命蓮寺の墓場に新しい人が来た。名前は多々良小傘。なんで来たのかと聞けば、墓場じゃないと人間に驚かれないから、らしい。可哀想に。そんな私を人間だと思って驚かせた小傘は、夜だけはここにいると言って日が登ると同時に帰っていった。なんなんだろう、あの妖怪。何がしたいのかいまいちわからない妖怪だったな。墓場でそんなことを思っていた時、一輪に誘われた。一輪は私を人里に連れて行きたいらしい。何を考えているのか全然わからないけど、ついて行くことにした。
「ここが私の行きつけ!」
「居酒屋?」
「やっぱりこういう場所の方が人の悩みとか聞けるからさ」
「へぇ」
疑心暗鬼。そのまま一輪は慣れた風にカウンター席に座り、指を一本立てて『いつもの』と言った。ずいぶん通い慣れている。私も何か頼めと一輪に急かされたので、枝豆を。帰ってから聖に何か言われない様にする為にね。そりゃ私だって怒られたくないから。日頃の折檻を見てるとよく思うよ。一回くらいは一輪に騙されたとか言ってなんとかなるかもね。…一輪が聞き耳を立てているのか、妙に静かになった時、一輪の頼んだ『いつもの』がカウンターに置かれた。
「お酒だ」
「聖には内緒ね」
「星に言っとく」
「それはズルでしょ!?」
「いつも酒だけ?」
「出費をなるべく抑えるためにね。私も一回でいいからパーッとつまみと酒で楽しみたいよ」
「…何」
「清白はさ、お金使ってないんでしょ?」
つまりはそういうことだ。私は財布係と言うこと。まあでも、一輪には割とお世話になってるから良いかな。枝豆に追加して冷奴を頼む。枝豆はあげるから、これ以上は集らないで。そう言うと一輪はブーブーと言って来た。どうやら既に酔っている様子。…今日は昼から布教があった気がするけど、黙っておこうかな。作り物でも生きて来たんだ。空気くらいは読める。多分、黙っておくのがこの場における最適解だろう。私の目の前に枝豆が置かれる。そのまま一輪へ。
「んー、枝豆でもないのとは大違いだね」
「それは良かった」
「清白ってこう言うの駄目だって言うかと思ったんだけどなぁー」
「そんなに固くないよ?そもそも私が私自身にあまいし」
「…普通、自分にあまいと他人に厳しくない?」
分からない。けど、私はそう。酒瓶を傾けて口の中に酒を淹れる一輪を横目に、ここで酒の匂いがついた時はどうやって言い訳するかを考える。考えたところで無駄だろう、と考えを改める。私に必要なのは言い訳ではなく理由だ。一輪に誘われたから、でも良いけど外に出るなと言われているわけで。私はどうしたら良いのやら。結局は二人揃って怒られるのが関の山というやつか。私の目の前に冷奴が置かれた。…こんなに湿ってる奴だとは思わなかった。私食べれるのかな、これ。
「一輪、お酒の後に食べて良いよ」
「ん、ありがとー!」
「うるさっ」
「清白は村紗と違って気遣いが出来るよねぇー!」
「ぅあっ」
「あと星と違って姐さんに言わなさそうだし」
「判断基準そこ?」
ダル絡みしてくる一輪を避けていると、酒瓶の中身を覗き込む一輪。…もう飲み干したの?本当に?たまにの贅沢で一輪が飲んだお酒は、ラッパ飲みで消えた。そしてそれと同時に背もたれに完全に寄りかかった一輪は、しくしくと泣きながら今日の楽しみが消えたことを実感したらしい。私は無視した。が、無視し切れるものでもない。聖に見つかる前に少しの言い訳くらいは作りたい。すると何が良いだろうか。一輪と私の代金を支払い、冷奴を無理やり一輪に食べさせる。
「やだやだまだ呑みたいー!」
「うるさいよ一輪」
「清白がもう一本出してよぉ〜」
「出せないよ。出せても土」
「やだー!お酒〜!!」
「うるさい!!」
誰が聖の目を掻い潜って一輪を無罪にしようとしたんだっけ。私か。駄目でしょ私。救う人間は選ばなきゃ。蜘蛛の糸だって仕方ないなぁ的なスタンスで出してたんだから。これが情か。…まあ、そんなおふざけは置いておく。というわけで、一輪を数回殴る。石で。血が出たね?よし。これなら、雲山がいない間に外に出たら妖怪に襲われた一輪の完成。寝ない私がそれに気付いたという寸法ね。…無理だな、一輪の傷がすぐに塞がった。酒って本当に百薬の長だったのか。
「んー…どうしよう」
「清白ぅ…今の痛いよ?」
「知らないよ」
「お酒出して?」
「出せないよ」
「意地悪〜〜〜!!!」
「…捨てて行くか…」
「嫌だ〜!」
かなり酔っている様だ。頭を叩いてもけろっとしている。…私が弱いという線も消せなくはないけど。そんなこんなで一輪を連れて帰る。都合が良いことに一輪が眠ってくれた。この状態なら私の嘘が通るかもしれない。通らなかったらそこまで。どうにかなってほしいな。一輪を背負って命蓮寺の門を遠くから見る。…見える限りでは人はいない。そろりそろりと門を潜って一輪の部屋へ。多少の音は仕方がない。聞き間違いか、用事があったから来たということにすれば誤魔化せはする。多分。…なんだろう、希望的観測がとても多い。
「よいしょっ」
「こんにちは」
「ひぁっ」
「私に何か言うことがありますね?」
「聖に…は、ないかな…」
「お酒の匂いがしますねぇ」
「聖…?」
「んゃ…?あれ、ここ…!?」
「おはようございます、一輪。何か言うことは?」
「あっ…と…」
Q.命蓮寺組はどこでお金を手に入れているんですか
A.布教活動ついでに皆んなでお仕事したり。開墾の手伝いとか。