ころしちゃった!   作:ララミー牧場

7 / 8
日常回。
ところで原作甚爾くんは酔えないから酒が嫌いって言ってるんで恐らく煙草もやらないと思うんですけど、この話では吸ってます(私の個人的趣味で)。
フィジギフで内臓機能も強化されてるんだろうけど、考えてみると原作の甚爾くんは酒も煙草もやらんのでかなり健康的ですな。


#7

 

 甚爾は目についた美容院に入るとミヲどうにかしろと命じた。店長らしき男が出てきて「予約がないとどうにもできません」と言われた。年齢は自分より10は上に見えるが緩くうねった髪を明るい茶色に染めていて、着ているファッションも若い奴の流行物だった。美容師という職業上、本人も身綺麗にしておかないと説得力がないのは理解するが、それにしても無駄に若作りな印象だった。

 甚爾は静まり返る店内をぐるりと見渡してあくびをした。それから店長へ顔を近づけて言った。

 

「どうせ客なんていねえんだからいいだろ」

「で、でも」

「金は払う。あのガキがな。とにかくアレを連れ歩かないといけない俺の身にもなれ、分かったら適当に整えろ」

「はひ……」

 

 身長180センチ越え筋骨隆々の男に迫られてなお毅然と跳ねのけられる人物は限られている。相当な勇者か、もしくは相当な考えなしだ。その点で言えばこの店長は真っ当な判断力のある男だった。

 そそくさと店長が奥に引っ込むと代わりに若い女の美容師が出てきてミヲを手前の椅子に案内した。

 

「あの、甚爾さんがすみません」

「気にしないで、どうせお客がいないのは本当だし……ところであの人は? お兄さん?」

 

 ボブカットの美容師が甚爾をちらと伏し目がちな横目で見る。ミヲもつられて見た。甚爾は、ボブカットが自分に向ける色気を敏感に察知して余所行き用の笑みを瞬時に浮かべた。

 

「あーあの人は私をころ」

「まァ、兄貴みたいなモン。マジで悪いね、急にこんなこと頼んで」

 

 余計なことは言うなと目でミヲを制す。ミヲはそれきり黙り込んで髪を弄らせていた。

  

 

 気軽に美容院に入ったことを甚爾が後悔し始めた頃、ようやく全ての作業が終わった。壁の時計を見ると午後を過ぎていた。これだけ時間がかかるのならば予約がないと無理と言われるのも納得だった。

「どうですか?」と訊ねるミヲの腰まであった髪は肩口まで短くなっていた。真っ黒で重かった髪色も少し明るめになっている。呪いの日本人形からイマドキの女子高生レベルにはなったように思えた。

 

「俺はもっと短い方が──」言いかけて、ハッと口をつぐむ。ふと脳内に浮かんだイメージに郷愁と痛みを覚えつつすぐに振り払った。「マ、さっきよりゃマシになった」

 ミヲが会計をしているとさっきのボブカットがこっそりと連絡先のメモを渡してきた。別に断る理由もないので受け取りポケットにねじ込んだ。

 

 店を出ると日が少し傾き始めていた。

 次に服を買うために入ったショッピングモールの二階、女子高生が好きそうなブランドの店で甚爾は店員にミヲを押し付けてしまうと、通路奥に追いやられた喫煙スペースへ移動した。折からの嫌煙ブームの弊害か狭小のスペースにはくたびれた顔の男たちがぎゅう詰めになっている。家族連れの父親やカップルの片割れだろうか。自分も何かきっかけがあれば【あっち側】で安穏と暮らしていたのだろうか──。

 甚爾は適当に買った煙草の封を開けて1本取り出し咥えた。火を点け、肺いっぱいに吸い込むと溜息と共に紫煙を吐き出す。しても無駄な妄想は虚しいだけだった。

 

 数十分ほど適当に時間をつぶして戻ると、ミヲが大量のショッパーを抱えていた。

 

「甚爾さんどこ行ってたんですか」

「随分買ったな」

「お姉さんの口車に乗せられました」

 

 ミヲの恰好は例の暑苦しい冬服からいかにも夏らしい、爽やかな薄いブルーのロングワンピースになっていた。何も知らない人間が見ればそれこそ深窓のお嬢さんといった風体だった。

「どうせ死ぬからこんなの買っても意味ないですよ」と溢すミヲの目は未だに真っ暗闇だった。髪を切り服を着替えた所で、彼女の抱える気苦労や闇が晴れる訳ではないのだ。四六時中、死人に張り付かれ耳元で無茶を要求され続けているのだから無理もない。

 

