ころしちゃった!   作:ララミー牧場

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#6

 

 思いのほか仕事がスムーズに行ったことに甚爾は満足していた。いかに自分に圧倒的な身体能力と暴力があるとはいえ、今回のようにターゲットに身をくらまされたり、不慮のアクシデントがあればどうしたって手間がかかる。それらの煩雑なこともミヲのダウジングと術式があれば可能な限り回避可能だろう──結論としてあのガキは実に有用だ。

 

 そうと分かれば殺すのがやや惜しくなってきた。

 殺せば9桁の金額が転がり込む。しかしどうにか死にたがりを矯正し自分の手元に置けば、それ以上の額を手にすることも可能かもしれない。さて、どうしたものか。

 

 いっそ色でも仕掛けてみるか?

 

 甚爾にとって、女はいわばライフラインだ。金と寝床を提供してもらう代わりに、こちらも向こうの求める物を差し出す。それは身体だったり適当な甘やかしだったりと色々あるが、大抵の女は甚爾にコロッといく。上等な外見に産んでくれたことだけは両親に感謝すべきなのかもしれない。「いや……ガキだしな……」

 一瞬、手っ取り早くて良い案だと思ったがすぐに却下した。

 なにせ相手は()()ミヲだ。まだ16だか17のガキだし、それを差し引いてもイカレている。飄々としているというよりも支離滅裂で、パチンコ店での行動を見るに平気で他人の地雷や尊厳を踏み抜いて余計なトラブルを持ち込んできそうなイメージがある(もちろんこれは甚爾の一方的な偏見だが)。関わり合いになりたくない女ナンバーワンだ。

 

 廃ビルの外に出ると、ミヲが地面にブッ倒れていた。制服と髪が泥と草に塗れていた。下生えを踏みながら近づいて観察すると寝てるのか死んでるのか紛らわしい。「おい、死んだのか?」

 声をかけながら爪先で上半身を軽く突いてみると、僅かながら身動ぎ呻いた。一応、生きてはいるらしい。

 

「何があった? 親父かカラスにでもに襲われたか」

「うぐ……な、なんか気付いたら目が回って……」

「そりゃこんな真夏の盛りに冬服着てりゃあな。残念でもないし当然の結果だ、マヌケ」

 

 要するに熱中症だ。受け答えができているということはそこまで重症ではないのだろう。

 甚爾は仕方なくミヲを引き摺ってすぐそこの木陰に放り込んだ。ちょうど今朝、ワイドショーで流し見た応急処置を思い出しながら実行してやった(後で請求してやる、クソ)。

 ブラウスの襟元へ手をかけボタンを外すと、浮き上がった鎖骨と白い胸元が顕になった。さらに手を突っ込みブラホックを外す。流石に手慣れていた。次いでスカートのホックも同様に。

 

 身体の締めつけを緩めたあとは水分補給、か──と、そこまで考えてハッする。

 別に助ける義理はないではないか。元々が死にたがりなのだから、これ幸いとこのまま放置して死なせれば仕事は完了。そうでなくとも通帳を持ち、素知らぬ顔でこの場を離れれば良いだけだ。

 

 どうにも自分らしくない。甚爾は苦々しく自嘲したその時、周囲の木々が風もないのにざわめきだした。背に特有の寒気を感じる。一瞬外した視線を戻すと、ミヲの傍らに和服の呪霊が立ち尽くしていた。父親の呪霊だ。相変わらず陰気なソレは、笠の陰から鋭い殺気のこもった視線を甚爾へ向けていた。

 

「なんだよ、俺がテメェの娘を犯すとでも思ったのかよ?」

 

 鼻を鳴らし小馬鹿にするような笑みを貼りつけながら、甚爾はわざとミヲの胸元に触れてみせた。子供の体温だ。触れた肌の下で血が体内を巡っているのが分かった。

 父親は解読不能な耳障りな音を発して怒りと殺意を攻撃として不届き者へとぶつけようとした。しかし甚爾の目は攻撃の軌道を容易く読み、軽く体を傾けるだけで容易く避けた。斬撃はその背後の太い木の枝をバッサリと斬りおとした。

 

 甚爾と呪霊はその場で睨み合いになった。

 

 ミヲの術式から鑑みるに、この呪霊(生前)が持っていた術式も当然、因果操作系だろう。呪霊に堕ちた今でもその力を使えるのだろうか? もしそうなのであれば無策のアドリブで突っ込むのはさすがにマズい……もっとも、因果に干渉して好き放題に操作するなどと言う無法の前に対策など意味をなさないかもしれないが。

 

 片や呪霊のほうも甚爾を警戒していた。

 ほぼ不意打ちとはいえ一級術師だった生前の自分を一撃で下している。呪霊となり生前の記憶の殆どを欠落してもなお、娘への妄執と伏黒甚爾への恐怖と怨恨は彼の中にこびりついていた。

 

 ジリジリとした厭な熱と雰囲気が場に満ちようとしていた。それを崩しにかかったのは甚爾の方であった。

 

「俺はお前みたいなグズが嫌いなんだよ。おい、言っとくがお前の娘は俺が殺すぜ」

 

 そう宣言した。確かな宣戦布告という訳だった。

 呪霊は忌々し気に歯噛みし、再び攻撃に移ろうとした。が、足元でミヲがかすかに呻き身じろいだことで姿を消した。

 

「あれ……私……甚爾さん、何かえっちなことしました?」

 

 地面に手をつきながら上半身を起こしたミヲは、寛げられた胸元を見、さっそくフザケたことを言う。だがその声に力はない。こっちの気も知らないで呑気な女だ。甚爾はやれやれと首を振った。

 

「殺すぞクソガキ。誰がそんなまな板に興奮するんだよ、名誉毀損で訴えるぞ」

「アハハ……ご迷惑をかけてしまったみたいですね。でも、放っておいてくれても良かったのに」

「ああ、俺も最初はそうしようと思ったけどな……大体な、飯も食わねえ夜も寝ねえ上にそんな厚着してりゃあ熱中症でブッ倒れるに決まってんだろこのマヌケ。俺に殺されたきゃまずは健康になれ! 不健康なガキ殺しても何の面白みもねえし、むしろマイナスなんだよ! 俺の評判に関わるんだよ! あーあとその長ったらしい髪も邪魔だ、そんなにゾロゾロ伸ばしてるから陰気臭くなるんだよ」

 

 急にキレ始め不躾な指摘を始めた甚爾へミヲは目をパチパチさせるしかなかった。そして、ちょっぴり……ほんのちょっぴりだけ自尊心が傷ついた。自分が同年代の中で浮いていたという自覚を今朝したばかりの少女に、女を見る目の肥えた男が容赦なく浴びせる指摘の数々は切れ味鋭い刃物同然だった。

 しかし、言い返そうにも事実なだけに無理だった。ミヲは口をへの字にしながらただ聞くしかできなかった。それでようやく搾り出せたのが以下の台詞だった。

 

「は、はぁ……でも私、そういうこと詳しくなくって」

「お前の親父の教育は素晴らしいよ」

 

 はぁーっと盛大な溜息を吐いてから甚爾は歩き出した。

 ミヲは訳も分からずにそれを追うしかなかった。

 

.




え~ん話が変な方向に転がってる~!
次回はミヲちゃん大改造回です(多分)
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