相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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序章:人でなしの街は住みにくい 2

 夕日を高層ビルが反射する。煌びやかな見慣れた都市に入る。車の往来が激しくなり、街路を多様な種族が歩いている。

 

 市庁舎に近づくと、黄金色の四本の棒が螺旋を描き、天へと伸びるオブジェが見えた。市庁舎には「新時代の都市、ケイオスシティへようこそ!」という横断幕が風に揺れていた。建物の屋上には、それぞれ異なる四種の国旗が掲げられている。

 

 ハルキはオフィス街を外れ、運転する車を商業区画へと向ける。あちこちでネオンが踊り、中空では立体映像のモデルが華やかなポーズを取り、ファッションを宣伝していた。

 

 その真下では、十人以上の集団が街路を塞いで練り歩いている。先頭のふたりが横断幕を掲げていた。幕には蛍光の赤文字で「ユニオンの経済的搾取を許すな!」と書かれていた。

 

 華やかな街の表層と、市民の怒号。どうやら今日もケイオス市は平常運転らしい。

 

「フェン、提案があるんだけど」

 

 隣に座る童女は、スマホを操作しながらなにやら唸っていた。

 

「ふむ、聞こうか」

 

「専用の武器を買ったらどうだい?」

 

 ぬっ、とフェンが身を乗り出す。緑色の目には驚きと喜びが見え隠れしている。

 

「良いのか⁉」

 

「毎回拳銃を修理に出すより、フェン専用の武器を買った方が安いと思ったんだよ」

 

 今回に至っては修理ではなく買い替えだろう。これで十万近くの金が飛ぶのだからたまらない。

 

「思い立ったが吉日、すぐにボン爺さんの店へ行こうぞ!」

 

 いまにも踊りだしそうに両手をわきわきとさせるフェンを見つつ、ハルキは釘を指すのを忘れない。

 

「予算はフェン用の口座に入っている百万リルだ。それ以上は駄目だよ?」

 

「万事において問題なし!」

 

 至った経緯が問題だらけなのだが、フェンが嬉しそうならばハルキもこれ以上は口出ししない。

 

 大通りから脇道に入り、古物商のような装いの店の駐車場に車を止める。すぐさまフェンが扉を開き、外に出ると店に向かって走り出した。オモチャを見つけた童女そのものだ。苦笑しながらハルキも車を出て店に入る。

 

 店内はあらゆる銃に魔杖装(まじょうそう)、宝珠が乱雑に置かれていた。ハルキは吊り下げられた値札を見る。七桁や八桁の数字が見え、早速頭が痛くなる。

 

 魔杖装は宝珠を核とした、武器であり杖だ。人類の身では再現が難しい魔法を手軽に扱えるようにする。フェンは魔杖装なしで魔法を使える珍しい存在だが、当人の気分で素手では使いたがらない。お陰様で、毎回ハルキの拳銃を借りては壊し、借りては壊しで金が減る一方だ。

 

 これも必要な投資だ、とハルキは思い込むことにした。

 

「お、なんじゃハルキか。また拳銃の交換か? それとも《支配するイデア》の修理か?」

 

 脇からにゅ、と姿を現したのは、身長一メートルほどの狸のベスティアだ。店主のボンだった。ところどころ痛んだ茶色の毛を撫でながら、くりっとした愛らしい瞳でハルキを見上げている。

 

「やあボン爺、今日は銃の交換と、フェン用に武器を見繕ってもらおうと思ってね」

 

「ほほう、お前さんが魔杖装を購入とは、イデア以来だな。フェンならば色々と使えるだろうよ。いいものを売ってやろう」

 

「予算があるんだ。下手なものは売りつけないでよ?」

 

 壊れた拳銃を差し出しながらハルキは伝える。

 

「わしは商品に対しては誠実じゃ!」

 

 受け取ったボンが奥に引っ込み、しばらくして新品の拳銃を持ってちょこちょこと歩いてくる。

 

「ほれ、新品。支払いはいつものでいいのか?」

 

「月末払いで頼むよ。領収書も忘れずにね」

 

「分かっておる。お前のスマホに送っておいた」

 

 拳銃を受け取り、スマホを確かめる。ちゃんと領収書と契約書が届いていた。中身をしっかり確認し、了承する。また月末に十万近い無駄な引き落としが増えたな、とハルキはため息する。

 

「ハルキ、弾は足りてるか? ついでに買っていくといい」

 

「銃の方もイデアの方もまだ家にあるよ」

 

「マナ除剤(じょざい)はどうだ? 奈落探索なら必須の品だ。抗マナ侵食剤もあるぞ?」

 

「それもまだあるよ。というか、いつから薬まで扱いだしたんだい?」

 

「うちは奈落探索者用の店だからな。レジ付近に置いておけば売れると思ったんじゃ」

 

「コンビニのガムみたいな扱いだね……」

 

 ふと、ハルキは用事を思い出す。フェンの姿を探すと、店の奥で魔杖装を真剣な眼差しで眺めていた。

 

「フェン、これから警察に行かなきゃいけないんだ。帰りはどうする?」

 

「ふむ、盗賊団の件か」フェンはちらりとハルキに目をやって、すぐに棚へ視線を戻す。「任せてよいならお願いしたい。我はここで良い品を見つけたら徒歩で帰宅するとしよう」

 

「夜の街は危ないよ」

 

「ぬしよ、我を見た目通りの童女扱いした者どもの末路は知っていよう?」

 

 フェンは見た目こそ十二程度の童女だが、その実力は大の大人を軽く凌ぐ。街のごろつき共に絡まれたときには、一分もかからずひとりで制圧したほどだ。彼女にとっては、ハルキなどボディーガードはおろか牽制要因にすらならない。

 

「分かってるよ。でも相棒の身くらい案じるさ。まあ、大丈夫ならもう行くよ」

 

「よいよい、ハルキの優しんぼはいまに始まったことではない」

 

 しっし、と手を振るフェンに踵を返し、ハルキは店を出て車に戻った。

 

 太陽は落ち、宵闇が暗幕を下ろす。夜の街はあまり好きではなかった。

 

 

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