だが、その内部回路を駆け巡る電気信号は、どの術式よりも激しく乱れ、オーバーヒート寸前の熱を帯びていた。

 

「……知ってるよ。でも、メカ丸はメカ丸じゃない。……いつか、このストラップを、メカ丸の本当の手で受け取ってほしいなって。……それまで、私が預かっててもいい?」

 

三輪が、少しだけ首をかしげて微笑む。その 役立たずなほどに純粋な 微笑みに、メカ丸の視覚センサーは一瞬、ホワイトアウトした。六眼でも捉えられない、一人の少女が放つ特級の 慈愛 という名の衝撃。

 

「……三輪。自分は、汚い。呪われていて、日の当たる場所には出られない。……君の隣を歩く資格など、ないんだ」

 

「そんなことない! メカ丸は、誰よりも優しくて、誰よりも一生懸命で……。私が、メカ丸の隣を歩きたいって言ってるの! ……資格なんて、関係ないよ」

 

三輪が、一歩、メカ丸の鋼鉄の体に近づく。その距離、わずか5センチ。

金属の冷たさと、少女の体温が混ざり合う、この世で最も不器用な境界線。

 

その時、教室の扉がガラリと開き、ひょっこりと五条悟が顔を出した。出張帰りの京都校で、わざわざ 青春の収穫 にやってきた 余計な特級 の登場である。

 

「はーい! 遠距離恋愛(?)してるね諸君! 先生、空気を読んで 恋のバイパス という名の特級呪具を持ってきたよ! ほら、このスイッチを押すと、メカ丸の意識が一時的に 100パーセント生身の幻影 になって、三輪ちゃんと手をつなげるようになるんだけど……」

 

「「「「今すぐ京都から出て行ってください、五条先生!!!!!」」」」

 

三輪の絶叫と、メカ丸の最大出力の排気音が重なり、五条は「えー、最強の僕が愛の架け橋になろうとしてるのに。京都はガードが固いなあ」と、わざとらしく肩をすくめて、新幹線の時間だとばかりに消えていった。

 

静寂が戻った教室で、メカ丸はゆっくりと、三輪の手の中にあるストラップに指先(マニピュレーター)を触れさせた。

 

「……三輪。……いつか、必ず。……自分の手で、それを受け取りに行く。……だから、それまで。……待っていてくれるか」

 

「……うん! ずっと、待ってる。……約束だよ、メカ丸!」

 

二人の間に流れる時間は、炭酸が弾けるようなさわやかさと、言葉にできないほど甘酸っぱい祈りに満ちていた。

鋼鉄の胸の中に秘められた、世界で一番熱い鼓動。

彼らが 3年J組 という名の、あまりにも切なくて、あまりにも透明な季節から卒業できる日は、まだ、ずっと先のことのようだ。

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