ころしちゃった!   作:ララミー牧場

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今さらなんですがこのお話の甚爾くんは私の解釈もかなり含まれてます。故に原作および読者さんとの解釈が違う面が多分にあると思いますが、そこは何卒ご容赦ください。


#3

 

「もう、疲れちゃったんですよね」

 

 ミヲ曰く、父親はどうしようもないほどの【完璧主義者】であるらしい。そしてその【完璧】を自身のみならず、他者にも押し付けてくる。むろんそれは自分の妻や娘も例外ではない。

 だが、ミヲを苛ませたのは父親の病的なまでの完璧主義だけではなかった。

 彼女が術式を受け継いでいると知ったその瞬間から、彼女は父親の悲願達成のための傀儡とされた。

 

「五条悟って知ってます?」

 

 ミヲのその問いに、甚爾の脳内に五条家の跡取り息子の姿が浮かぶ。昔、まだ自分が実家にいた頃、面白半分で査定しに行ったことがあった。界隈から持て囃される【六眼持ちのガキ】がどの程度なのかという興味が甚爾を動かしていた。その結果は……今は伏せておくが。

 自分の答えを待つかのようにジッと上目遣いに見てくるミヲへ、甚爾は曖昧な返事を返した。

 

「あー……まァな。で、そいつがどうした」

「バカみたいな話ですけど、私の父はその五条悟くんに勝ちたかったらしいんです」

「そいつはまた、無謀な身の程知らずだな」

「バカなんですよ」

「お前、いくつだっけ?」

「17です。悟くんより1つ上です」

「自分とこのガキと同年代のガキにライバル意識抱いてたってか。ウケるな」

「ウケますよね」

 

 とにもかくにも五条悟へ(勝手に)ライバル意識を燃やした父親はミヲへ虐待まがいの教育を施した。日常は全て管理され、押し付けられた修行メニューをこなすだけの日々。少しでも彼の望む結果が出なければ罵声や暴力は当たり前。

 

「母ちゃんは何してたんだよ」

「最初の内は庇ってくれてましたけど出ていっちゃいました。母は非術師家系の出でしたから立場が弱かったんですよ。父とその親族から色々嫌がらせされたみたいです、気の毒なことをしました」

「……どこも似たり寄ったりだな。親の都合にガキが振り回されるのもよくあることだ。恨むんなら呪術師の家系なんかに産まれたテメエを恨むんだな。ハイ、この話はおしまい。自殺したきゃ他を当たんな」

「冷たいですね」

「そういうところが好きってよく言われるよ」

 

 甚爾が鼻で笑う。

 ミヲは目を半分にして甚爾を眺めた。

 

「……私、一度だけ悟くんのこと見に行ったことあるんですよ。ビックリするほど綺麗な子でした……それに、一目で分かりました。あんな子に勝てる訳ない。なのに父さんは五条悟に勝てって……死んでからも言ってるので筋金入りですよ。おかげで満足に寝ることも出来ません。もう疲れた。だから、甚爾さんに私ごと父さんをもう一度殺してもらおうかなって」

「しつこい。くどい。さようなら」

「……じゃあ、別の人に頼みます。これは返してもらいますね」

 

 テーブル上に無防備に放られている通帳をミヲの指が引き寄せようとするのを、甚爾は咄嗟に自分の方へ引き戻した。「ちょっと」

 指先に力を込め引くと、さらに向こうもその倍の力で引き戻す。

 不毛な攻防戦が発生していた。

 

「いや、これはもう俺が貰ったモンだし」

「依頼は引き受けてくれないんですよね? だったらいらないじゃないですか」

「これから死ぬ奴にも必要ない金だろ。香典代わりに貰って有意義に使ってやるよ」

「意外と往生際が悪いんですね。欲しいんなら依頼を受けてくださいよ」

「だったら俺の知り合いを紹介してやる。女のガキを嬲るのが好きっていう真正のロクデナシでな、お前にぴったしの相手だろ? その紹介料として貰っといてやる」

「いやですよ、そんな得体のしれない人」

「あっ」

 

 勝利の女神はミヲに微笑んだ。甚爾の力がわずかに緩んだ隙に通帳を取り上げ、ブレザーの内ポケットへとしまい込む。いかに物怖じしない伏黒甚爾とて、衆目の前で未成年の胸元に手を突っ込んだり服を引ん剝くのは憚られた。思わず特大の舌打ちが出る。

 

 ミヲを殺す──。

 甚爾にすればそれは至極簡単な仕事だ。どこか人気のない所へ連れ込み首の骨でも折ってやればそれで終わりだ。数十秒で9桁の金額を手にすることができる【美味い仕事】に他ならない。しかも今回は仲介者を通さないチョクの依頼だから、仲介料も発生しない。

 にもかかわらず、何故、受けしぶっているのか……自分でもよく分からなかった。

 ミヲが呪術師だからか?

 それとも(不本意ながら)少なからず、自分と似た境遇を持つガキだから無意識のうちに同情しているのか。

 

「甚爾さんがその気なら私にも考えがありますよ」

「なんだよ」

「依頼を受けるというまで付きまといます。それで──」

「それで? 何する気だ?」

 

 ミヲは左手薬指へ指輪をはめると甚爾に向かい手のひらごと突き出した。水晶の飾りがついた銀のチェーンが静かに揺れた。

 

「甚爾さんの確率を操作して破滅させてあげますよ」

「ガキの分際で俺を脅すのかよ……いや、何だって?」

「私の術式はパチンコの当たり台を見つけるだけじゃないんですよ」

 

 今、このガキは確率を操作すると言ったのか。

 確率操作──それが辻占ミヲの術式の本来の使い方なのだ。あのパチンコ屋で当たり台を見つけたのも、正確に言えば比較的当たりやすい台の確率を弄ったのだ。

 その力を使って「破滅させてやる」などとはトンデモない女である。しかもこの場合、本当にやりかねないからタチが悪い。「……わかったよ」

 

 甚爾はついに観念したように天を仰いだ。

 

「お前の依頼、引き受けてやる。殺すよ、殺してやる。それで良いんだろ?」

 

 ミヲの表情がパッと明るくなった。正真正銘、男からの殺し文句に17歳の少女は初めて年相応の笑顔を見せた。

「破滅させられちゃ困るからな」もちろんそれだけではない。甚爾にもそれなりの下心はあった。

 

 

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