じゃあこのお話は懐玉・玉折編の直近だよ。
そういうことにしといてください。
時雨さん出した時点で矛盾しとるヤンケシバクヤンケ
「……お前、ついに行くとこまで行ったな」
紫煙の向こうから孔時雨は呆れた目線を甚爾へ向けた。次に彼の横に座ってニコニコとしている少女を見る。親子にも兄妹にも見えない、どう見てもいかがわしい犯罪の匂いしかしない2人組だった。
「テメエ、何か勘違いしてねえか」甚爾が低く唸る。
「勘違いも何も」短くなった煙草をテーブルの盤面に押し付け揉み消し足元に捨てると、孔は新たな1本を取り出して唇の端へ挟んだ。火を点け一度煙を吸い込み吐いてから、改めて甚爾たちを眺めた。「援交だろ? JKはさすがに引くぞ」
完全に勘違いされていた。
「バカ、違ぇよ。これに手ぇ出すほど困ってねえよ」
「本当かあ? 育ち良さそうだしどっかの嬢ちゃんなんだろ? 懐かせて家の金でも持ち出させようって魂胆だろ? なあ、お嬢ちゃん」
時雨としては完全に軽口、ただの冗談のつもりであった。長年来の付き合いである甚爾がある一件以降、女のあいだを行ったり来たりしているのも、彼が引っ掛けるのがどんなタイプかも知っている。目の前にいる女子高生が甚爾の新しい女でないだろうことも理解していた。ただ、仕事の打ち合わせの場に同行させているのが物珍しく、それで突いてみることにしたのだった。そして結果として、地雷を踏むことになった。
「このガキのことは気にするな……俺の新しい仕事道具みてぇなモンだ」
「仕事道具だって?」
「初めまして。辻占ミヲと申します」
「お前もイチイチ名乗んな」
ミヲが口を開けばたいていややこしいことになることはここ数日の経験で甚爾も把握していた。後頭部をべしっと叩き黙らせようとする。
「辻占って」ミヲのフルネームを聞いた瞬間、それまでのニヤニヤ笑いがサッと消えた。「去年のか?」
去年の──ミヲの父の件だ。何を隠そう甚爾へその仕事を仲介したのも時雨であった。
黙り込んだ時雨を人差し指で指しながら甚爾はミヲへ言った。
「お前の親父の殺しを俺に持ち込んできたのはこの男だぜ」
「まっ。そうだったんですか? じゃあこの方にもお礼を言わないといけませんね」
「おー言っとけ言っとけ」
イカれた会話であった。
昼日中の競馬場の食堂でイカれた男とイカれた女がイカれた会話を繰り出している情景に時雨はすでにゲンナリとしていた。一番理解しがたくゲンナリするのは、甚爾がミヲ絵御比較的受け入れているように見える事だった。
「まァ……なんでもいい。昨日も言ったが仕事だ」
時雨は懐から数枚の写真を取り出しバサリと放った。映っているのは中年の男。細身で仕立ての良いスーツを着ている姿と、別の1枚では牧師のような格好をしていた。残りの写真は建物の写真。これまたいかにも宗教関連施設っぽい建物だった。
「また男か」親指と人差し指で写真を摘まみ上げながら甚爾は顔を顰めた。
説明によると、男は呪術師で宗教家で慈善家だという。「立派な人じゃないですか」とミヲが言うと、時雨はフンと鼻を鳴らした。口元が皮肉っぽく歪められていた。
「ああ確かに御立派だ。表じゃ慈善家として身寄りのないガキの支援をしながら、裏じゃあ自分とこのガキを売り飛ばしてんだからな。表でも裏でも社会貢献たあまったく頭が下がる思いだぜ」
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