呪術廻戦スピンオフ 3年J組 五条先生   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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太陽のプリズム、あるいは おかわり自由の恋心

放課後の高専の廊下。

灰原雄は、大きなスポーツバッグを肩にかけ、鼻歌を歌いながら意気揚々と歩いていた。彼の行き先は、鍛錬場でも任務先でもない。学校の最寄り駅にある、期間限定の 激盛りスイーツパラダイス だった。

 

「……七海! 見てよ、このチラシ! 新作のイチゴパフェ、なんとイチゴが通常の三倍だって! これを食べなきゃ、術師としてのモチベーションが維持できないよ。ねえ、一緒に行こうよ!」

 

灰原が、キラキラとした瞳で隣を歩く七海建人に詰め寄る。七海は、いつものようにネクタイを整え、冷淡ながらもどこか呆れたような溜息をついた。

 

「灰原。私はこれから、報告書の作成があります。そんな、糖分の塊を摂取しに行く余裕はありません。……それに、そのチラシを握りしめて校門の前で待っている女性は、一体誰ですか」

 

七海の視線の先。校門の脇、少し古びた街灯の下で、隣の高校の制服を着た一人の少女が、そわそわと足元を気にしながら立っていた。彼女の手には、灰原とお揃いの、少し使い古されたパスケースが握られている。

 

「……あ! 彼女は、こないだ任務の帰りに道を聞かれた、サトミさん! 食べ物の好みが驚くほど合うんだよ! 今日は、パフェの攻略法を一緒に考える約束なんだ!」

 

灰原が、パッと顔を輝かせて駆け出していく。その背中は、特級呪霊を追いかける時よりもずっと、迷いがなく、生命力に満ち溢れていた。

 

「……サトミさん! お待たせ! ごめんね、七海を誘うのに時間がかかっちゃって」

 

「……ううん、全然! 私も今来たところ。……灰原くん、今日も元気そうだね。……その、新しい制服も、よく似合ってる」

 

サトミが、少しだけ照れたように微笑み、長い髪を耳にかけた。

二人の間に流れる空気は、呪力も血の匂いも一切しない、ただの「放課後の高校生」としての、あまりにも瑞々しく、ソーダ水の泡が弾けるような甘酸っぱさだった。

 

「サトミさんこそ! そのリボン、春らしくて最高だよ! ……さあ、行こう! 今日はパフェだけじゃなくて、新作のドーナツも全種類制覇する勢いで!」

 

「……ふふ、灰原くんといると、なんだかお腹が空いちゃうな。……ねえ、灰原くん。……食べ終わった後、少しだけ、公園で話してもいい?」

 

サトミが、灰原の制服の袖を、指先で小さく掴む。その距離、わずか5センチ。

灰原の心臓は、術式を練り上げる時よりもずっと激しく、まるで太鼓のようにドクドクと鳴り響いた。

 

「……当たり前だよ! 公園どころか、海の向こうまで、サトミさんの話ならいくらでも聞くよ!」

 

灰原の迷いのない、しかし純度100パーセントの肯定。

その言葉に、サトミは顔を真っ赤にしながらも、幸せそうに頷いた。

 

その時、校門の上、不自然なほど高い位置に浮かんでいた五条悟が、ひょっこりと顔を出した。アイマスクを外し、最高級の 青春の果実 を収穫しにやってきた 余計な特級 の登場である。

 

「はーい! 太陽の初恋(ハッピーエンド) してるね諸君! 先生、空気を読んで 恋の満腹中枢 という名の特級呪術を持ってきてあげたよ! ほら、この指をパチンと鳴らすと、二人の周りに 無限にスイーツが出てくる空間 が出現して、お互いに あーん しないと一口も食べられない結界が張られるんだけど……」

 

「「「「今すぐ高専から出て行ってください、五条さん(最強の人)!!!!!」」」」

 

灰原の全力のツッコミと、サトミの驚きに満ちた(しかし凛とした)拒絶が重なり、五条は「えー、最強の僕が最高の給食当番になろうとしてるのに。食いしん坊コンビはガードが固いなあ」と、わざとらしく肩をすくめて、空の彼方へと消えていった。

 

静寂が戻った校門前で、灰原とサトミは、どちらからともなく顔を見合わせて、お腹の底から笑った。

 

「……あはは! 五条さん、いつもあんな感じなんだ。……でも、サトミさん。……僕、サトミさんと食べるパフェが、世界で一番楽しみだよ」

 

「……私も。……灰原くん。……行こう?」

 

二人が歩幅を合わせて、夕暮れの街へと歩き出す。

彼らが 3年J組 という名の、あまりにも明るく、あまりにも透明な季節から卒業できる日は、まだ、ずっと先のことのようだ。

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