「参考までに聞くが、親父を祓うんじゃダメなのか」甚爾は未だミヲの身体に巻き付く呪霊を眺めた。腕はさっきよりもさらに深く抱きしめ、娘の耳元へ口を寄せて何かを呟き続けている。恨み言か、それとも勝利の要求か。
当のミヲ本人は若干、不快そうに顔を歪めただけでこれといったリアクションは見せなかった。反応を返せば向こうが悦ぶのを理解しているのだろう。それとも単なる慣れか。彼女にとって
「俺じゃなくて別の術師に依頼を持ち込めばもっと簡単に事は済んだはずだ。それこそ、親父御執心のサトルクンとかな」
「確かにそれが出来れば一番良かったでしょうね」
「なんだよ、俺は滑り止めかよ」
「やだなあ、甚爾さんが本命ですよ」
ミヲが口の端を吊り上げる。さっき見せた年相応の笑みはとっくに消え失せ、例の切羽詰まった笑みに戻っている。かつて実家で散々見た虐げられた者の卑屈な笑いだった。
「行くぞ」
モールの裏側、従業員用の駐車場。監視カメラの死角になる場所で、甚爾とミヲは向かい合って立っていた。
ミヲは木陰に入っている。血の気のない青白い肌が余計に強調されて、それこそ本当に幽霊のように思えた。この娘は生きながらにして死んでいるのだと、甚爾は思った。思っただけだが。
スッと手を持ち上げて試しに包帯が巻き付く首を締めてみる……見かけよりも更に細い首は、このまま力を入れればポキンと容易く折れるだろう。
ミヲは抵抗しなかった。ただ、そうするのが当たり前という風にこちらへ身を任せて目を閉じている。だが、それも当然と言えばそうだ。もともと死にたくて来たのだから、抵抗するほうが間違っている。
指に力を込めると包帯ごと皮膚に食い込んでいく。ミヲの薄い唇が苦し気に震え、顔が紅潮していった。このままあと一押しで仕事が完了という時、甚爾の太い腕から血が噴き出した。「っ!」
絞めていた手を離して見てみると、皮膚が立てに裂けていた。
地面へしゃがみこんだミヲが咳き込みながら甚爾を見上げる。
「やっぱりダメですか。イイ所まではいくんですけど、父さんが邪魔するんですよね」
首の包帯と手首の包帯を外すと、それぞれに深く赤い線が走っていた。過去の自傷のあとだろう。結局のところミヲを死なせるためにはまず父親をどうにかするか、ミヲごと父親を殺すのいずれかしかないという訳だった。むろん、甚爾としては断然、後者だ。その方がまあまあ手っ取り早い(そもそも自分は呪術師ではないのだから呪霊を祓う義務もない)。気を引き締め直すべきだ。
甚爾は軽く溜息を吐くと歩き出した。
ミヲもすぐに立ち上がり、その後ろを静かについていった。
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まあまあどうでもいい話ですがミヲの名前を漢字で表記すると『水脈』になります。ダウザーなので。
ミヲの術式はあくまでも確率操作であって、ダウジングは彼女の趣味です。ただパチンコ屋で当たりやすい台を探したように、術式の補助的な意味で使う場合もあります。