相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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三章:消え失せよ、むなしき光 5

 南セクターに近いホテルの一室。夜が明け、換気用に開けた窓から朝の瑞々しい空気が入り込む。

 

 三つ並んだベッドの一番窓際、ハルキは壁に寄り掛かりながら空を見上げていた。まだ時間が早いからか、藍色の空にはうっすらと月が見えた。

 

 ハルキは視線を中に戻す。真ん中のベッドでは、いましがた布団を蹴とばしたフェンが枕を抱きしめて眠っている。オライオンはコンビニへ行く言って出ていったばかりだ。

 

 考えがまとまらない。ハルキから見た現状が詰んでいるからだ。ユニオンとマフィアに追われ、それでも活路を見出せる者がいるなら見てみたいくらいだった。

 

 頭が混乱していた。まずは情報を整理する。

 

 敵はルヴェイン社。市を実質支配する企業連合体ユニオン、その中でも、マナ採掘からマナ精製と魔杖装の事業を主とする、クリスタルライン系集団の序列第二位。

 

 いま市を賑わせている労働者団体、そして弁護団から訴訟の手続きを受けている真っ最中。そして、その最大の証拠になり得る違法な死体置き場をハルキたちは発見してしまった。

 

 ハルキが知る限り、ユニオンは実力主義の集団だ。瑕疵が重なれば切り離される。つまり、ルヴェインはいま後がない。死ぬ気で口封じにくるだろう。

 

 先兵となるのは、北の亜人系マフィアT3。人身売買、麻薬密売、売春斡旋の三つの悪行によって財を成し、北セクターを縄張りとする巨大な裏組織。

 

 ルヴェインとの繋がりは、おそらく人身売買だろう。人材派遣を装い、裏では孤児やホームレスを斡旋して上前を跳ねている。

 

 おや、とここで疑問が浮かんだ。

 

 スマホを取り出しニュース画面を開く。つらつらと字面を追うと、違和感の正体が判明する。

 

 ――なぜT3から斡旋された人材が問題になっている?

 

 斡旋する人材の扱いが商品というのは、倫理観を無視すれば理解できる。だというのに、どうしてニュース上では被害者遺族が訴訟集団に混ざっている?

 

 孤児やホームレスに遺族などいるはずがないのに。

 

 結論、ルヴェインは派遣された人材を、種類を問わずに使いつぶしている。

 

 T3は派遣元であるから、ルヴェインに従わざるを得ない。下手に訴訟が大きくなり、取引の繋がりから裏のやり取りが見つかれば法の圧力で潰される。

 

 さてさて、とハルキは笑う。これは生き残る余地がでてきた。

 

 控えめに扉が開く。オライオンが戻ってきたようだ。思考を中断する。お楽しみはみんなで考えるとしよう。

 

 オライオンが袋を掲げて見せる。三人分の朝食だ。

 

 突如、ふんふん、と鼻を鳴らしたフェンが上半身を起こす。

 

「ご飯ッ!」

 

「なんで包装されたコンビニの商品に匂いで気づくんだろうね」

 

「なに、しっくすせんす、という奴よ。さあ、朝食にしようぞ」

 

 さあさあ、とフェンが両手を器にしてオライオンへ向けた。物乞いの姿そのものである。

 

 喉で笑ったオライオンがフェンへ食べ物を渡していく。ハルキもサンドイッチを受け取り、包装を剥がして食べ始める。旅行みたいで悪くはない。

 

「ぬしよ、やっぱコンビニのご飯は格別よのぉ。しばらくコンビニにせんか?」

 

「高いから駄目だよ。うちにそんな余裕はありません」

 

「我、今度はカップ麵食べたいなぁ」

 

 いいな、と元御曹司が同意する。

 

「夜食べるカップ麺は上手いぞ~。なんか悪いことしてる背徳感がたまらないんだよな」

 

「いいのぉ。夜カップ麺、やってみたいのぉ。いつもハルキに反対されてやったことがないのよ」

 

「よし、今回のことが片付いたらカップ麺大会しようぜ!」

 

「いいの! 我、カップ麺のためなら頑張れる……!」

 

 企業とマフィアを相手にした後に待つのがカップ麺大会とは、ちょっとしょぼすぎないだろうか。まあ当人たちが良ければそれでいい、とハルキは考えを放棄した。

 

「さて、作戦会議をしようか」

 

 お、っとフェンとオライオンの目が光る。

 

「さてはハルキ、なにか掴んだな?」

 

「さすがぬしよ、企業とマフィア、どちらを潰す? あるいは両方かえ?」

 

 フェンの発言が物騒すぎる。一体自分をなんだと思っているのか、小一時間ほど問い詰めたくなる。

 

「攻め方は決めてないよ。ただ、ルヴェインとT3の繋がりの中にある穴は見つけた」

 

「というと?」

 

 オライオンが先を促す。

 

「ルヴェインとT3はたぶん仲良くない。発端は訴訟問題だね。あれがT3にとっては分水嶺だったはずだ」

 

 まずは前提の共有だ。そして細部をつまびらかにしていく。

 

「T3は人材派遣と人身売買の両方をルヴェインを顧客として商売をしていた。だけど、当のルヴェインはこの両方を使いつぶした。T3からしたらどう感じるだろうね。オライオン?」

 

「マフィアの論理は知りたくないが……裏の事業が訴状に追加されたくはないだろうな」

 

「だから本音はこう。関わりたくない。だけど取引情報がそれを許さない。ルヴェインが法に叩きつぶされれば自動的にT3にも塁が及ぶ。それは避けたい」

 

 サンドイッチを指ごと頬張ったフェンがぺろりと指を舐める。

 

「マフィア共としては、大事な大事な商品が使いつぶされておる。しかも表向きの仕事の大事な人材よ。しかも自分で汚したケツを拭けと言われる始末。普通なら、怒るわな」

 

「仮に、僕らを始末したところで訴訟は止まらない。そもそも、僕らは訴訟に関知していない。僕らはただルヴェインの痛いところを公開しそうになった。しかも直接じゃなく間接的に。それだけでこの有様だ、まったく迷惑なものだよ」

 

 オライオンの思案顔。

 

「だが、ルヴェインは止まらないぞ? ユニオンから外れるかもしれない、これだけでもうまともに頭は機能しない。T3が動かなきゃ、最悪ルヴェインの暗部が動き出すかもしれない。ルヴェインの自滅を待つのは無理だ」

 

「そうだね。ルヴェインへ交渉するのは無理筋。ならT3へ交渉しようか」

 

「マフィアと交渉か……マジかハルキ。マフィアだぞ? ミスれば殺されるぞ? いや、殺されるならまだマシな方だ」

 

「下手に動けば殺される。止まっても殺される。なら――」

 

 あがくしかないよね?

 

 ハルキの言葉に、オライオンが頬を引きつらせた。

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