相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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二章:太陽が眩しかったから 1

 翌日の昼、ハルキは自室のベッドで布団の温もりを堪能していた。横になってスマホを眺めながら無為に時間を過ごす。この時間がたまらなく好きだ。あとは、ゲームでフェンをボコボコにすれば、昨日すり減った精神も回復するに違いない。

 

 大きなあくびをひとつして、ハルキはSNSを開いた。今日のトレンドに「特別個体即討伐」の文字が踊っていた。どうやら市が発表したらしい。中身を見たら、市の広報が撮ったらしき写真がアップロードされていた。オライオンが精悍な顔で正面を向いている画像だった。

 

 記事には、差し当たりのない昨日の戦いのあらましが書かれていた。討伐者は四名。三人は匿名希望。ひとりは写真の男性――アッシュ・クリスタルラインとあった。

 

 ――はて?

 

 ある程度予想はしていたが、オライオンは偽名だったようだ。それはいい。探索者は偽名を使うことが多々ある。この街では偽物(フェイク)の方がよほど身を守ってくれる。問題は苗字だ。

 

 昨日、奈落へ行きがけの工場区画でよく見かけた、青地に白い剣を模したロゴを思い出す。企業連合体ユニオンにおける序列一位の集合体の一社、クリスタルライン社。その会社は血族経営だったはずだ。

 

 つまり、オライオンの正体は、クリスタルラインの血を引いた者、ということらしい。かなりの大物だ。あれが財界を牛耳る一角と言われれば、納得ではなく違和感しかない。

 

 どうやらクリスタルラインは育て方を間違えたらしい。まあ、ハルキ的にはあのオライオンの方が好みではあるから特に問題はない。

 

 ともあれ、ハルキはそろそろかとスマホで口座を確認する。五百万リルが振り込まれているのを確認し、にんまりとした。昨日、オライオンが賞金を辞退したのだ。助けてくれた礼と言っていたが、本当に三等分して振り込んでくれたらしい。まったく、かなりのお人よしだ。

 

 これで借金問題は解決。あとは頃合いを見てマナ結晶を売りさばけば、昨日のフェンの言ではないが、しばらくは遊んで暮らせる。まあ、下手に売ると厄介な輩に発覚するから、売り方は慎重にならなければならないが。本当にめんどくさい街だ。

 

 ひゃっふー、とフェンの雄たけびが隣の部屋から聞こえた。どうやら同じように口座を見たらしい。ぺたぺた、と足音を立てて来た童女が乱暴に扉を開いた。

 

「ハルキ! 五百万リル振り込まれたぞ! ぬしの方にも来たか⁉」

 

「来たよ。これでふたりで一千万リル。破産は免れたね」

 

 ひょい、と寝そべりながらハルキはスマホの画面をフェンへ見せる。満足げににまーとした彼女が、ベッドにどかんと座る。

 

「よし、ゲームをしようぞ! 今日は負ける気がせん!」

 

「ほう、また僕にボコボコにされる準備ができたと、そういうことだね?」

 

「抜かしよる。今日こそ泣いて我に縋りつくまでけちょんけちょんにしてくれよう」

 

 ふへへへへ、と不敵な笑みを浮かべたフェンがうにゃうにゃと両手の指を動かす。悲しいかな、弱者の態度である。桁間違いによる借金問題のこともある、ここいらで威厳を示しても良い頃合いだろう。

 

 のそのそとベッドから起き上がり、ハルキはリビングへ向かう。とてとてとついてきたフェンと一緒にゲーム機をセット。ソファーに並んで座り、対戦ゲームを開始した。

 

「ぬしよ、我は天啓を受けた。どうにも負ける未来がまったくこれっぽっちも予想できぬ。覚悟することよ」

 

「悔いの無いよう全力で来なよ。叩きつぶしてあげるから」

 

 一時間が経った。隣のフェンは泣きべそをかいていた。

 

「ちょ、まっ……画面端は無し! なっ、なんと無慈悲な! ハメは無しだろう!」

 

「フェン、ゲームは仕様がルールだ。ハメ無しなんて温すぎるよ」

 

「ひよってる、もうひよってるから! そこで超必殺技はやめい!」

 

「獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くすんだ。もちろん、僕も例に漏れない」

 

 液晶テレビの画面上では、勝者であるハルキのキャラクターを賞賛する演出が流れる。隣にいたフェンは、なぜか床に落ちて四つん這いになってうなだれていた。ぞくぞくするほどの優越感だ。

 

「我、十連敗……」

 

「修行が足りなかったようだね」

 

「なんと無情な世よ。力が強くても勝てないことが山ほどあるとは……」

 

「真理を悟ったね。またひとつ賢くなれたわけだ」

 

 この上ない愉悦を感じる。昨日までの疲れが吹き飛び、万能感がハルキを支配する。ああ、勝者にはご褒美が必要だ。高級アイスを貪り食えと、糖分を消費した脳が囁いている。

 

「さて、僕はより勝利の美酒を味わうためにアイスを買ってくるよ」

 

「我も食べりゅぅ!」

 

 即座に復活したフェンがハルキの膝に縋りつく。

 

「だから我にも買ってくりゃれ?」

 

 ハルキは、人生でこれほど穏やかな表情はできただろうか、と思うほどの微笑をたたえ、フェンの肩に手を置いた。

 

「敗者は敗者らしく自分で買いなさい」

 

「うお~ん!」

 

 フェンが泣き出した。どうせウソ泣きだ。出かければ勝手についてくるだろう。ハルキは喚く童女の手を剥がすと、上着を着て玄関へ向かった。

 

 

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