「次は何をすれば良いんですか? どうすれば殺してくれるんですか」

「お前、俺が依頼を受けると言うまでつきまとうだとか何でもするって言っただろ。だったら黙ってついて来いよ……今さら別の人に頼みますってのもナシだからな。いや、俺はそれでも構わねえけど通帳は置いてけよ」

 

「……関わる人を間違えました」ミヲはあからさまに肩を落として息を吐きだした。「よく言われるよ」

 甚爾は傷のある方の口端をニヤリと吊り上げた。

 

 

 日はすっかり暮れていた。

 ファミレスに入ると店員は親子にも兄妹にも友人同士にも見えない2人連れにやや怪訝な顔をしたが、すぐに奥の空いているテーブル席を指定した。甚爾はメニューの片っ端からすべてを注文した。ミヲは例によって水だけで済まそうとしていたが、依頼を盾に半ば無理やり軽食を選ばせた。ミヲはそれも不満だったようで、下唇をムウと突き出した。

 

「意味が分かりませんよ。私は少しでも早く死にたい、私が死ねば甚爾さんはお金が入ってラッキー。win-winじゃないですか。なのに何故、こんなこと……」

「言っただろ。元から死にたがってるのを殺しても面白くねえんだよ。それに、なんかお前の口車に乗せられてまんまと自殺の手伝いをさせられてるようで気に食わねえ。その場合、得するのはお前だけだ」

 

 店員が料理を運んできたので一度、会話を打ち切る。テーブル上へ大量の皿が並べられていく。食欲をそそる肉の良く焼けた匂いが鼻を打った。甚爾は適当にフォークを取るとチキンソテーに突き刺し口へ放り込んだ。

 

「殺し屋のくせにそういうこと気にするんですか」

「殺し屋だからそういう所にツマランこだわり持たねえと長くやってけねえんだよ。知ってるか? 俺らみたいなのは長持ちしねえようになってるんだ。こなした数が5から上に行くと大方は精神的にやられちまう。だからくだらないゲン担ぎだのこだわりだので自分をだましだましやっていくしかねえ。お前ら素人は気軽に依頼してくるが、本来、生き物を殺すってのは色んな意味でコストのかかる行為なんだぜ……まァ、俺は例外だけどな」

「人の心とかないんですか?」

「ああ。そんなモンは捨てちまった」

 

 甚爾の前の皿はすでに綺麗になりつつあった。

 ミヲはグラスを傾けた。

 

「お前も案外、【こっち側】向きなんじゃないか」

「さすがにそれは笑えない冗談ですよ。私、人の心はあるつもりですけど?」

「そうだったな。親父がくたばって喜んでたもんな」

「じゃあ、今、私がこんなに辛いのはその罰ですかね」

「親父は地獄で喜んでるだろうよ」

 

 ミヲの背後で父呪霊が歯ぎしりしている。その手が包帯を巻いた細い首に巻き付いていた。だが、ミヲと呪霊の癒着は以前より多少はマシになっているようにも見えた。もっともほんの誤差程度だが。

 さっきのとは別の店員が新しい料理を運んできた。ミヲの前にもミヲが注文したホットサンドが置かれた。

 

「ぶっちゃけ、お前を殺すにはまずその後ろのをどうにかしねえとマズい。なにせお前は五条のガキに勝つために手塩にかけて拵えた極上の駒だからな。そんな簡単にワヤにするはずがねえ」

「甚爾さんも私に悟君に勝てって言うんですか?」

 

 ミヲがグッとこぶしを握り締める。唇がかすかに震えている。

「逆だ」甚爾は皿をスプーンで撫でソースの一滴までかき集めると口内へ流し込んだ。「無視しろ」

「無視?」ミヲが首を傾ぐ。

 

「五条家のガキも親父の言うことも全部無視しろ。殺して欲しけりゃそれが第一条件だ」

「でも……父さんが……」

「バァカ、親の言うことなんかいちいち聞かなくても死にゃしねーよ俺を見ろ……ああ、お前は死にたいんだったな。そりゃ失敬」

 

 携帯が着信を告げていた。ディスプレイに表示された発信者を見てやや顔をしかめながら甚爾は店外へと出て行った。

 ミヲは甚爾の言葉に新鮮な衝撃を受けていた。「親の言うことを無視しても死にはしない」そんなこと、今まで言ってくれた大人などいなかったからだ。窓の外を見ると、甚爾が誰かと会話している背が見えた。それを眺めながらミヲはホットサンドを一口、齧った。

 

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ブクマやしおりありがとうございます!励みになってます。
多分あと3話くらいで完結すると思いたいのでそれまで付き合ってもらえると嬉しいです。感想なんかも貰えるともっと嬉しいです。
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