流星たちのヒーローアカデミア 作:ハルカンドラの呪物
足は失ったけど、マシンが来たので元気です。
「……んんん。よく寝た…」
それは長い夢だった。過去の自分の軌跡を辿る夢だった。足を失って途方にくれた自分に星がやってきて、もう一度壮大な景色を見ることができたのだ。
《____!》
「あ、おはよう、『ライトスター』。」
身を起こすと丸っこい小さな星、『ライトスター』が元気に僕の周りを駆け回る。聞けばご飯がすでにできているという。
「オーケー、じゃあ運んで。」
待ってましたと言わんばかりに、『ライトスター』は僕を乗せる。小さいながら頑強で小回りの効くそれは安全運転でリビングの食卓に到着する。
「おはよう翔、よく寝た?」
「うん、今はお腹ペコペコだよ。」
「そんなお前には二十段サンドウィッチだ!」
「わーい!」
天井に着きそうなくらい積まれたサンドウィッチには思わず涎を垂らした。吸い込むように一瞬で平らげた。トマト、キャベツ、イチゴ、キウイ、オレンジ、様々な味に目をキラキラさせる。
「おいしー!」
「食う速度は相変わらずだな。今日が試験なのに。」
「元気があるからいいでしょう?」
両親の会話でピクッと止まった。そうだった今日は試験の日だった。とっても大事な試験の日。
「準備をしないと。急げ急げ!」
「落ち着いて、まだ時間には余裕がある。それに翔の"個性"なら遅れることはないだろう。」
「学校側にも一応連絡入れておいたから配慮してくれるはずよ。」
「分かった!」
すぐさま『ライトスター』で駆け出す。筆記用具、メモ帳、飲み物、おやつのトマト。そして試験に備えて特注したあるものを鞄に入れた。
「準備完了!行ってきまーす!」
「おう、気をつけていってな。」
「応援しているわ。」
両親のどこか浮かない顔に違和感を覚えることはなく、彼はワープスターに乗り換えて元気よく走り出した。
「…はぁ、心配だわ。」
「無理もない、雄英が厳しい場所なのは知ってる。私だって最初は彼に忠告はしたんだが、全く止まる気配ななかったな…」
「ほんと、あの事故の後でもやんちゃなところは変わらないのね。」
我が子ながら流石と言うべきか、と母はふふっと微笑んだ。
「嗚呼…両足がないにも関わらずあいつならどこまでも行ける気がしたんだ。」
父も無問題と思えるほど彼が身につけてきた実力を信頼していた。
♢
「う〜ん、今日は地上が混んでるね。」
何処もかしこも受験で忙しいのだろう。道路は試験会場に向かう車で溢れかえっていた。
「『ウィリーバイク』で来てたら巻き込まれてたかもね。」
そう言う彼に『ワープスター』は頷くように小刻みに縦ロールした。尤も、春空に抗議の意が伝わってきていたが。
余談だが、本来公共の場で個性を使うのは禁止である。だが、移動用として個性を使用する場合は、それ相応に免許を持っていれば使用しても構わない。また身体的障害を個性で補うことができれば、それに限った使用も許されている。
「お、見えてきた。あっちが指定してきた場所に着陸してね。」
目を凝らした先に、いよいよ彼が受験する雄英高校の姿が見えてきた。ガラス張りの校舎から空の景色が反射して見えた。
ヒーローが何たるかを学ぶための学科、ヒーロー科。その中でも最高の設備、プロヒーローの職員を配備しているのがこの雄英高校である。その分難易度も魂が飛び出るほどの過酷さで、倍率300、偏差値70を優に越えるという。
指定された校舎の屋上にスムーズに着陸すると、そこに雄英高校の職員の一人が待機していた。
「待ッテイタゾ、春空クン。ソチラノ連絡ハ把握済ミダ。」
「こんにちは、エクトプラズム先生。話が早くて助かります。」
自分のように両足を欠損しても尚、ヒーローとして活動しているエクトプラズムに敬意を払って会釈する。
「ウム、校内ノ移動ハ『ライトスター』ノミニシテクレ。案内ハ私ガヤル。」
「了解です。」
早速『ライトスター』へ乗り換えて、エクトプラズムの背中を追いかけ始める。
「シカシ驚イタヨ。君ノヨウナ障害ヲ持ツ子ガ受験シニ来ルトハ。ネタバレスルヨウデナンダガ、コノ高校の試験ハ厳シイゾ。」
「分かってます。大丈夫です、自信があるので。」
自信満々にサムズアップする春空に、エクトプラズムは静かに微笑む。顔は怖いが。
♢
「戻りましたー」
「筆記試験、ゴ苦労ダッタ。次ハ実技試験ノ説明ダ、案内スル。」
ふうっと息を吐く。筆記試験は手応えがある感じがしたが、不安な教科はないだろうと気を切り換え、エクトプラズム先生についていった。
そして説明会場に到着。司会はラジオもやってるプレゼントマイク。ちょくちょく場を盛り上がらせようとしてきているのでバレない程度にノリに合わせてあげた。
そして試験の内容だが、仮想ヴィランを倒すだけというシンプルな内容。僕の個性はお世辞にも戦闘向きとはギリ言えないが、頑張るしかないだろう。仮想ヴィランの中には0Pというのもいるという。要するに倒すメリットがない奴というわけだが…
「PLUS ULTRA!それでは諸君、健闘を祈る!」
なんて考えていたらその言葉と共に説明が締め括られる。一緒に配られた資料には、演習会場が指定されていた。
いよいよ本番だ、と持ってきたトマトを噛み締めて勇気を出した。