呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
放課後の第1体育館。
東堂葵は、シャツを脱ぎ捨てた上半身裸の状態で、静かに胡坐をかいていた。彼の脳内では今、特級呪霊との死闘よりも過酷で、どんな黒閃よりも熱い「聖戦」が繰り広げられている。
「……高たん。今日のライブ、最高だったよ。……特に、アンコールのあの曲。僕と目が合った瞬間に、少しだけ照れ笑いしてくれただろ? ……あれは、僕たちだけの 秘密 の合図だって、信じていいんだね」
東堂の脳内(マイ・ベスト・フレンドの世界線)では、そこは放課後の屋上。夕暮れに染まる制服姿の高田ちゃんが、少しだけ首をかしげて、東堂の太い腕にそっと触れていた。
「葵くん、気づいてくれたんだ。……あはは、恥ずかしいな。……でも、葵くんが一番前で全力で踊ってくれるから、私、最強のアイドルになれるんだよ」
高田ちゃんが、潤んだ瞳で東堂を見上げる。その破壊力は、東堂の呪力を最大出力で活性化させ、現実の体育館にさえ微かな振動を巻き起こしていた。
「高たん。僕は、君を守るためだけに、この拳を磨いてきた。……君がステージで輝き続けるなら、僕は 存在しない記憶 すら現実にして、世界を君の色に染めてみせる!」
東堂が、脳内の高田ちゃんの指先に、自分の巨大な手をそっと重ねる。
それは、握手会の 0.5秒 という名の 縛り を超えた、一人のファンと一人のアイドルの、あまりにも純粋で、あまりにも暑苦しい触れ合いだった。
「葵くん……。……私、葵くんの隣、ずっといたい。……たとえ、握手券がなくなっても。……葵くん、私のこと、推し続けてくれる?」
高田ちゃんが、マイクを両手で握りしめるようにして問いかける。その可愛らしさは、東堂の理性を 赫 よりも鮮やかに吹き飛ばした。
「……当たり前じゃないか! 高たん! 僕は、君のためなら、全呪術師を敵に回してもいい! ……君の笑顔が僕の隣にあるなら、僕はそれだけで、宇宙最強の親友(マイ・ベスト・フレンド)になれるんだ!」
東堂が、脳内の高田ちゃんと、魂の不義遊戯(ブギウギ)を交わそうとした、その瞬間。
現実の体育館の扉が勢いよく開き、ひょっこりと五条悟が顔を出した。出張帰りの限定グッズを持って、わざわざ 妄想のピーク を邪魔しに来た 余計な特級 の登場である。
「はーい! 脳内恋愛(ハッピーエンド) してるね東堂! 先生、空気を読んで 恋の推し活 という名の特級呪術を持ってきてあげたよ! ほら、このスイッチを押すと、体育館中に 高たんの等身大ホログラム が出現して、強制的に二人で デュエット しないと出られない結界が張られるんだけど……」
「「「「今すぐ高専から出て行け、この最強の邪魔者(五条悟)がぁぁぁぁ!!!!!」」」」
東堂の怒髪天を衝く絶叫と、現実には存在しないはずの高田ちゃんのコーラスが響き渡り、五条は「えー、最強の僕が最高のバックダンサーになろうとしてるのに。ドルヲタは情熱的だなあ」と、わざとらしく肩をすくめて、次元の狭間へと消えていった。
静寂が戻った体育館で、東堂はゆっくりと立ち上がり、乱れた息を整えた。
「……高たん。……行こうか。……次の握手会のために、新しい筋トレメニューを組まないとな」
東堂が一人、夕闇に染まりゆく校庭を見つめて、不敵に、しかし最高にさわやかに笑った。
彼が 3年J組 という名の、あまりにも一途で、あまりにも「自由」な季節から卒業できる日は、まだ、ずっと先のことのようだ。