ころしちゃった!   作:ララミー牧場

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パチンコエアプなので間違った描写あるかもしれません。その場合はこっそり教えてください…。


#1

 甚爾がハズレの舟券を放った時、妙なのが話しかけてきた。

 

「伏黒甚爾さんでしょ?」

 

 そう話しかけてきたのは女だった。それもガキの。大人の女一歩手前の女子高生。

複数の女の間を行ったり来たりしている甚爾ではあるが、眼前の人物に覚えはなかった。

 

「ねえ、伏黒甚爾さんでしょ?」

 

 同じ言葉を繰り返す少女を、甚爾は缶コーヒーを片手に眺めてみた。

 少しパサついたロングの黒髪に蝋燭みたいに白い不健康そうな肌、まだあどけなさが残る顔立ちは整っているが、目の下のクマが濃い。首と手首に包帯。全体的に華奢で頼りない女のガキが微笑みかけている。切羽詰まった奴特有の笑みだった。なによりもこの真夏の盛りに冬用の制服を着込んだ女なんてワケアリに決まっている。

 

 結果、甚爾は無視することに決めた。

 

 競艇場を出ると、灼熱の太陽光線が容赦なく頭上から降りそそいだ。地球環境悪化の影響で年々、気温が上がり続けている。何らかの対策をしなければそのうち暑さで頭が狂った人間が、殺したり殺されたりするに違いない。「暑……」

 

 まだほんの少し歩いただけなのに既に汗が滴っている。

 あのガキはどうしたろうか。気取られぬよう横目で見ると、一定距離を開けて付いてきている。後ろで手を組みながら、ちょっとした街ブラといった風だが、相変わらず自分を見る目には切羽詰まった色がある。

 

「暑くないですか? どこかで休憩しません?」

「……エンコーの誘いなら他を当たれよ」

 

 思わずそう返すと相手は一瞬、 大きな目をさらに見開いた。そしてケラケラと笑い出した。

 

「違いますよ。すごい自信過剰ですね。あっでも、ある意味では甚爾さんの体目当てです」

 

 何だか妙な恥をかかされた気分だった。大抵の女は甚爾の顔と体にそういう視線を向ける。甚爾もそれを分かって利用している。生臭いギブアンドテイクが成立するのが常だった。だから、自分に積極的に関わってくる女=そういう手合いという思い込みも仕方がない。

 

「クソガキが」ちっと舌打ちをくれてから、甚爾は涼を求めて目についたパチンコ屋に滑り込んだ。別に、後ろに引っ付いている背後霊みたいなガキの言葉に従う訳ではない。結果的にそうなっただけだ。

 平日昼だというのに店内は客でごった返していた。おかげで熱気がこもり、冷房の恩恵もクソもない。

 人気台の島で適当に空いてる台に陣取ると、財布から紙幣を1枚抜き投入口へ飲み込ませた。

 

「その台はダメですよ」

 

 いつの間にか横に腰掛けてたガキが言う。

 

「多分、いくら回しても当たらないです」

「知ったふうな口利きやがって。それともそのナリで入り浸ってんのか」

「まさかぁ。今日初めて入りましたよ」

「だったら黙ってろ……つーか」

 

 さっさとどっかに消えて欲しい。

 

「とにかく話しかけるなよ、黙ってろ。集中してるんだよコッチは」

 

 まだなにか言おうとするガキをひと睨みで制し、甚爾はハンドルを握った。

 が、結論から言うと隣のガキの言うことは正しかった。入店してから数時間経つが、いっこうに当たらない。それどころかリーチすら来ない。ギャンブル運がないのはいつものことだが、それにしてもこの状況は酷すぎる。

 

「釘イジってるだろこの店、違法だ違法。お巡りさんにチクるぞオイ」

「そんなことしてませんよォ。言いがかりはやめてくださいって」

 

 通りすがりの従業員を捕まえダル絡みをする甚爾。

 そんな彼に、彼女はすっくと立ち上がりこう言い放った。

 

「大当たりする台、教えてあげましょうか?」

「あ?」

「大当たりする台ですよ。私には分かるんです」

「ハッ! 寝言は寝て言えクソガキ」

 

 ボルドーのブレザーのポケットをまさぐるガキに、甚爾は鼻でせせら笑った。今日初めてパチンコ屋に入ったような奴に何が分かるというのか。

 それでも相手は妙な自信に満ちていた。ポケットから左手を取り出し体の前に突き出すと、しゃらんという軽い音と共に何かが零れた。銀のチェーンと、その先端に小ぶりの青い水晶がくっついている。「振り子か?」

 

「私の()()で当たり台を見つけてあげます」

「お前、呪術師か」

「その代わり、甚爾さんには私の依頼を受けてもらいますからね」

「質問に答えろよガキ。俺は呪術師とは──」

 

 甚爾の言葉には答えずに相手は意識を集中し、島中の空いている台に振り子をかざして回った。

 呪術師か……嫌な相手に目を付けられたもんだ。

 椅子からわずかに腰を浮かしたままで甚爾は相手を見守る。今のうちに逃げる方が絶対にイイ。呪術師なんかと関わり合いになれば、面倒ごとが押し寄せてくるのは明白だ。だが。

 

「あっ! ここです、この台!」

「……」

 

 甚爾の目の端で振り子が激しく左右に揺れていた。

 

「ホラホラ甚爾さん! 早くしないと他の人に取られちゃいますよ!」

「……煙草とメダルが置いてある。元から他人の台だ」

「席外す方が悪いんじゃないですか」

 

 何食わぬ顔で煙草とメダルを放り捨てるガキに、さすがの甚爾も閉口する。どんな奴の席かも分からないのによくやる……頭がおかしいのかもしれない。

 台につき液晶をみると回転数はそこまででもない。財布からなけなしの1枚を抜き、投入口に飲み込ませる。

 

「先に断っとくがテメェの依頼を受ける気はねえからな。それと、もしこれで当たらなかったらその振り子ごと指叩き折るぞ」

「お好きにどうぞ」

 

 変な女だ。ガキのくせにやたらと肝が据わっている。それとも、コイツもまた自分と同類なのか……つまり、ある種の破滅願望者。世間に、人間に、すっかり失望している。ハンドルを握る手にかすかに力がこもる。大当たりするはずがない。してたまるか。

 

 

「わあ! すごいですね甚爾さん! 大当たりですよ!」

「マジか……」

 

 打ち始めてすぐに台は大当たりを出した。けたたましい演出とBGMが店内に響き、アタッカーから放出される玉を前に甚爾はどうしたものかと下唇を嚙んだ。

 

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